カムチャッカ・クルーズ
「どうして?」
クラスメートはその話でもちきり……
「三日分なんて……私、服を持ってきていないわ……下着も……」
「皆さん、静かにしなさい、これから説明いたします」
クラス担任の女性教師が皆を集めました。
「テラのカムチャッカ見学ですが、今回ルシファー様の申し出で、小笠原シティ経由でナーキッドの小笠原港より、クルーズ船に乗せていただけることになりました」
クルーズ……ざわざわとしました。
「現在テラは先の戦争と天変地異により、豪華クルーズ船はほとんど廃棄されていますが、二隻だけナーキッド・オーナーの為に、テラの防衛軍が管理していた船があります」
「このたび大改修が小笠原ドックで終わり処女航海にでます、私たちはその船に乗るのです」
「軍の船なのですか?」
「いえ、軍に優先使用権がありますが、カムチャッカのペトロパブロフスク・カムチャツキーと小笠原を結ぶ、観光定期航路に就役するのです」
「それに乗れるのですか?」
「一応プレオープンということです」
「船員さんも慣れていませんので、多少トラブルもあるでしょうが、こんな機会は滅多にありませんよ、なんせ無料です」
琴音さんが、「籠目(かごめ)高女だけなのですか?」
「今回はマルス文化圏の全十四高女が対象です、私たちは小笠原高女と一緒です」
「ダチアも来るのですか?」
「私たちの乗る船が、小笠原へ帰る便に乗ると聞いています」
「じゃあ、ペトロパブロフスク・カムチャツキーで顔を合わすことになるの?」
「そうなりますが、恥ずかしい事を起こさないでね」
「先生、豪華客船に乗るのに私たちはフォーマル・ドレスを持っていませんが……」
「それは大丈夫です、今回は制服で構いません、もともと女学生の制服は礼服も兼ねているのですよ」
「つまらない!」
「仕方ないでしょう、我慢しなさい」
一行は、惑星ヴィーンゴールヴの衛星軌道に浮かぶルシファー・ステーションから、ローマ・ダチア宇宙鉄道に乗り、フォボス・ステーションを経由して、テラ連絡鉄道で小笠原シティのステーションへ……
小笠原シティはマルスのグラブダブドリッブにも負けない超近代都市。
はっきりいえばヴィーンゴールヴのタナトス・シティとは比べ物になりません。
「とにかく急ぎますよ、バスが待っていますから!」
先生は観光など許してくれそうもありません。
追い立てられるように迎えのバスに乗り、小笠原軍港へ……
昔は二見港といっていたそうですが、かなり拡張、浚渫してあるそうです。
船は元々二万二千トン、元日本帝国の某海運会社所有の船で、いまでは名前も、小笠原号とカムチャッカ号らしいです。
新造したのではというほどの大改装だったようで、排水量も三万トン……定員も六百三十名とのことです。
かなりの高速船型で、電磁推進でテラの衛星軌道に浮かぶ太陽光発電衛星から受電できます。
サブエンジンとして水素動力エンジンも積んでいます。
しかもナーキッドの技術で、最高速力も三十二ノットは出るそうです。
巡航でも二十八ノットの高速客船となります。
この太陽光発電衛星は、かなりの数が打ち上げられており、その発電電力量は膨大な物です。
一説では宇宙を飛び交う宇宙線を崩壊させて、電力を取り出すことも可能とか……
全衛星の半分でも、十分必要電力を発電できますので、たとえ夜側でも困ることはありません。
鈴姫にはそのあたりは分かりませんが、とにかく惑星世界の電力を、全てまかなうことが出来るとは知っています。
前後に船型が伸びた分だけ、スペースが出来ましたが、そこには各種の特殊装置が積み込まれています。
防御バリアとか放射能除去装置とか、ヘリポートもありますね……医療設備もかなり整っています、ちょっとした病院です。
事実、軍は戦時には病院船を予定しているようです。
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