第四章 糸女の物語 金長騒動
金長神社設立要望書
三好糸女(みよしいとじょ)、阿波の妖怪糸引き娘。
百歳は超えていると思われるが、いまでは惑星ヴィーンゴールヴのモンスター地区福利厚生責任者。
その糸女(いとじょ)の元にある要望書が届いた。
それは一度闇に葬ったある事件を蒸し返すもので、まかり間違えばモンスター地区存続をも揺るがす恐れがあった……
* * * * *
三好糸女(みよしいとじょ)は、惑星ヴィーンゴールヴのタナトス・シティに住んでいる。
阿波の妖怪糸引き娘であったが、いまでは惑星ヴィーンゴールヴのモンスター地区福利厚生責任者、つまりは保険教育局長になっていた……
今日もあちこちからの要望書、予算の執行、次年度の予算編成など、山のような書類と格闘している。
「ねぇ松野(まつの)、この要望、どう思う?」
副局長の嘗女(なめおんな)、猫田松野にある書類を渡した。
「金長神社設立要望書?」
「金長大明神を祭ってほしいということでしょうね……」
「なんで保険教育局に?」
「設立趣旨が、モンスター族の歴史資料を実地見学させ、併せて祭礼などの文化を存続させる、となっているの」
「……でも……ここには『人』はいないのだから、少なくとも祭礼は無理ね……」
「いろいろ書かれているけれど、要は金長大明神を、ここモンスター地区で祭れ、と言うことになるわね……」
「誰が要望しているの?」
「藤の木の白鷹」
「金長の四代目ね……よくもこんな要望書など出せたものね……」
「私は知らないけれど、初代の金長はそれなりの方だったというのにね……」
「教科書に載っているだけでいいでしょうに」
「二代目の小鷹はそこそこの方だったわよ、幼いころに会ったことがあるわ……でも三代目の若鷹は……」
「あの時はひどい事になったわね……ヴァンパイア族って、あんなに恐ろしいなんて……ブラッド・メアリーのゾーイ……」
「若鷹は身の程知らずなのよ……折角私たちが何とかここに移住できるように、ルシファー様にお願いしたのに……」
「あの時ね……」
二人は惑星ヴィーンゴールヴ移住の時の、ある事件を思い起こした……
当時、日本の妖怪たちは、惑星テラから惑星ヴィーンゴールヴへ移住できるようになったところだった。
東京ゲストハウスと呼ばれた、モンスター族の日本におけるハレムの地下からシャトルが出ており、惑星テラのアイスランド、レイキャネース・ハウスよりローマ・ダチア宇宙鉄道というものに乗り、移住できるようになったばかり。
第一陣として阿波の妖怪たちが指名されたのだ。
その管理官として、ヴァンパイア族のブラッドメアリー・ハウス・バトラーのゾーイがやってきた。
移住は深夜に行われることになっている。
当時、糸女(いとじょ)は側女になっていた。
モンスター族の日本における移住事務の担当官として、ルシファーから、
「面倒をおこす者は即刻にテラへかえしなさい、いいですね、それでも愚図愚図言う者は拘禁して、強制的に戻しなさい」
と、いわれていた、それはゾーイも同様であった。
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