第253話 教えてみた結果は
マルガリータに魔力の扱い方について、一から順番に教えた。
彼女は、指導を素直に聞くてくれた。教えてすぐ何かを掴んだようだ。それから、1時間ぐらいで基礎的な部分を習得した。
「こう、ですか?」
「うん、そう。そんな感じで」
目を閉じ、ゆっくりと呼吸をするマルガリータ。彼女の身体の中で、上手く魔力が循環している。自分の体に内包している大量の魔力をコントロールするコツを掴んだ後は、魔力の扱い方にすぐ慣れたようだ。まだまだ未熟な部分はあるけれど、それは時間を掛けて練習すれば、すぐに上達するだろう。
少し教えただけで、これだけ出来れば十分だ。
「ふぅ……。ありがとうございます先生! 先生のお陰で、なんとなく魔力の扱い方というものが、分かったような気がします」
「俺は、ちょっとしたコツを教えただけ。それで、すぐ自分のものに出来ていたよ。それは、マルガリータの理解力が高いお陰だ。自分の力でも有るんだから、ちゃんと自信を持って」
「はい!」
マルガリータに魔力を扱う才能が無かったワケじゃないみたい。
ちょっとしたコツを理解すれば、すぐに出来たんだから。むしろ、たった1時間で習得してしまった彼女は、かなり優秀な方だと思う。今まで、マルガリータが魔力の扱い方について、どうやって習ってきたのか聞いてみた。
「今まで指導してもらった先生方に魔力の扱い方について指摘されたことは、一度もありませんでした」
「そうなのか」
「魔力の授業は受けました。そこで私は、魔力がたくさんあるから優秀だって褒められました」
「確かに、マルガリータが身体の中に保有している魔力の量は普通より多いほうだと思う。だけど、それを扱う技術が足りていなかったね」
魔力の授業は行っているみたい。その時点で、つまずいていた。その後から、授業についていけなくなったらしい。錬金を成功させることも出来なかった。
むしろ授業では、魔力については優秀だと褒められていたとか。
学長であるマデリーネさんの娘だからと配慮をして、彼女を教えていた先生たちがマルガリータの問題を指摘することが出来なかった、とか。余計なトラブルを避けるために? 下手な教え方をして失敗したら、責任問題がどうこう……。そんな大人の事情があったのかもしれない。
それでも、こんな基本的なことなら普通の錬金術師なら分かると思う。それこそ、おばあちゃんの弟子だったらしいマデリーネさんが、錬金を失敗する原因が分かっていなかったのが不思議だった。
俺は何か、勘違いしているのかな。何か見落としているのであれば、彼女の様子を注意して観察し続けなければ。マルガリータが、大変なことにならないよう。
とりあえず今は、マルガリータに次のステップについて指導する。
「じゃあ、いよいよ錬金術に挑戦してみようか」
「はい!」
この1時間は、マルガリータには魔力のコントロール方法を教えることだけに集中していた。錬金術に関しては、まだ何一つ教えていない。それでも、出来るだろうと思って再挑戦させてみる。おそらく、大丈夫だろうから。
先程のように杖を取り出し錬金釜の前に立って、マルガリータは錬金を始められるように準備した。それを俺は、後ろから眺めている。
「いきます」
少し緊張したような声で、マルガリータが告げる。錬金釜の中に錬金素材を放り込んでから、杖を突っ込む。ゆっくりと回し始めた。
錬金液の中で、素材と魔力を混ぜ合わせることに成功。いまのところ錬金釜の中の反応は、とても安定している。先程とは大違いだ。
ちゃんと魔力をコントロール出来ているな。まだ少しだけ不安定になる瞬間もあるけれど、大丈夫。あれを安定させるようになれば、錬金したアイテムの品質もアップする。
魔力の操作を誤って、爆発して錬金が失敗するような気配はない。止める必要はなし。あとは、このまま最後まで完成させる。さて、どうなるかな。
錬金液が光って反応した。これは悪い反応ではない。錬金が無事に成功したという反応だった。
「で、できた……?」
「まだ、気を抜いちゃダメだよ。錬金した液体をすくって、素早く容器に移す」
「は、はいっ!」
後ろから指示すると、マルガリータは動き出した。錬金道具を使って、錬金釜から容器の方へ錬金した液体を注ぎ入れる。それで、作用薬は完成した。
しばらく時間が経つと錬金液が反応して、元の液体に戻っていく。マルガリータの手には、完成したアイテムが残った。
「よくやった。錬金成功だな」
「こ、これ!」
信じられないというような目で、自分の完成させた作用薬を握りしめる。それを、ジーッと見つめ続けるマルガリータ。それから、俺の方へと自分の作用薬を掲げた。しっかりと見えるように、どうだ! という感じで。
「で、出来ました!」
「うん。ちゃんと出来たな」
「し、信じられません。私、ちゃんと錬金術が出来ましたよ!」
やはり、錬金術に関する知識はシッカリあるようだった。だから、魔力の扱い方を覚えただけであっさりと錬金を成功させた。
「ありがとうございます、先生!」
「うおっ、と。危ない」
マルガリータに感謝されながら、勢いよく抱きつかれた。スキンシップが激しい。はしゃいでいる。それだけ嬉しかった、ということかな。
最初、彼女を見た時はクールな印象だった。実は感情豊かな女の子だった。最初、出会った時は警戒されていたからだろうな。そして今は、錬金が成功したことを心の底から喜んでいる。素の感情を、さらけ出していた。
「錬金が出来るようになったから、次はもっと高度な錬金に挑戦していこうか」
「はい! よろしくお願いします、先生!」
その後、マルガリータは錬金を失敗しなくなった。錬金釜を爆発させるようなことも無かった。魔力をしっかりコントロールして、無事に錬金が出来るようになった。その後も、色々と彼女に錬金術について指導した。
毎日のように俺の研究室を訪ねてくる彼女に、錬金術の技術やレシピなどを幾つか教え込む。俺も、彼女と一緒に錬金の腕を磨いていった。
環境が変わって、次々と新たなアイデアが思い浮かんでくる。忘れないように、それをメモに書き残す。後で試してみたい実験やレシピが、どんどん増えていく。
そんな事をしていると、あっという間に時間は過ぎていた。そして1ヶ月が経ち、錬金学園に入学する予定の日がやって来る。
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