殺戮の天使


「ご用件を……」

「用件?俺を侮辱したんだよ、落とし前をつけてもらいに来たのさ!そいつの上司でもいいぜ!」


「どうしたの!」

「アンネリーゼ様、この方がドルレアンって方をだせと……」

「ドルレアンの?いいわ、私が相手をしましょう、上司のアンネリーゼです、こちらでお話を伺いましょう」


 で、別室でワータイガーは司直に引き渡されたのです。

「俺はなにもしていないぞ!」

 話を聞きつけ、ジャンヌがやって来ました。


「執政、この男を侮辱したとか、本当ですか?」

「さぁ、あれが侮辱なのでしょうかね?」

「この方は、私にものすごい顔で、土下座して謝れと怒鳴ったのですけれど……」


「土下座はしませんでしたが、あまりに怖かったので謝ったのです」

「そして事を荒立てないでと、お願いしたのですが……」


「分かりました……それで十分です」


「お前、殺してやる!」

 逆上したワータイガーは、ジャンヌに殴り掛かってきました。

 勿論、チョーカーがジャンヌを護ります。


「痛い!」

 『赤いソード』が、ジャンヌの血を吸ったようです。

 赤い霧が狭い部屋の中で発生しました。


 あれ、ミスト・オンなど唱えていないのに……

 ワータイガーが、じりじりと刻まれ始めました。


 今度はルー・ガルーよりもさらに残酷、なかなか死なないのです。

「助けてくれ!」


「止め方を知らないのよ、仕方ないわね」

 と、目の前の惨劇にも動じることなく、のんびりと返事するジャンヌ……


「お願いだ……」

「だから知らないのよ、それに屈辱した相手に、泣きを入れるの?」

「だから謝るから……」

「私はそういったけど、貴男はどういったの?」


 ワータイガーの足首がなくなりました。

「ここで止めたとして、貴男は感謝などしないわ、それにね、私を屈辱した貴男を許すと思うの?」

「自分からは何もしないけど、値打ちのない者は助けない、それが私が学んだ教訓」

「悪魔め……」


「自らの行いです、結果を受けるべきでしょう」

「なにも考えず、他人に文句をつけたのですよ、相手を女と思い、そして弱い存在となめてかかった……」

「いま私を、悪魔とののしったようですが、私は何もしていません、貴男が招いた事です」

 

「……」


「あら、いやだ、もう死んだの?」

 ワータイガーの死体は、急速に消えています……

 そして切り刻むものがなくなると、赤い霧が消え、『赤いソード』が現れたのです。


 側で見ていた司直は、震えあがっていました。

 何が恐ろしいかとといえば、ジャンヌがほほえみを浮かべ優しい顔で、もだえ苦しむワータイガーを見ていたことです。


 泣く子も黙るクロウ・ジャンヌ……

 殺戮の天使……


 色々といわれていますが、ここはモンスター地区、ワータイガーみたいなのが、うじゃうじゃいるのです。

 ヴァンパイア族は恐ろしい存在ですが、ある意味紳士淑女の一団、ですがこちらの方は……


 リュシエンヌさんが、

「あのガサツな男は、どうしたのでしょうね……」

「あの方、執政官府に乗り込んできましたが、司直の方に捕まりました」

「あんな奴、死ねばいいのに……」

「そうですね」


 そんな会話の後、リュシエンヌさんは帰っていきました。


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