第267話 体の土台作りから

 プロ野球選手を目指すという2人のために、色々と考える。やっぱり大事なのは、体力と身体能力を上げること。厳しい練習にも耐えられるような、体を動かすための土台作りから始めよう。


 野球の技術を覚えるのは、もう少し成長してからでいいだろう。


 前世で覚えた錬金術で、能力をパワーアップするポーションを作ろうかと考えた。でも、プロを目指す2人に飲ませても大丈夫なのか、不安になった。もしかしたら、ドーピング検査で引っかかる可能性もある。そんな危険を冒すわけにはいかない。


 そういう方法は避けて、正攻法で鍛えていく。


 そもそも、この世界で錬金術を試してみたら、上手くいかなかった。


 アイテムボックスから錬金釜を取り出して、レシピ通りに素材を投入。杖で混ぜてみたら、久々に錬金を失敗してしまった。転生したから、腕が鈍っているのかも。


 もう一度慎重に、素材の選別から気をつけて試してみたけれど失敗。何度か失敗を繰り返して、ようやく錬金することに成功した。錬金術師の基本である作用液を作り出すだけで、かなり苦労した。錬金を行うことは出来るのを確認。


 それで、色々と都合の悪い事実が判明する。


 どうやら、この世界では前の世界で利用していたレシピが通用しないかもしれない。法則が違うのか、素材の種類や量が異なる。それが失敗した原因。


 つまり、錬金を成功させるためには、この世界の法則に適応したレシピを一から考え直す必要があるのかも。これは、膨大な作業になりそうだ。


 それだけでなく、アイテムボックスに収納していたスタッシュバッグと錬金素材箱の中身が、全て消失していた。前世で集めて保管していた素材や、錬金道具が1つも残っていない。まさか消えてしまうなんて予想外だし、これは痛い。


 スタッシュバッグと錬金素材箱の機能は、今のところ普通に使用できている。ただ、中身が入っていないだけ。転生するときに消えてしまったのか。非常に残念だ。素材を集めるのに結構苦労したのに。消えてしまったのか……。


 今後は、頼りにすることは出来ないな。何回か前の人生では、アイテムボックスの能力も物を取り出せない不具合があった。そういう問題が発生してしまうので、いつでも備えておかないと。


 ということで、色々な事情に問題があったので、今回は錬金術を使うことを諦める。楓と真琴は、ちゃんとしたトレーニングをするように誘導して、彼女たちの成長を促した。


 体力を鍛えるためにやることは、俺が今までに何度も実践してきた走り込み。それから、食べる物の栄養を意識する。そうすれば、確実に成長していけるはず。2人がプロ野球選手になるのも、夢じゃない。




 小学校を卒業すると、島の中央にある中学校へ通い始めることになった。


 自宅から少し離れているので、登下校の時にはトレーニングも兼ねて3人で走って学校へ向かう。もちろん、勉強も怠らない。トレーニングだけやって、頭を使うことを疎かにするなんて許さなかった。


「ほらほら、ちゃんと勉強する」

「へいへい、やってるよ」

「うーん、疲れた」


 そう言いながら、勉強を避けようとする楓と真琴。そんな彼女たちのやる気が出る言葉を用意した。


「ちゃんと頑張ったら、今日は美味しいカレーを作ってあげるから」

「よし、絶対だからね」

「カレーか! いいね。うわ、お腹減ってきたよ。頑張ろ」


 予想通り、その言葉で一気にやる気を出した。食欲旺盛なのは、とてもいい事だ。最近は、こうやって俺が彼女たちの食事を用意していた。栄養も意識した美味しい料理を作って、食べてもらう。それが、彼女たちの成長につながるはず。




 中学生になってから、どんどん成長している楓と真琴。楓の身長は中学生なのに、既に170センチメートルを超えているみたい。まだまだグングン成長中。真琴は、まだ160センチメートル。だけど、他の中学生よりもデカい。筋肉が付いた肉体は威圧感があって、実際よりも大きく見えるし。


 残念ながら、俺たちが通う中学校も生徒が少なかった。島中から集まってきているけれど、全部で16人。野球をやるために2チーム作るには、人数が少し足りない。試合は出来ないか。


 それに、小学生時代と同じように、中学校でもクラスメートからは距離を置かれていた。どうしてそんなに避けられてしまうのか。理由も分からなくて、悲しかった。せっかく、同年齢のクラスメートと出会えたのに、仲良く出来ないなんて。


 それで結局、楓と真琴の3人で行動する。ずっと変わっていない。ということで、中学生時代もトレーニングに専念する。


 2人は、中学を卒業したら本島の高校へ行く予定。俺も、同じ学校に行く予定である。そこは、男子生徒も受け入れている高校らしい。


 全国各地にあるのは、ほとんどが女子校である。男子を受け入れている高校は希少だった。だからこそ、そこを狙って入学する。楓と真琴とは、高校生になっても同じ学校に通いたいと考えていた。


 その2人は高校生になったら、ようやく野球部に入る。それまでに、どれだけ成長できるかどうか。それが、とても楽しみだった。

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