執政の望み


 休暇明けのお仕事の日、ジャンヌが出勤すると、アンネリーゼが待っていました。

「ワータイガー、処分したの?」


「ご迷惑をかけました、あれから勝手に死にました」

「ミコ様から授かったこの新世界、あのようなものは不必要とは思ったりしましたけどね」


「クロウ・ジャンヌですか?」

「私はどのように言われても気にしません、ここであのような者に好き勝手させる訳にはいかないでしょう」


「ミコ様は、いわゆる『ちんぴら』は毛嫌いされています」

「もしこのモンスター地区に暴力集団が出現したら、必ず隣のヴァンパイア族が動員されます」

「その結果は想像が出来るでしょう?」


「ヴァンパイア族は喜ぶでしょうね……」

 と、アンネリーゼ。


「アンネリーゼさん、多分ミコ様は心の底ではモンスター族よりは、ヴァンパイア族の方が可愛いと思われているはず……私たちの立場は危うい……」

「……」


「ミコ様はそこまではないと思っているのでしょう、確かに私もそのように考えます」

「しかし私は用心深い……最悪を常に考えているのです」


「ジャンヌ……貴女が同僚で良かったと思うわ……」

「私も貴女がいてくれてよかったわ、本当はこんなことは嫌なのよ、静かに生活したいのよ、普通に生きていたいのよ」


「そんな私が何とかやっていけるのも、貴女が前を歩いてくれるからなの、心より感謝しているわ」

「貴女の行動力が無ければ、私は何もできないかもしれない」


 アンネリーゼはモンスター地区の第一執政、その辣腕は誰もが認めています、しかも冷酷な所も……

 しかしジャンヌの冷酷さは、その上を行っている……


「静かな生活は無理よね……ミコ様の女になった以上は……それにしてもミコ様はきついわね、貴女も私も兼務だらけ……」

「せめてマルスのハウス・バトラーは、誰か変わってくれないかしら……」


「おいおい代わっていくでしょう、愛人になれれば、役職は免除されるそうですし……」

「愛人ね……それこそいつになる事やら……」


「あら、私は目論んでいるのよ、私のヴァージン捧げた方ですもの、ジャンヌ・マルグリット・ブリジット・マリー・キッカワになるつもりなの」

「なるほど……妻の立場になりたいのね?」


「ささやかな望みなの」

「いや壮大な望みと思うわよ」

「そうかしら……」

「そうです、でも、その為にはこのモンスター地区、そしてモンスター・ハウスの地位の向上が必要ね」


「ねえ、アンネリーゼ、貴女はどう思っているの?」

「何を?」

「愛人……」


「当然なりたいと思っているわ……ミコ様の女になったのですから……私もアンネリーゼ・フリードリヒ・キッカワと呼ばれたいわよ」

 アンネリーゼは、ニヤッと笑って云いました。


「ジャンヌ、ヴァラヴォルフ族はモンスターを守るの……そしてそれが評価されて、愛人になれればベスト……」

「つまり……目的と仕事は一致している……」


 二人の執政は見つめ合い笑ったのです。


「ただね、お仕事も大事だけど、アフターファイブの技術は磨かなくてはね……互いの情報は交換すべきでしょう?」

 アンネリーゼの言葉に……


「仲良く一緒に愛人に、抜け駆けなしと思っていいのね?」

 ジャンヌは返事しました。


    FIN

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