ワータイガーはほんと醜い


「まぁまぁ、アエローさんは今幸せなのですよ、今さら波風など立てないでしょう」

「衣食住が満ちたればそれで満足しなくてはね……それ以上は身を滅ぼすものですよ」

 案外に見るところを見ているジャンヌです。


 こんな会話が交わされたのですが、この後、ちょっとした事件が起こります。


 なにか入り口で怒鳴り声がします。

 すごい顔で、誰かが店員さんに難癖をつけているのです。


 アエローさんが、「少し見てきます、失礼いたします」といってかけていきました。


 どうやら、お肉がまずいとか固いとか……ワータイガー、つまり虎憑きが暴れているようです。

「どうしてこれがまずいのかしら?おいしいのにね」


 ジャンヌさんのこの一言が聞こえたようで、ワータイガーが激高して走ってきました。

「なんだ!俺は味がわからないというのか!おっっっ、そんなこといわれたら、誰でも頭に来るぞ、お前もいわれれば腹が立つだろうが!」


 リュシエンヌさん、内心、そんなことでは誰も頭になど来ないわよ……それにしても醜い顔ね……怒りに狂うと、心が顔に出る物ね……ほんと醜いわ。

 でもこの虎憑き、馬鹿じゃないの、相手がだれか知っているのかしら。


「ごめんなさい!許してください、お願いします」

「じゃあ、ここで土下座でもしろ!」

「それはできませんが、許してくださいな」

「お前、どこの者だ!」


「執政官府に勤めていますが……」

「名前は!」

「ドルレアンと申しますが……」

「分かった、後で行くからな!逃げるなよ」

「事を荒立てたくないのですが……」

「お前が悪いのだろうが!おぉ!」


 これだけ云うと、ワータイガーは行ってしまいました。


「ジャンヌ様、なんですぐに謝ったのですか?」

「だって怖いじゃないの、私、臆病者だもの」

 その割に、ジャンヌはせっせとお肉を食べていました。


 ワータイガーは、のこのこ執政官府に怒鳴り込んできました。

「ドルレアンって女をだせ!」

 受付の女性の前ですごんでいます。

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