田左衛門大明神


「血筋ですかね……若鷹と同じ……どうしたら自らの立場を一番と考えられるのかしら……愚かは不幸を招くのに……」

「熊鷹さん、金長一族、いや金長一家から抜けておかれることを勧めます」

「いまの白鷹には説得は無用、あれでは事実を知ればさらに激高するでしょう」


「……いま一度……たのみがある……今日は……ここに泊まってくれないか……昔のように……」


 ?


「頼む……後生だ……」

 熊鷹は多少蒼い顔でそういった。


 三好糸女は泊まることにした。

 勿論、用心しての上だがチョーカーの力を知っているせいもある。

 深夜、糸女は熊鷹の部屋に客がきたことを知った。


「糸女は?」

「おやすみいただいた」

「そうか……大変なことになったな……しかし糸女が先に、我らに相談してくれて助かった……」

「田左衛門大明神……会わなくてよいのですか……」

「会ってどうする……いまさら養父面もないであろう……」


 お養父様?


「しかし、貴男が……」

「確かに糸女は育てた……母親に託されたからだ……その昔、私は行き倒れになった時、あの先代の糸引き娘に助けられた……彼女はしがない狸の儂に握り飯をくれた……あの時、彼女も飢えていたのに……」


「なおさら会わなくては?」

「いや、忘れるように術をかけている、それに先日こっそりと会いに行った……」


「美しかった、優しい娘になっていた……もう思い残すことは無いのだ……あの世で、あの娘の母親に報告できる……熊鷹よ、長い付き合いだった……これでおさらばだ……」


 おさらば?何の事?

 糸女は思い出した。

 母が死に、まだ幼い糸女を育ててくれた人がいた……肩車をしてくれた……忘れていた……なんと愚かな私……


 その方が、私を熊鷹に頼んでくれたのに……

 そう、糸女は熊鷹の屋敷で下働きをして育ったのだ、結構キツイ仕事だった。

 若鷹が襲ってきたことがあったが、その時は熊鷹が守ってくれた。


 みじめな思いも数多くした、でも今から考えれば待遇は良かった……特別だったのだ……


 とにかくいま止めなくては……お養父様……幼い日に会っただけのお養父様……

 糸女は廊下に正座して待つことにした。

 そして田左衛門大明神は、熊鷹の部屋から出てきた。


 田左衛門大明神は、廊下に平伏している娘を見た。

「お養父様ですね、糸女です、今の今まで忘れていた親不孝の娘ですが、これからは孝行を尽くさせていただきたいと思います」

「はしたないですがお話が聞こえました、死んでもらっては困ります、なんとしてもここは通しません!」


「糸女……ありがたいが……いかせてくれ……このままでは、金長一族は族滅となる」

「いかせません、金長一族は、どの道解散しなければなりません」


「白鷹をご存じでしょう、若鷹とそっくりです、あれではルシファー様の逆鱗に触れます、その前に執政が黙っていないでしょう……」

「そんな者に、お養父様が共倒れなどすることはありません!」


「しかし……だれが白鷹を止めるというのだ、あいつは強いぞ……」

「私が止めて見せましょう」

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