第263話 奇妙な世界に生まれて
祖母に預けられて、母親は俺を島に残して帰っていった。愛情がないのかと思ったが、どうやら色々と複雑な事情があるらしい。父親も居ないみたいだし、相当訳ありのようだ。
いきなりそんな事になって、どうなるのか心配だった。だが、そんな心配は杞憂に終わった。祖母の家に居る生活は、とても穏やかなものだったから。
祖母は子育てに慣れているようで、赤ん坊の俺をしっかりと世話してくれた。
「男の子って、こんなに大人しいものなんかね。でも、楽でいいわ」
そんな感想を呟きながら、丁寧に面倒を見てくれた。祖母は経験豊富そうだけど、男の赤ん坊を育てたことはないのかな。その言い方だと、初めてのようだけど。
気になるのは、祖母の家に祖父が居ないこと。母親と同じく、祖母もパートナーが居ないのか。祖母の場合は死別という可能性もあるけれど、母娘揃って男の姿が全く見えないのは不自然。何か理由があるのか。
それから、様々な女性が俺の顔を見に来た。若い女性が、10人以上は居たかな。彼女たちは母親の姉妹らしい。つまり、俺の叔母にあたる人たち。
「へぇ、この赤ん坊が茜の子か」
「男の子を、こんな近くで見られるなんてヤバい」
「
「全く、想像してなかったよ」
赤ん坊の俺は、ベビーベッドの上に寝転んでいる。まだ、自分の意志で動くことは出来ない状態。女性たちに周りを囲まれて、あちこちから顔を覗き込まれる。されるがまま。
「この子、超可愛いし」
「顔のパーツとか整いすぎ。将来イケメン確定ね。羨ましい」
「というか、性別が男の時点で人生勝ち組が確定してるし」
「でも、意外と悲惨な人生を送る男の人も多いらしいけど」
「聞いたことある。女と違って、色々と苦労することが多いらしいよ」
「希少だから大事に育てられすぎて、性格が歪んじゃったり、ね」
「コラコラ! この子の前で、変な話はしちゃダメよ。男の子は、とても繊細なんだから。変な影響を与えないように、気をつけなさい!」
気になる話も少しだけ聞けた。男が希少な世界。
思い返してみると、ここまで男性の姿を見ていないような。病院では女医が居て、父親の姿はなく、移動している時も対向車線を走っている車を運転していたのは皆、女性だったような。見落としているだけ、なのかもしれないが。
あまりにも男性が少なすぎる。そういう世界に生まれてきたらしい。
この世界の状況をもっと詳しく知るためには、もう少し体が成長して自由に動けるようになるのを待たないといけないだろう。
車があって、家にはテレビがある。現代のようだけど、今までの常識が通用しないかもしれない。慎重に行動しないといけないかもな。俺の知っている現代と同じだと考えたら、痛い目を見る可能性も。
今のうちに、自分の状況を把握しておく。
体の状態は、とても良い感じだと思う。どこにも不調はなく、至って健康だろう。生まれたばかりで魔力は少ないから、鍛え直す必要があるけれど。
アイテムボックスも、普通に接続できる。異空間と繋がった、あの感覚があった。以前のように物が取り出せない、というようなことはなかった。それだけで、かなりのアドバンテージ。
魔法は、存在しているのかどうか微妙。祖母や、周りの人たちが使っている場面を見たことはない。だけど、彼女たちの体に内包している魔力は物凄く安定していた。魔力の量は普通みたいだけど、それを全員が見事にコントロールしている。
今まで色々な世界で出会ってきた人たちを思い出し比べてみても、飛び抜けている安定感。
あれは、意識してコントロールしているのか。それとも、無意識に調節しているのだろうか。
意識していないように見える。常に自然体で、俺も参考にすべき存在だと思った。
この世界の住人が全員、彼女たちのような水準に達しているのか。それとも、俺の身の回りに居る人たち、祖母や母親、叔母たち、島の人たちが特別なのか。どうなんだろう。不思議だった。
魔法やモンスター、勇者やダンジョンなど、ファンタジーな要素は今のところ確認できていない。だが、魔力は存在している。彼女たちが自覚しているのかどうかは、まだわからない。
今回も、なかなか一筋縄ではいかない人生のようだ。
現時点で、将来の目標を定めるのは早いか。どうやって生きていくのか、なるべく早く決めたほうが人生においては有利だけど。今回は特に、俺の常識と異なる部分が多い。その違いで、致命的な失敗をしないように気をつけないと。
なので、まだ何の職業を目指すのか決めないでおく。情報を集めてから、どうするのか決めよう。
今は体が成長するのを静かに待ちながら、鍛えられる部分を鍛えておこう。将来の目標は決まっていないけれど、備えられることは備えておく。それが将来、役に立つと思う。
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