迷子をお探しですか?


 その頃、篠笛ちゃんは、プンプン怒りながらタナトス・シティ逢魔街を歩いていました。

「お姉ちゃんなんか大嫌い!私を除け者にして!」


 琴音さんがお買い物に気を取られ、篠笛ちゃんを構ってくれなかったのが、オカンムリの原因です。

 あんまり怒って町を歩いたものですから、自分がどこにいるのか分からなくなりました。


「ここ、どこかしら……」

 すこし困った篠笛ちゃんではありましたが、そこは怖いもの知らずのお嬢さん、

「とにかく巡査さんを見つけて、COTTONに行く道を聞かなくっちゃ……」


 で、遠くに巡査さんを見つけたので、あわてて走ったのですが……

 ドォン……と、ぶつかってしまいました。


「御免なさい!」とは言ったものですが、その相手はいわゆる不良……

「いてえじゃないか、こら、肩が外れたかもな、どうしてくれるんだよ!」

 幼い女の子にすごむ不良。


「どうした?」と、仲間が集まって取り囲まれます。

「おぉ、こりゃあ重症だぜ、治療費でももらわなければな」


 ここらで篠笛ちゃんは怖くなってきました、少し震えています。

「おぉお……こいつ、震えているぜ、かわいそうだぜ、お前、お詫びにお兄ちゃんたちに良い事して呉れたら、許してやってもいいぜ」


「良い事?」

「そう良い事、ここではなんだし、あっちに行こうか?」

 そして不良の一人が、ナイフを取り出しました。


「このナイフ、良く切れるんだぜ、声を出したら、痛いぜ……」

 篠笛ちゃんは、さらに震えあがります。


 そして路地裏に連れ込まれてしまいました。


 琴音さんと鈴姫は必死に探していました。

「あの娘……まさか路地裏に入ったのでは……どうしよう!どうしよう!」

 琴音さんはもはやパニックです。


「琴ちゃん、あわてないの!」

「でも、どうすればいいの……」


「路地裏を探すのよ!」

「……」

「大丈夫!私たちはメイド任官課程よ、シルバーリングを授かっているのよ、ルシファー様の加護があるわ」

 意外に鈴姫は冷静です。


 鈴姫は初期研修の最後に、リングを授かったのですが、その時にリングの効力を聞いていたのです。


「皆さまには、今よりリングを授けます、絶対に外してはいけませんよ」

「身に着けている限り、どんなことからも貴女たちを守ってくれます、けがなどはしないでしょう」


 リングは守ってくれる、今はそれを信じましょう……鈴姫は心の中で、そう思ったのです。


「とにかく耳を澄ませて、私も貴女も楽器の付喪神、篠笛ちゃんも同じでしょう、きっと聞こえるわよ」

 二人は耳を澄ませます……


 と、篠笛ちゃんの押し殺したような泣き声が……雑踏の中から幽かに聞こえました。

「こっちよ……そんなに遠くないわ……」

 二人は泣き声の方角に足を進めます。


 路地を右に左に進むと……篠笛ちゃんがいました……五人ばかりの、見るからにガラの悪そうな男たちに囲まれています。


「篠笛!」

 琴音さんが駆け寄ります。

「あんたたち、妹に何しようとしているの!」

 篠笛ちゃんは、いわゆる手籠めにされる寸前、危機一髪の状況です。


「おいおい、綺麗な姉ちゃんが出てきたぜ、妹と一緒にいただくとしようぜ」

「じゃあ、私はいただくの?」

「鈴姫!逃げて!」


「私を守るリングよ、わが身はいま危険に瀕している、ルシファー様に捧げるこの身を、汚すわけにはいきません!」

 スーと周りの空気が冷えるのが分かります。


 あっという間に、鈴姫の手には神楽鈴――小さな鈴が12または15個ついている鈴で、巫女舞に使われる――が……

 鈴姫は迷いもなく、その鈴を鳴らします、すると……

 琴音姉妹を取り囲んでいた不良たちが、耳を押さえます。

 さらに神楽鈴を鳴らしますと、耳から血が滲みだします。

 

「琴ちゃん、逃げましょう!」

 鈴姫たち三人は、その場から逃げようとしますと、一人の若い女が立っていました。


「最後までやり通しなさい、ごみは必要ありません、後々禍根を残します」

 ……

 その女は威厳がありました。

 鈴姫は何かに憑かれたように、神楽鈴を鳴らします。


 五人は動かなくなりました。

 そこへ巡査の一団が駆け付けます。


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