第265話 伝説の始まり

 祖母は、かなり裕福な人のようだ。働いている姿を見たことがないけど、お金には全く困っていないようだ。どうやら今は、不労所得で生活しているらしい。


 それで、服やおもちゃ、教育用品などたくさん買ってくれる。もったいないと思うぐらい大量に。


 俺がぼそっと呟いた言葉や、少し注目した物を見抜き、祖母が購入してプレゼントしてくれるのだ。迂闊にお願いなんてしたら、無限に買い与えられそうなので、気をつけないといけない。


 家には、サッカーボールにバスケットボールなど球技の道具、釣りやキャンプ用のテントなどアウトドア用品、沢山の本にクレヨンや色鉛筆などの画材まで取り揃えてある。


 ゴルフ道具一式を買い与えられた時は、本気で驚いた。島にはゴルフ場なんて無いのに。そもそも、子どもにゴルフ道具一式を買い与えるなんて、プロゴルファーでも目指すのか。今のところ、そんな予定はないけど。


 とにかく道具は家に何でも揃っているので、色々な遊びが出来て毎日飽きることがない。3人で集まって、買ってもらった道具を使って楽しむ日々。


 そうこうしているうちに、あっという間に小学生になっていた。島にある小学校に、家から通うことに。3人の関係は変わらず、一緒に登下校する。


 小学校に在籍している生徒は全部で8人。しかも、他の5人は全員が1年か2年で卒業する上級生。つまり、歳が離れている。俺が男性だからという理由もあるのか、その5人の生徒から避けられている雰囲気を感じた。イジメ、というほど酷いものではないけれど。


 いつも一緒に居る楓や真琴も巻き込んでしまったのか、学校内で仲間外れにされてしまった。


「ごめんね、2人とも」

「だいじょうぶ。気にしてない」

「理人くんの方が、大事だからね」


 そう言って、変わらず一緒に居てくれる2人。


「今日は、何して遊ぶ?」

「先に、学校の宿題を終えてから、ね」

「えー、勉強かぁ……」


 家に帰ってきて、まずは宿題を先に終わらせようか。ちゃんと勉強が出来るようになった方がいい。2人とも、ちょっと勉強が苦手みたいだから、予習と復習を大事にする習慣を、今のうちから身に着けておきたい。大人になってから苦労しないよう。2人の勉強を見てあげながら、俺も宿題を終わらせた。


「はい、終わった! 行こ!」

「うん。僕も終わったよ。理人くんは?」

「俺も終わり。それじゃあ、外で遊ぼうか」

「「うん!」」


 2人とも、ちゃんと宿題を終わらせて偉い。元気よく返事をする、楓と真琴。まだ外は明るい。暗くなるまでに時間があるので、外で遊ぶことが出来そうだ。




「今日は、コレがいい」


 そう言って楓が持ち上げたのはボールを捕球するため、手にはめて使う道具。


「野球のグラブだね」

「テレビで見たことあるよ」


 真琴が見たことあるという。俺もテレビで、プロ野球の試合を見たことがあった。やっぱり選手は全員が女性で、ものすごい動きでプレーしていた。


 しかし、3人だけだと試合はできないな。ピッチャーとバッターの勝負で、1人がキャッチャーをする。それを順番に交代していくのが、いいかもしれない。


「バットもあるよ」


 金属のバット。子供用に少し短いのかな。軽くて、振りやすそう。これを振って、ボールに当てるのか。


「これは、何?」

「あぁ、それはキャッチャーの防具かな」


 ちゃんと防具一式が揃っている。キャッチャーマスクに胴体のプロテクター、足を守るレガースまである。これは、知らないな。パンツみたいな形のサポーターか? もしかして、急所を守るための防具、ファールカップなのかな。女性用で、膨らんだ形にはなっていない、とか。


「すぐ出来る?」

「うん。ボールもあるし、後は広い場所」


 カチカチのボール。硬式ボールというやつだろう。それが12球も入っている箱があった。それらの道具を持って、3人で島の広場に走って移動する。




「ピッチャーとバッターの間、どれくらい?」

「20歩ぐらい、かな」


 子どもの歩幅だと、短いかもしれない。だけど、俺も詳しくは知らないんだよな。試合を見たことはあるけれど、自分でプレーするのは今回が初めて。基本的なルールを知っているぐらい。


 9人対9人のゲームで、攻撃と守備を交互に行う。アウトを3つ取れば交代する。それを9回まで続ける。


「とりあえず、やってみたい」

「わかった。じゃあ、楓が投げて、俺がボールをキャッチする?」

「理人と勝負したい」


 役割分担をどうするか、相談する。既にグラブを手にはめている楓がピッチャーを希望して、対戦相手には俺を指名してきた。バッターは俺か。それで、残った真琴がキャッチャーマスクを被ることに。


「それで、いい?」

「いいよ。キャッチャーは、僕に任せて」

「勝負だ、理人」


 ということで、それぞれの立ち位置に移動して対戦の準備をする。俺は、バットを持って。何回か軽く振ってみる。


 ビュンと、風を切る音が鳴った。こんな感じで、いいのかな。これで、あのボールに当てるのは難しそうだけど。


 楓と真琴がキャッチボールをしている。楓が投げる球は、なかなか速いな。俺に、あの球を打てるかな?


「じゃあ、いくよ」

「うん」


 打者の位置に立つ。ピッチャーとキャッチャーの間に。楓が振りかぶって、ボールが来た。


「おっと」

「よし」


 振ってみると、ボールとバットの間に距離があった。次の瞬間、背中からミットの鳴る音が聞こえた。なるほど、こういう感じか。イメージは出来た。それを、試してみよう。


「次、いくね」

「来い」


 再び、楓が振りかぶった。投げる動作に入ったので、目を凝らして見る。そして、ボールが予想した位置に入ってきた。イメージした感じで、バットを振る。こう。


「あ」

「え」


 ボールとバットが、カキンと当たった。そして、ものすごい勢いでボールが飛んでいく。あんなに遠くへ。

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