第261話 錬金術師の旅
錬金対決で勝利した後、錬金学園は変革の時を迎える。
授業内容が一から見直されて、色々な部分が改善されていった。それにより学園の生徒たちが扱う錬金術は安定し、実力も急上昇。学園が変わる以前は、授業についていけなくなり退学する生徒も年に何人か居た。それが今は、脱落者が居なくなった。
柔軟で自由な授業形式は、生徒たちの能力の向上を促し、学園全体の実力を引き上げる。入学した者は全員、錬金術を使えるようになり、しっかり学び卒業していく。
錬金術師を目指す男性も少しだけ増えた。だが、女性と違って男性は魔力のコントロールを習得するのが身体的に難しく、錬金術を使いこなせるようになるまでが長い。そういう理由で、今も学園は女性の生徒が多い状況である。男子生徒を増やすのは、非常に難しい問題のようだ。
学園を卒業して一人前の錬金術師として認められた者たちは、各所へ旅立っていく。辿り着いた場所で新たな仕事を得ると、錬金術師の活動をしていくことになる。そこで大活躍して、どんどん名を広めていく。
その結果、錬金学園の評判も上がり、各地から入学希望者が増えたりした。
錬金学園の革新は完了した。後は、学園の教師たちに任せても大丈夫だろう。俺が居なくなっても問題ないはず。これからどうしようか。教師の仕事を辞めて王都から旅立つことを考えた。
その話を一番最初に伝えたのは、弟子のマルガリータだった。彼女には話しておかないといけない。
「え……?」
「前から考えていたことなんだ。色々な場所へ行って、錬金素材を探す旅をしよう、って」
マルガリータも無事に学校を卒業していた。その後、学園の教師になろうと考えているらしい。それで今は、教師になるための準備中。
俺の指導も全て完了して、自分で錬金術を極めていく段階に進んだ。教えるべきことは全て教えたので、彼女から離れても大丈夫だろう。そう、判断した。
「そ、そうですか……。寂しくなりますね……」
そう呟く彼女の表情は、とても辛そうだった。だが、マルガリータは明るく振る舞い、俺の顔を見つめながら言う。
「でも、先生なら大丈夫! 世界中を旅すれば、きっと素敵な素材が見つかるはずですよ!」
「……」
彼女が俺に好意を寄せていることは、知っていた。そんな彼女を置いていくのは胸が痛い。マルガリータに今後の予定を話している最中に、俺は自覚した。これは、俺も彼女と離れるのが寂しいな。
ならば、少し予定を変更しよう。
俺は錬金術師である。様々な問題を解決できるアイテムを錬金することが出来るはず。
王都ノルニシスを拠点にして、飛行機や電車のような高速で移動することが出来る乗り物で各地に向かう。そんな道具を錬金すればいい。
学園の資料室で調べてみると、過去には空を飛ぶ道具のレシピが存在したようだ。大半が紛失して、一部しか残っていない。そこをヒントに、新たなレシピを考える。
空を飛ぶための推進力と揚力を生み出し、その力を増幅させる。試行錯誤して、なんとかレシピを完成させた。ウイングスーツのような形で、手と足の間に布を張った特殊な服の開発に成功。これを着れば、空を飛べる。
何度かテストを繰り返して、本当に超高速で飛べることを確認。これを使えば、遠い距離も楽々と移動することが出来る。使い方が難しいので、誰でも使用できるものではないかな。誤って墜落したら危ないし、このレシピを世に広めるのは止めておく。
半年かけて生み出した発明品。自分専用の空飛ぶ錬金スーツということで。
「ということで、何日か離れたりすることはあるけれど、この研究室には必ず戻ってくるから」
「それなら、寂しくありません!」
マルガリータは喜んでくれた。それから、もう1つ彼女に伝えておくことがある。そのために俺は必死でレシピを研究して、錬金を成功させたのだから。
「これから先、君と一緒に暮らしていきたい。結婚を前提に付き合ってほしい」
「ええっ!?」
「ダメかな?」
「い、いいえ! とても、嬉しいです!」
マルガリータは、顔を真っ赤にした。恥ずかしそうにしつつ、素敵な笑顔を見せてくれた。断られなくて良かったよ。お互いに好意を持っている。それが勘違いだったら、とても恥ずかしかったから。
「よろしくお願いします、リヒト先生!」
「こちらこそ。でも、先生は外してほしいかな」
「は、はい。リヒト、……さん」
呼び捨て、ではない。でも、距離は一気に近くなった。同じぐらいの年齢だから、もっと気軽に呼んでもらえるような関係になりたいな。恋人になったんだから。
でも今は、これでいい。
「うん。よろしくね」
「ッ!?」
マルガリータを抱きしめた。腕の中に暖かい体温を感じる。しばらく堪能してから、ゆっくりと離れる。顔が近いので、見つめ合ったまま沈黙が続く。俺から顔を寄せて、軽く唇に触れる。初めてのキス。
彼女は受け入れてくれた。この幸せな時間が永遠に続けば良いと思った。
その後、マデリーネさんに結婚予定を報告した。
「ようやくですか。おめでとうございます」
どうやら以前から、俺たちが一緒になるだろうと予想をしていたみたい。当然ね、という感じで祝福してくれた。
それから俺は、マルガリータを連れて2人でユノヘルの村にも帰還した。両親と、おばあちゃんに報告するため。
「ほう。マデリーネの娘と一緒になるなんて、わしは予想しておらんかった。本当におめでとう。めでたいなぁ」
おばあちゃんと母は、とても喜んでくれた。父は驚いていたが、「おまえが決めたのならそれでいいさ」と言ってくれた。マルガリータは、嬉しそうに俺の腕にしがみついてくる。そんな様子を、家族にもガッツリと見られたり。
再び王都に帰還して、俺は本格的に世界各地を巡って、錬金素材を探す作業を始めた。錬金した空飛ぶスーツがあるので、王都からは長期間離れることもなく空を飛び回り移動する。各地に飛んでいって、素材を採取し、新たな発見をしていく。
マルガリータは学園の教師として、生徒の育成に励んだ。丁寧な働きで、数年後には学園の中心となり、ついには学長の座を引き継いだり。
子宝にも恵まれて、俺たちは生まれてきてくれた娘や息子にも錬金術を指導した。1人の娘は錬金術師になってくれたけど、息子たちは騎士を目指したり、思い思いの道を進んだ。それも自由で、いいと思う。
おばあちゃんや両親、マデリーネさんや学園の仲間たちが先に寿命で亡くなったり、悲しい出来事もあった。それ以上に幸せな思い出がいっぱいある。とても幸せな一生だった。その記憶は、俺の心の中でずっと生き続けるだろう。
また、次の人生でも。きっと。
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