第250話 錬金学園
「すいません、錬金術の学園ってどこにありますか?」
王都ノルニシスの露店が並ぶ通りで、カラフルな果物や野菜を売っていた商人の男性に話しかける。その商人は愛想よく、丁寧に答えてくれた。
「錬金術? あぁ、それならあの道を歩いて行った先にある大きな建物がそうだよ。見たら、すぐに分かるさ」
「そうなんですか、ありがとうございます。あと、これを1つ下さい」
「はいよっ! まいどあり~」
錬金術の学園について聞いてみると一発で分かった。どうやら有名らしい。親切に教えてもらったので、売っている果物を1つ購入する。
この道を歩いていった先にある、大きな建物か。どれかな。
「うーん。やっぱり、ちょっと鮮度が落ちるな。都会で売るために運んできた物なら仕方ないか……っと、あれかな?」
購入した果物の品質をチェックしながら、教えてもらった道を進む。しばらく歩くと、一際目立つ大きな建物が見えてきた。おそらくあれが、錬金術を教えている学園だろう。確かに行ってみたら、すぐ目に入ってきた。
正面の入り口らしい場所を発見したので近寄っていくと、呼び止められる。
「おい、止まれ」
学園の入り口に立ち、警備していた兵士たちが観察するような目で俺を見てきた。鎧を纏い、腰に剣を下げている。兵士たちの手が、剣の柄に添えられている。装備もしっかりしていて、警戒していた。厳重に学園を守っているようだ。
「ここは、錬金学園で間違いありませんか?」
「あぁ、そうだ。それで、用件は何だ?」
再び問うてくる兵士は、俺に対して不審感をあらわにした。かなり警戒されているみたいだ。早く答えたほうが良さそうなのは間違いない。さっさと質問に答えよう。
「俺の名はリヒト。この学園の学長であるマデリーネさんに会いに来ました」
「……ちょっと待て。確認する」
名前と目的を簡潔に伝える。どうやら確認してくれるようだ。兵士が1人、建物の中へ走っていく。ここで門前払いされたら、困っていたな。
残った兵士たちが、ジーッと視線を向けてくる。観察するような鋭い目だった。そこまで警戒されるのは、何か理由があるのだろうか。変な格好はしていないし、おかしな言動もしていないはずだけど。
確認しに行った兵士が、女性を連れて戻ってきた。彼女は学園の職員か。錬金術の教師かもしれない。
「……ッ! どうやら、間違いないようです」
「わかった」
その女性が俺の姿を見てから、兵士と小声で話しているのが聞こえた。それから、近寄ってくる。
「お待ちしておりました、リヒトさん。どうぞ中へ」
「入っていいの?」
「はい、どうぞ。マデリーネ様から、通すように指示を受けたので」
許可を得たので、門を通り抜けて錬金学園の中に入る。
「この方は私がお連れするので、お前たちは引き続き警備を」
「了解しましたッ!」
出迎えてくれた女性は、警備していた兵士たちに指示を出す。そして、俺を案内するように少し前を歩き始めた。直立不動の兵士たちに見送られながら、俺は彼女の後ろについていく。
錬金学園の敷地内を、その女性と2人で並んで歩く。その途中、近くを通りがかった女子たちに不思議そうな目で見られた。この学園の生徒だと思うが、何故そんな目で見てくるのか。
そういえば、男性の錬金術師は珍しいと言っていたな。居ないわけじゃないけど、数は少ない。この学園も、そうなんだろう。
校舎の中に入り、階段を上がって、大きく立派な扉の前で立ち止まる。女性がドアをノックした。
「マデリーネ様、彼をお連れしました」
「どうぞ、中に入って」
部屋の中から、聞き覚えのある女性の声が聞こえてきた。扉の向こうに、あの人が待っているらしい。
「中へ」
「あ、はい」
ここまで案内してくれた女性が扉を開けて、俺を中へ促す。入っていいみたいだ。
言われた通りに、俺は部屋の中へ入っていった。部屋に入った瞬間、花のいい香りがした。そして視線の先に、高そうなデスクに座って待っていたマデリーネさんが待ち構えていた。
「よく来てくれました、リヒトさん」
彼女はデスクから立ち上がって、笑顔を浮かべて歓迎してくれた。貴族のような、豪華絢爛で立派な服装だった。格好を見るだけで、彼女が偉い人だと分かる。彼女がユノヘルの村に来た時は、旅をするために軽装だったのかな。
「色々と説明することがあるので、そちらのソファーに座って下さい」
「あ、はい。……ん?」
横に設置してあるソファーとテーブル。そこに座るように言われたが、先に誰かが座っていた。今の俺と同い年ぐらいの女の子だ。彼女は誰だろう。
俺の疑問に気が付いたのか、マデリーネさんが彼女のことを紹介してくれた。
「その子は、私の娘です。ほら、挨拶しなさい」
「……マルガリータです」
そこに座っている女の子は、マデリーネさんの娘さんらしい。ちょっと不機嫌そうな声で挨拶される。いや、警戒されているのかな。彼女も一緒に、話を聞くのか? でも、どうして?
色々と疑問が頭に浮かぶが、とりあえず俺もソファーに座った。テーブルを挟んで向かい側に、マデリーネさんとマルガリータという女の子が並んで座っているという位置で。
「さて。リヒトさんの学園入学について、お話しますね」
「お願いします」
それから、マデリーネさんの説明が始まった。入学の手続きについては、ほぼ全て終わっているらしい。学園に入学するのは、1ヶ月後を予定しているという。
王都ノルニシスで俺が生活するための家も、彼女が用意してくれているとのこと。それは、とてもありがたい。家探しするのは大変そうだなと思っていたけど、心配が1つ消えた。
それから、もう一つ。
「諸々の費用を負担する対価として、この子に錬金術を教えてほしいのです」
「え? 俺が、その子に?」
「はい、そうです」
マデリーネさんは、横に座っている女の子を見ながら言った。錬金術について娘のマルガリータに指導してくれと、お願いされた。
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