第244話 錬金術を学ぶ日々

 おばあちゃんの錬金研究室で、色々と教えてもらいながら錬金について学ぶ日々を過ごしていた。実際に、錬金術でアイテムを作ってみる。


「どうかな?」

「品質75か。なかなか高い数値だ。この数値を出せるのなら、上出来じゃ」

「やった」


 錬金術で作った塗り薬を、おばあちゃんに渡して評価してもらう。どうだろうか。


 おばあちゃんは、俺が渡したアイテムを片手に持って、もう片方の手にはレンズを持っていた。それを通して見ると、アイテムの品質の度合いが数値で分かるという錬金道具らしい。それを使って、チェックしてもらった。


 俺の作った塗り薬は、品質が75と評価された。これは、高い方だと思う。初めて1人で錬金してみたアイテムだったから、レシピを確認しながら戸惑いつつ、なんとか完成させた。


 おばあちゃんは、品質300以上のアイテムを軽々と作れるみたい。そのレベルに辿り着くまで、長い時間を掛けて腕を磨く必要がありそうだ。


 練習を積み重ねるのは得意だから、コツコツ頑張っていこう。


 魔力を操る方法については、最初から覚えていたから。他の錬金術師と比べて俺は、かなり速いスピードで錬金術の基礎は習得することが可能だと思う。


 習ってすぐに錬金術を成功させていたので、おばあちゃんも驚いていた。


 だけど大事なのは、どれだけ熟練度を高めるか。錬金術に対する知識や経験を積み重ねて、切磋琢磨する。その目標のために、品質というのは良い目安になりそうだ。


「本当は、5歳になってすぐ錬金術を教えるというのは早いかもしれないと、わしは思っていた。だけど、どんどん技術を習得していくリヒトを見ていると、私の判断は間違っていなかったようじゃな」

「5歳で錬金術を学ぶのは、早い?」

「とんでもなく早い。私が学び始めたのも10歳の頃だった。その時は、魔力操作を覚えることから始めて、必死に錬金術の基礎を覚えたものじゃ」


 昔を懐かしみながら語るおばあちゃん。色々な思い出がありそうだ。


「お前は少し教えただけで、あっという間に魔力を扱えるようになっておった。魔力操作の技術は、もう既にわしなんかよりも上手い。とんでもない才能じゃな」

「そうなんだ」


 ちょっと、やりすぎてしまったかもしれないと後悔した。もう少し、実力を隠しておくべきだっかな。子供っぽく振る舞うつもりはないけれど、実力がありすぎることで周りから嫉妬されたり不気味に思われたりしたら嫌だったから。実力は、ある程度セーブしておかないといけないと考えていた。そうした方が面倒が少なくて、平和に過ごせる。


 だけど、錬金術という興味深い技術に前のめりになっていた。早く習得してたいと思ってしまった。


 まぁ、おばやちゃんや両親は早熟だと思っただけで、不気味だとは思わなかったみたいで安心した。


「さぁ、私の錬金術の技術をお前に全て伝承しよう。ちゃんと学ぶんじゃぞ」

「わかった。全て、吸収するよ」


 素材の採取、錬金術の実践、それから村の人たちに錬金アイテムを配って回った。錬金アイテムは、おばあちゃんから教わったレシピに従って錬金する。効果を細かく調整してみたり、品質を高めるために工夫する。色々と試行錯誤をして、錬金を繰り返し実践することで錬金術の腕を磨いていった。




 俺が10歳になる頃には、おばあちゃんの村での活動を半分ぐらい受け持つようになった。村人たちが怪我をした時や具合が悪くなったときには回復薬を錬金して、畑で使用する農具、生活用品なども頼まれたら俺が錬金で作って村人たちに配った。


 ちゃんと報酬を貰い、薬などの緊急事態には無料で錬金アイテムを渡す。それが、おばあちゃんのやり方。しっかりと学んだ。


「ありがとう、リヒトくん。最近、この包丁の切れ味が悪くなってね。リヒトくんが用意してくれた研磨剤があれば、またあの頃の切れ味が戻ってくるわ。はい、これはお代の野菜ね」

「ありがとうございます。お代は、しっかりと頂きました」


 お薬は無料で配布して、生活用品や仕事道具などは依頼を果たすと報酬をもらっていた。とはいえ、ユノヘル村は地方にあるからなのか金銭ではなく、主に食べ物などを報酬としてやり取りしていた。行商人が村に立ち寄ることもあるので、そのときは金銭を扱っているようだけど。普段は物々交換である。


 今日のお代は、新鮮な野菜だった。家に持って帰って、母さんに渡そうと思う。


「ただいま!」

「おかえり。ちゃんと、仕事は終わったかい?」

「うん。終わったよ」


 錬金アイテムの配達を終えて、おばあちゃんの研究室に戻ってきた。錬金している彼女の横に並んで、俺も錬金を始める。


 現在、研究室には2つの錬金釜が設置してあった。おばあちゃん専用と、俺専用のもの。錬金術の腕が上達してきたからと、俺専用の錬金釜を用意してもらった。


 専用になった錬金釜は、俺が1から全ての状態を管理している。おばあちゃんも、この錬金釜を一度も触ったことはない。


 この錬金釜の管理というのも、錬金術師としての腕が試される。錬金した結果が、錬金釜の状態によって変化することもあるから。一流の錬金術師と呼ばれるような人は、錬金釜の扱い方も知っておかないといけない。


「よし、今日もいい調子だ」

「ふむふむ、なるほど。良い感じじゃな」


 今朝、採取してきた新鮮な素材を使って錬金アイテムをいくつか作ってみる。


 これは、錬金の腕を磨くための基礎練習だった。錬金を繰り返すたびに、いくつも改善点を見つけて次につなげていく。次に錬金したアイテムの品質は、前よりも高くなった。錬金術の腕も、メキメキと上達していくのを実感する。




「リヒト」

「ん? どうしたの?」


 錬金が終わって、一息ついているとおばあちゃんが真剣な表情で話しかけてきた。


「お前はもう、わしの実力を超えたようじゃな。錬金術について、わしの知識を全てお前に教え込んだ。後は、一流の錬金術師を目指して自分の道を歩む段階に来たようじゃ。まだ10歳という若さだが、お前は自由に錬金術を極めていくがよい」

「えっ!?」


 おばあちゃんから突然そう告げられて、錬金術の指導は終りを迎えた。これから先は、自分で自分の道を切り開いていかないといけないらしい。今まで彼女に指導してもらい、錬金術について学んできた。それなのに急に放り出されて、戸惑う。


 でも次の瞬間に俺は、ワクワクしていた。おばあちゃんから認められて、ここから先は自由に錬金術と関わっていける。


 基礎はしっかりと教えてもらった。だから、出来るはずだ。自信がある。


「わかった。自分なりに、やってみるよ!」

「うむ、良い返事じゃ。お前は、歴史に名を残す偉大な錬金術師になるじゃろう」


 おばあちゃんの期待に応えるために、俺は錬金術を極めたい。錬金術をどうやって極めていこうか。どうやって活用していこうか、楽しみながら考える。

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