第246話 錬金術師としての実力

「断る」


 バッサリと切り捨てるように、マデリーネさんのお願いを断るおばあちゃん。眉をひそめて、面倒そうな表情をしていた。おばあちゃんがあの顔をしているということは、絶対に引き受けないだろうな。


「そこをなんとか、ダメですか?」

「ダメだ」


 マデリーネさんは、困ったような表情でお願いし続けた。けれど、おばあちゃんは首を横に振り続ける。引き受けて貰えそうになかった。わざわざ、ユノヘルの村まで来たというのにかわいそうだとは思う。


「報酬は要求する分を支払います。何か不満があるのなら、改善します。それでも」

「ダメ」


 取り付く島もない。マデリーネさんは、困り果てて泣きそうになっていた。


 あの2人が、どういう関係なのかは知らない。けれど、おばあちゃんがあそこまで冷たい対応をするのは珍しいと思った。そんなに嫌なことなのか。俺が不思議そうな顔をしているのを見たのか、おばあちゃんは拒否する理由を話してくれた。


「わしはもう、王都には絶対に行きたくないんじゃ」


 彼女のスカウトを断る理由は、王都に行きたくないから。


「まだ、彼らのことを恨んでいるのですか? 許せませんか?」

「……王都に戻ったら、余計な繋がりや面倒事が増えるだけだ。だからわしは、その関係を断ち切った。もう、修繕することは不可能じゃな」

「そうですか。残念です」


 詳しくは分からないけれど、過去に何かあったようだ。その過去が原因で、王都に行くのを頑なに拒否するおばあちゃん。わざわざ王都からやって来て先生に勧誘したいと、学長直々にお願いしに来てくれたのに。


「用事は、それだけか?」

「えーっと……」


 おばあちゃんの冷たい対応に、マデリーネさんが再び泣きそうな顔になった。かわいそうだ。どうにかならないかな。そう思うけれど、2人の問題だからな。俺に口を挟む権利はなさそう。だから今も、黙って見ている。


「なら、帰った帰った!」


 他に用事が無いなら、研究室からすぐ出ていけというような態度のおばあちゃん。だけど、マデリーネさんはまだ諦めていない様子。


「もう少し見学させて下さいよ」

「わしは、ずーっと田舎に引きこもってただけだからな。学長になったというお前が見ても、なんも面白いもんは無いぞ」

「いえいえ、それでも良いです。久しぶりに、マルグレット様にご教授して頂きたいと、そう思っていまして」

「お前のその、向上心の高さは嫌いじゃないがな。今はダメだ」

「えー、なんでてすか。教えてくださいよ」


 なんとなく、2人の雰囲気が柔らかくなった。そして、久しぶりに教えを受けたいと、そんなことを言っている。2人が師弟関係のような、そんな感じがした。


 おばあちゃんが師匠で、マデリーネさんが弟子。


 なるほど、そういう関係だったのか。会話を聞いて、2人の関係が分かったような気がする。合っているかどうか、分からないけど。


 しかし、王都にある錬金学園の学長へと上り詰めるほどの人が弟子にいるなんて。やっぱり、おばあちゃんは凄いと思った。


「今は、この子に教えている。お前に教えている暇は無いぞ」

「え!? この子、男の子ですよね」

「そうじゃ」

「男性なのに錬金出来るんですか!?」


 急に視線を向けられた。話を聞いたマデリーネさんは驚き、疑わしいというような目で見てくる。なぜ、そんな視線を向けてくるのだろうか。よく分からなった。男性なのに、とは?


「もちろん。わしなんかよりも、錬金術を極めておるよ」

「え!? いやいや、そんなワケないじゃないですか。マルグレット様より、実力が上だなんて……」


 おばあちゃんの言葉を、少しも信じていないマデリーネさん。


 魔力の扱いなら、俺はおばあちゃんより上手く出来る自信があった。何度も人生を繰り返して、長い年月をかけて魔力操作の腕は磨いてきたから。けれども、錬金術に関する知識については、まだまだおばあちゃんの方が上だと思う。単純に、どちらの実力が上なのか比較はできないだろう。


 それでも、おばあちゃんは俺のほうが錬金術を極めているだろうと言ってくれた。その評価は、とても嬉しく感じた。


「おい、リヒト。ちょっと、こいつに実力を見せてやれ」

「あ、うん。わかった」


 いきなり話を振られる。マデリーネさんに、実力を証明してみせろということか。とりあえず、適当にサッと錬金してみようかな。


 さっきまで錬金していたアイテムは、一旦破棄するか。もったいないけれど、最初から見せたほうが分かりやすいだろうから。


 依頼を受けていた、農具を一から錬金しよう。素材と魔力を混ぜ合わせると、あらかじめ作っておいた錬金アイテムの作用薬を放り込んで、レシピ通りに完成させる。


「え? そのタイミングで素材を投入? いや、なに? その手際で錬金して……。チョット待って、もう出来たの!?」


 一つ一つの俺の動作に、横で見ていたマデリーネさんが面白く反応をした。それを横目に見ながら、錬金を成功させる。


 見られながらやるのは少し気になったけれど、まずまずの成功。これで納得してもらえるかな。


「はい。出来ました」

「れ、錬金したアイテムを見せてくれる?」

「どうぞ」


 驚いた表情で、俺の錬金した労力軽減自動クワを受け取るマデリーネさん。それをまじまじと観察していた。懐から品質をチェックするレンズを取り出して、確認する。


「品質が350も。凄い」


 ポツリとマデリーネさんが呟いた。


「この錬金アイテムは、どんな機能があるの?」


 観察を続けながら、アイテムの機能について質問してくる。俺は、その質問に答えた。


「その錬金アイテムは労力軽減自動クワと言って、使用者が疲れないように畑を耕すサポートをしてくれる農具です」

「これって、マルグレット様が考えたレシピで作ったの?」

「いいえ。俺が考案したレシピです」

「……」


 おばあちゃんから伝授してもらったレシピを参考にして、自分なりに考えて1から新しいレシピを考案した。そう話すと、マデリーネさんは絶句していた。


「どうじゃ? わしよりも、錬金術を極めているという話は本当だったじゃろう?」

「えぇ、そのようですね。男の子で、しかもこの若さ。こんなに手際の良い錬金に、新しいレシピの考案までするなんて信じられませんよ」

「そうじゃろう、そうじゃろう!」


 驚きながら俺の実力を絶賛するマデリーネさん。そんな彼女の反応を見て、とても喜ぶおばあちゃん。非常にごきげんな様子。


 どうやら、学長を務めているような人から見ても俺の実力は高いようだった。この村には、おばあちゃんと俺の他には錬金術師が居ないから比較することも無かった。自分の実力がどの程度なのか、今まで把握することは出来なかったからなぁ。

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