第3話 お嬢様、動画配信をする
「イルワーク、私やってみたいことがあるの」
「承りましょう」
「巷では『
「存じ上げております」
「さすがはイルワーク、それでこそ私の執事ね。情報が早いわ」
「何せMe Tube は私もよく閲覧しておりますので」
「驚いたわ。あなたは一体どんな動画を視聴しているのかしら」
「私は主にDIY関係ですとか、ほのぼのアニマル動画を視聴しております」
「DIYと動物ね。DIYは良いとして、ほのぼのアニマル……。癒されたいのね、イルワーク」
「癒されたいのでございます」
「ウチにもハイネケンという癒し系のワンちゃんがいるじゃない」
「確かにハイネケン様は大変可愛らしいのですが、土佐犬に癒し要素を求めるのは少々厳しいかと」
「お茶目にじゃれついて来たりするじゃない」
「こちらは命がけでございます」
「さて、お茶目ないたずらワンちゃんの話は一旦置いといて」
「はい」
「私も、その『ミーチューバー』とやらになってみたいの」
「かしこまりました。それではまず、どちらの動画を投稿いたしましょうか」
「ちょっと待ってイルワーク。あなたいま流れるように懐から記録媒体を取り出したけれど、何かしらの編集を施された動画が既に手元にあるということなのかしら」
「もちろんでございます」
「さすが私の執事ね――と言いたいところだけれど、
「企業秘密でございます」
「企業ぐるみの犯行ということね。俄然質が悪いわ。とにかくそれらはただいまをもってハイネケンのフリスビーよ」
「少々もったいないですが、致し方ありませんね」
「というわけでお嬢様。セットの方はこちらでよろしいでしょうか」
「良いわね、私の思い描く『女性ミーチューバー』のイメージぴったりよ」
「6畳程度のワンルームにすべてが凝縮されている一人暮らしの大学生をコンセプトにしてみました。撮影はベッドをバックにして行います」
「白とピンクを基調にしたあざとい仕上がりになっているわね。ベッドの上のクマのぬいぐるみも謎の使用感があって完璧だわ」
「ありがとうございます。そしてお嬢様にはこちら『デザート・ピケ』のルームウェアをお召しになっていただきます」
「これが巷で噂のもこもこルームウェアね。シルクのネグリジェしか着たことのない私にとって、夢にまで見たユニフォームだわ」
「完璧にあざと可愛いです、お嬢様」
「はっきり言ってあざと可愛いわね。ウサギの耳がついたフードまで被ると、お祭り騒ぎ感がより一層増すわね」
「増し増しでございます」
「このままいもしない架空の友人達とエアパジャマパーティーに興じたいところだけどグッと我慢ね」
「あぁ、あのお嬢様が我慢を……ううう」
「どうしたのイルワーク? 胸ポケットから急にハンカチなんか取り出してあふれる涙を拭いたりして」
「説明ありがとうございます、お嬢様」
「まぁそんなことは置いといて、早速撮影よ」
「さて、お嬢様」
「何かしら」
「一体、どんな内容の動画を録るおつもりです」
「完全にノープランよ」
「左様でございましたか」
「とりあえず、この夢にまで見たもこもこルームウェアの使用感をレポートしてみようかしら」
「よろしいのではないかと。お嬢様のように可愛い女性ミーチューバーでしたら、最早呼吸しているだけでも閲覧数は稼げますので」
「もし『デザート・ピケ』からCMのオファーが来ても断って頂戴ね、イルワーク」
「かしこまりました」
「では、ちょっとベッドに入らせてもらうわ。ふかふかね……思った以上に柔らかいわ」
「マシュマロタッチと書かれておりました」
「マシュマロを身にまとったことはないけれど、何となく納得してしまうわね。そうだわ、今度は実際にマシュマロで服をつくって……」
「……お嬢様?」
「ぐうぐう……」
「何と、もう眠ってしまわれるとは。どうやらこのもこもこルームウェア、驚きの安眠効果も期待出来そうでございます。ご興味のある方は、下記のURLから公式サイトに移動出来ますので、ぜひご検討を。そして、この動画を気に入っていただけましたら、チャンネル登録もぜひよろしくお願い致します」
「むにゃむにゃ……イルワーク、私やってみたいことがあるのむにゃ……」
「承りましょう、お嬢様。ただいま夢の中に私の分身を送り込みますゆえ」
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