ハルピュイアの願い


 中庭にハルピュイア――胸から上が女性の鳥、『アルゴ号の探検』や『神曲』に出てくる。作者――が降りてきたのです。

 ハルピュイアは、ジャンヌをじっと見つめています。


「ジャンヌ様……」

 リュシエンヌさんがかなり怯えていますが、

「ねえ、私も狼女なのだけど……」

「……そうでした……でも……どうしてここに?」


「貴女には、そろそろ喋ってもいいでしょうね……このシュノンソー城の地下深くには、ステーションがあるのよ」


「東京ハウスから、ロシアのミハイロフスキー城、プロイセンのケーニッヒベルク城、ドイツのファルケンシュタイン城、フランスのシュノンソー城、イギリスのウォリック城を経由で、アイスランドのナーキッドの根拠地につながっているの」


「もうすぐ東京ゲストハウスが開設されるのよ、この地下シャトル網をフル回転させて、マルスへつながる宇宙間連絡鉄道へ運んで、移住するのよ……」


「ナーキッドは……このテラを離れるのですか……」

「このテラに居ては人類は滅亡するそうよ……カスタロフィは避けられない……」

「フランスは大丈夫なのですか……」


「ナーキッド加盟の国は、何とかするつもりのようよ、でも非加盟国は……ひどいことになりそうね」

「……」


「ミコ様はテラの生物の存続をお考えなの、それはハルピュイアなども例外ではないの……」

「では、あの鳥は……」


「この間、ヴァンパイア総族長の名前で、ヴィーンゴールヴ移住を希望する者を募ったの」

「ヴィーンゴールヴ?」


「人類はマルス、人外の者はヴィーンゴールヴが移住先なの……」

 そしてジャンヌは、

「ハルピュイア……人型が条件のはずでしょう、この人間の娘が、怯えていますよ」


 するとハルピュイアは人型になり、

「失礼しました、私はアエローと言います、ヴァラヴォルフのジャンヌ様」と……

 そして素直に、「助けてください」と言いました。


「ヴィーンゴールヴへは行けますよ、何も心配することはありません」

「いえ……そうではなく、姉妹を助けて欲しいのです……お願いです……ヴァンパイア族と並ぶ力を持つ、ヴァラヴォルフ族のジャンヌ様、お力をお貸しください」


「貴女は私を買い被っている……私にはそんな力など……」

「……」

 アエローさんは、明らかにがっかりした顔をしました。


「あの……失礼ながら、ジャンヌ様はチョーカーの力を知っておられますか?」

 リュシエンヌさんが口を挟みました。


 ?


「私は一度、チョーカーについて聞いた事があるのです」

「何があろうと、チョーカーは身に着けている者を守ると」

「どうでしょう、一度、ハルピュイア姉妹を助けたいと、念じて見られては、何らかの啓示があるかもしれません」


 なるほど、確かにそのような話を聞いた事がありました。

「いいわ、やってみる価値はありそうですね」

 ジャンヌは祈りました……

 ハルピュイア姉妹を守りたい……

 ハルピュイア姉妹を守りたい……

 ハルピュイア姉妹を守りたい……


 すると、頭の中に声がしました、ミコの声です。

「自信を持っておやりなさい……私は貴女とともにありますよ」と……


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