第264話 島での暮らし

 俺が暮らしている島は、関岩島せきいわしまという瀬戸内海中部にある諸島の有人島の1つだ。島の面積は大きくて、人口は1000人ほど。


 そのほとんどが女性であり、男性は両手で数えられるぐらいしか居ない。しかも、子どもは俺1人のみ。それだけ、男性の数が少ない。そもそも、この世界には男性が少ししか居ないようだし。


 漁業が盛んで、新鮮な水産物がたくさん採れる。昔から、瀬戸内海の食料庫として有名だったそうだ。女性だけが船に乗って海に出ていく姿は不思議に思うけど、この世界では当たり前の光景らしい。


 そんな関岩島で、俺は今日も暮らしている。




「りひと! いこ」


 そう言って前を走るのは、長石ながいしかえでちゃん。近所に住んでいる、同い年の女の子。手足が長くて、背も高い。既に、素晴らしいプロポーションで運動神経も抜群な子。この先、どんどん素敵になっていくのが容易に想像できる、将来有望な子でもある。


「あぶないから、いっしょにね。りひとくん。かえでも」


 もう1人は、瀧谷たきたに真琴まことちゃん。彼女も近所に住んでいる、同い年の女の子である。まだ子どもなのに、大人顔負けのパワーの持ち主だ。これから成長して、もっと凄いことになりそう。


「うん、行こう。楓ちゃん、真琴ちゃん」


 赤ん坊の頃から一緒に育てられて、今も3人で一緒に行動することが多かった。


「ちゃんは、いらない」

「うん。僕も、ちゃんよびはイヤかなぁ」

「そう? じゃあ、楓と真琴で」

「「うん!」」


 2人からそう言われたので、最近はちゃんを付けて呼ばないようになった。


 もうすぐ小学生になるぐらいの年齢だから、嫌になったのかな。昔から楓ちゃん、真琴ちゃんと呼んでいたのに。少し寂しい。


「そっち、あぶないかも」

「けがしたら、たいへんだから」

「ありがとう」


 2人が俺の両隣に立って、俺の手を握る。危ない場所には近寄らないように、何かあった時には守れるように、ということらしい。


 男女の立場が逆じゃないかな。何かあった時には、男の俺が彼女たちを助けないといけない。そう考えてしまうのだが、この世界では違うみたい。女性の2人が、男性である俺を助けるのが当然。それが常識のようだ。


 幼い頃から、そうやって俺は2人に守られてきた。


 女の子に、しかも幼い子に守られている状況は、なかなか慣れないよ。情けないと思ってしまうのだが、これが普通らしい。うーん。


 彼女たちだけでなく、島の人たち、祖母や母親も過保護すぎると思っている。ここまで過剰に保護される人生なんて初めて。


 だけど、本島で暮らすことになっていたら、今よりもっと過保護にされていたかもしれないようだ。島で暮らしているから、これでもマシな部類だという。


 生まれてすぐ、この島に連れてきてくれた母親には感謝。今も仕事の合間の休みに会いに来てくれるので、母との関係は悪くない。ただし、色々と忙しいようで構ってもらえる時間は短いけど。




 楓と真琴。2人とも、体を動かして遊ぶのが大好きだった。鍛えることにも繋がるので、俺も一緒に遊ぶ。彼女たちの運動量は相当なもので、かなりのトレーニングになっていた。


 島中を駆け回ったり、山を登ったり、川や海で泳いだり、ボールを蹴ったり。


「今日は、何する?」

「かけっこ、しょうぶ」

「いいね、やろう」


 ということで、3人で競争することに。島にある広場まで3人で来て、用意する。距離は50メートルぐらいかな。測定器は持っていなので、このぐらいの距離かなとスタートとゴール地点を決めた。


 スタートで引いた線の前に楓、俺、真琴の順番で並んで走る準備。


「「「よーい、どん!」」」


 3人で声を合わせて合図にする。スタートして、とにかく走る。ゴールに向かって全力で。左右から、彼女たちの息遣いを感じる。猛スピードで、勢いよく前へ。


 そして、そのままゴールを突っ走った。


「よしっ、勝ち」

「ふたりとも、はやいなー。すごい! 僕が3ばん」

「――ッ!」


 負けて悔しそうな楓に、負けても笑顔で勝者を称える真琴。なんとか勝ったけど、2人とも本当に早かった。俺は体の動かし方を知っているから、走るのも速い。知識と経験の差で勝った、という感じだった。


 楓も真琴も、普通の子どもには絶対に負けないだろう。そう思えるぐらいの速さ。


「もういっかい、しょうぶ!」

「いいよ、やろうか」

「……こんどは、2人にまけない」


 もう一度勝負しようと楓が言うので、受けて立つ。彼女は負けず嫌いな性格。その横で、密かに闘志を燃やす真琴。実は彼女も負けず嫌いなのである。こういう勝負で必ず勝ちを狙ってくる。こうやって、いつも3人で本気になって競い合っていた。


 何十回も勝負を繰り返して、俺も何度か負けてしまう。2人とも、勝負するたびに速くなっていく。俺の走る姿を見て、走り方を学んでいるようだ。


「ふー! りひとに、かった!」

「はぁ、はぁ。負けたか。悔しいな」

「ふぅ、ふぅ。また、まけたー。はやいよ、2人ともー」


 楓が1位になったり、真琴が1位になったり。勝っても満足せず、もう1回と勝負を要求してくる。何度でも。


 その日は、3人の体力が尽きるまで勝負を繰り返した。

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