金長の四代目

 

「あの事件の真相を、四代目は知らないのでしょうね」と松野さん。

「多分……知っていたら、こんな要望書は出さないでしょう」と糸女さん。

「真相を、表に出すわけにはいかないですね」と松野さん。


 糸女さんは、

「当然でしょう……ただでさえ仲が悪いヴァンパイア族との関係が、さらに悪くなるわ……へたをすればミコ様への非難が出るかもしれない……」

「執政に相談しましょうか?」松野さん。


 糸女さんは、

「無用ね、どちらの執政が知っても、金長はそれこそ消されるわよ……」

「クロウ・ジャンヌ様……ですか……」と松野さん。


「熊鷹さんは知っているのかしら?」と糸女さん。

「どうでしょうか……でも……知らないかと思いますね」と松野さん。


 糸女さんは、

「でしょうね……、内々で会ってみましょうか」

 

 熊鷹さんは引退して、タナトス・シティ郊外に住んでいました。

 アポイトメントをとり糸女さんは会いに、熊鷹さんは待ってくれていました。


 熊鷹さんが、

「今を時めく保険教育局長が、このしがない老人に何の用かな?」

「お元気そうですね、でも今回の用事は内々で、事を急ぎます、これをご覧ください」

 金長神社設立要望書を差し出した糸女さん、それを受け取った熊鷹さん……


 要望書を呼んだ熊鷹さんが、

「これはまずい……折角ないことにしたのに……例の一件が表に出るぞ……」


 糸女さんが、

「表に出なくても、執政に提出されれば……金長一族には大変な災難が降りかかりますよ」


「じゃな……へたをすれば……」と熊鷹さん。


 糸女さんは、

「今の若い方々はヴァンパイア族の力を知らない、ミコ様に服属しているから大人しいだけで、もしミコ様にたいして、不遜な行動がおこれば……」


 熊鷹さんは、

「瞬殺じゃ……白鷹の愚か者め……すまなんだ、あ奴は知らないのだ……」


 糸女さんが、

「ここは知らせないほうがよろしいかと……この惑星ヴィーンゴールヴには『人』はいない……祭る者がいない……このあたりで説得したほうが、良いかと考えますが?」


 熊鷹さんが、

「そう云ってくれるのか……助かる……あんたには、迷惑ばかりかけるな……若鷹のおかげで……」


 糸女さんは、

「いいのですよ……それにもう亡くなった方ですから……あのような最後を遂げられたら恨みも消えます」


 熊鷹さんが、

「とにかく白鷹は近所に住んでいる……ここに呼ぶので、先ほどの方向で説得してみてくれぬか……いまでは儂の話など、奴は聞く耳を持っておらんのじゃ」


「叔父上、お話とか……」

 白鷹がやって来ました。

 若い狸で人型となっています。


 熊鷹さんが、

「お前、金長神社設立要望書なるものを、保険教育局に提出したとか、ここに局長が来られている」


「保険教育局長の三好糸女です、貴方が白鷹さん?」と糸女さん。

「そうです、で、どうなのですか!」と白鷹。


 糸女さんが、

「結論からいいますと、難しいということです」

「この惑星ヴィーンゴールヴには『人』はいない、正一位金長大明神を祭る者がいないのです」


 白鷹は、

「そんな……初代金長は歴史上の人物、それなりに狸に貢献したはず、これでは狸族が黙っていませんよ!」

「保険教育局長は、金長一族をないがしろにされるのですか!」


 糸女さんが、

「ないがしろにはしませんが特別な扱いもできません、このモンスター地区には、いろいろな種族が肩を寄せて生活しているのです、理解して下さい」


 白鷹が、

「叔父上!こんな糸引き娘の言い分を聞かせる為に、私を呼んだのですか!不愉快です、私は帰る」

「金長神社設立要望書は執政に提出する、認められねば抗議運動を起こす!金長一族を侮辱するな!」


 そして激高して、帰っていきました。

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