姫は棄てられ売られ


 そして問題の日も、何事も無く始まった……

 その日、メイドとともに叔父がやってきた。

 ジャンヌはうれしかった、自分を保護してくれる叔父、自分をいつくしんでくれる叔父……ひそかな恋愛感情さえも、抱いていたジャンヌである。


 叔父さま……いつになったら振り向いてくれるの……私の想いに、気づいてくれないかしら……


「叔父様、歓迎しますわ……ブランチでもいかが?」

「ジャンヌ……大事な話がある……お前の行く末のことだ……」

 叔父は、ただならぬ表情を浮かべていった。

「私の?」


「ナーキッドを知っているか?」

「はい、あの世界最大の企業でしょう?」

「法王領もメンバーに名を連ねているらしい……このたび、その法王領より、フランス政府に打診があった……」

「フランスも、メンバーに加入する意思があるかと……」


「それが私と何の関係が?」

「加盟するには、献上品が必要なのだ……」

「献上すればいいのでしょう、フランスはそんなにケチではないでしょうに……」

「そうだな……フランス政府は加盟すると返事した……そして献上品のリストを作成中だ……」


「……」

「加盟すると、フランスは女同士の婚姻が可能となる……しかも妻に当たるほうは売買婚となる……さらにいえば多妻制だ……」

 ジャンヌは背筋が寒くなってきた……


 叔父は言葉を続けた。

「政府の要請で、お前をある女の妻の一人として……売ることになった……相手はナーキッドのオーナーだ……」


「嫌よ!そんなみだらなことなど出来ないわ!」

「ジャンヌ、もう決まったことなのだ」

「これは我妹子(わぎもこ)証文と呼ばれる、お前の売買証書だ、あとはお前のサインだけだ」

「絶対に嫌!」


「お前の友達のアンネリーゼは、ドイツ政府の献上品になることを承諾したそうな……フランスとしても、ドイツに遅れは取れないのだ」

「アンネリーゼが……なぜ……」


「お前たちの病をナーキッドのオーナーは治せるそうだ……ただオーナーは好色だ……私はそれぐらいしか知らないのだ……」


「ジャンヌ……冷たいようだが、お前は一族のリストより削除される……ブルボン・オルレアンに、ジャンヌという娘はいなかった……兄は独り身で死んだ……お前の戸籍は書き換えられた」

「……では私は……」


「パリの孤児院前に棄てられていた子供……当時の院長が、ジャンヌ・マルグリット・ブリジット・マリー・ドルレアンというご大層な名前をつけた……」

「そしてお前の売買証書には、フランス政府の署名がある……すまぬ……ジャンヌ……」


 ジャンヌは黙ってサインした……


「兵士諸君、連れてっていってくれ」

 叔父は冷たくいい放ち、ジャンヌのひそかな愛は踏みにじられた。


 ジャンヌはアンネリーゼともに、ナーキッド・オーナーの下に連行された。

 途中、アンネリーゼは、ジャンヌが知らぬことをかなり教えてくれた……


 ジャンヌは狼憑きという病ではなく、ジャンヌとアンネリーゼは、ヴァラヴォルフ族という種族の、最後の生き残り……


 そしてテラのモンスターをすくうために、アンネリーゼは自ら進んで、ナーキッド・オーナーに純潔を差し出す覚悟を、固めた事も語ってくれた。


 ジャンヌはアンネリーゼと行動を共にする覚悟を固めた。

 どの道、ジャンヌにはそれしか生きるすべが無いように思われたからだ。


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