第256話 卒業認定
学園に入学してから半年ほど経ち、卒業することになった。あっという間だった。というか、本当に? まだ、ここに来て半年しか経過していないけれど。
授業に出て、そこで教師から出題された課題を普通にクリアしていくと、いつの間にか卒業ということになっていた。
学園の授業では特に学びはなく、学園に入学した時点で全ての課題をクリアできる程度の実力は身につけていた。ユノヘルの村でおばあちゃんから錬金術を学び、腕を磨いてきた結果だった。
わざわざ王都ノルニシスまで来る必要は無かったかもしれない。そう後悔しそうになったが、学園の施設や設備、資料室などは錬金術の新しい発見をする参考になったから、まあ良いかと思うことにした。
つい先日、卒業式も行われた。卒業証書を授与されて、これで王国から認められた一人前の錬金術師になったらしい。
その後、学長のマデリーネさんに呼び出された。
「失礼します」
「待っていたわ、リヒトくん」
学園長室に入ると、マデリーネさんは椅子から立ち上がって迎えてくれた。笑顔で歓迎される。
「どうぞ、座って」
「失礼します」
応接用のソファーに座らせてもらう。彼女も目の前に、向かい合うようにして座った。
「卒業おめでとう。私が想像していたよりも早く、君は卒業してしまったわ。それもこれも、リヒトくんが優秀だったから。流石、マルグレット様のお孫さん」
「ありがとうございます」
マデリーネさんから褒められた。いや。俺というより、おばあちゃんの凄さを再認識したという感じかも。とりあえず俺はお礼を言って、軽く頭を下げる。
「本当は、もう少し学生でいさせてあげたいところなんだけれど。貴方の錬金術の実力は、学園に収まるものじゃなかったから。卒業させるしかなかったのよ。ごめんなさいね」
「いいえ、問題ないです」
むしろ、卒業させてもらって良かったと思う。あの内容の授業を受け続ける時間は無駄だと感じていたので、半年だけ通わせてもらって十分だった。
「それから、娘が本当にお世話になったわ。リヒトくんにマルガリータのことを任せて、間違いなかったと思っている」
「いえいえ、そんな」
マルガリータが魔力のコントロールを覚えて、錬金術が成功するようになってから、顔を合わせるたびに今まで何度もお礼を言われてきた。マルガリータが、母親であるマデリーネさんに話しているんだろう。俺の指導で学んできたこと。その成果について。
そして今でも、会うたびに感謝される。しつこいくらい。今日も、改めてお礼を言われた。
「あの娘が、あんなに錬金術を使いこなせるようになる日がくるなんて信じられない。貴方から錬金術を教えてもらったおかげ」
「俺が教えたというよりも、マルガリータの才能ですよ」
出会った頃から比べて、ぐんぐん実力を伸ばしているマルガリータ。彼女も実力を認められて、もう少しで卒業することになると聞いていた。
俺がやったことは、最初のキッカケを与えたこと。彼女の才能を伸ばすため、少し助言しただけ。後は、彼女の努力の結果だろう。
「だとしても、リヒトくんが正しく導いてくれた。私は、そう確信しているわ。だから、何度でも感謝するの。本当にありがとう」
そう言ってマデリーネさんはソファーから立ち上がると、深々と頭を下げた。俺も慌てて立ち上がり、学長を止める。
「頭を上げてください。そこまで感謝されると、逆に申し訳ない気持ちになります」
対価も貰っている。学園に入学するキッカケを作ってくれて、王都に研究室になる拠点を用意してもらった。それで十分だろう。
ソファーに座り直して、一旦落ち着くと話題が変わった。マデリーネさんに、こう聞かれる。
「学園を卒業した後、リヒトくんはどうする予定なのか聞いてもいいかしら?」
「うーん、そうですね。まだ、決まっていません」
今後についての話だ。少し考えてみたけれど、学園を卒業した後のことは考えていなかった。王都に来てから、まだ半年しか過ぎていない。それなのにユノヘルの村に帰るのは早すぎるような気がする。
新しい錬金術の知識を求めて旅を始めようかと考えたが、学園の資料室に残っている未読の書籍も多い。そこに眠っている錬金術のレシピや未知の技術に関する資料があるかもしれない。それに触れないまま王都を離れるのは、なんだか惜しいな。もう少し王都に滞在したい。資料の研究に励んでみるのが、いいかもしれない。
マルガリータの指導も、もうしばらく続ける予定だから。離れるわけにはいかないかな。とはいえ、そろそろ指導を終わらせてもいいぐらい実力がついてきている。俺もおばあちゃんに10歳の頃、指導は終わりと告げられた。あんな感じで、いつかは終わらせる時を迎える。彼女も、後は自分で錬金術を極めていく段階に来ている。
「とりあえず、もうしばらくは王都に滞在する予定ですかね」
「それなら、貴方を学園の教師として雇いたいと考えているのだけれど。どうかしら?」
「え? 俺が学園で教師を、ですか?」
マデリーネさんの突然の提案に、俺は驚いた。錬金術の学園の教師を、俺が?
「でも俺は、学園を卒業したばかりですよ。年齢も若いし、他の教師が納得するとは思えません」
「学園の教師は、卒業した証と学園の職員からの推薦があれば、問題なくなれるわ。ちゃんと学園を卒業して証はあるし、推薦は私がするから問題ないわよ」
「いいんですか、それ? 他の人から不満が出そうな気もしますが」
「大丈夫よ。リヒトくんの錬金術の実力は、私が認めているから。この半年間で、他の教師たちも見ている。きっと納得するわ」
「うーん」
俺は悩む。錬金術の教師、か。悪くはない。前から気になっていた学園の授業内容を改善するためには、教師という立場は都合が良い。
そこから、ちょっと関わってみるか。学園で学ぶ、錬金術師の卵たちのためにも。この半年間、学園に通っている間に少しだけ情が湧いていた。もうちょっとなんとかしてあげたい。今の授業内容だと、やっぱり大変だから。そんな気持ちがある。
「わかりました。ちょっとだけ条件を付けさせて下さい」
「なにかしら?」
とはいえ、色々と反発されそうな可能性を抱えている俺。若いし男性の錬金術師だし、反対する人は出てくるだろう。そうならないために、徐々に入り込んでいくのがいいと思う。そのための条件。
「俺の授業は希望者だけ集めて、卒業の課題も関係ない形にしてください」
「わかったわ。リヒトくんの授業を受けたいという希望者を募って、授業内容も自由に行うようにしましょう」
条件を出すと、即決でマデリーネさんは受け入れた。そんなに簡単に決めて、いいのかな。逆に、特別扱いだと思われて厄介なことになるかも。
まあ、とりあえず学園で授業をやってみるか。それで、周囲の反応を見てみよう。
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