第243話 救いの錬金術師
「今日は、村を見回ってみようか。リヒトも一緒についてきなさい」
「わかった」
おばあちゃんと一緒に、ユノヘルの村を見回る。いつもは、おばあちゃんが1人で村を巡っているらしい。けれど今日は一緒に、俺も行くことになった。
横に並んで歩いていると、とある家の前で立ち止まった。ここは、グニラさんの家だったかな。かなり高齢の女性が1人で暮らしている家だ。
「そういえば最近、体の調子が悪いと言っていたな」
おばあちゃんは失礼するよ、と言って勝手に玄関の扉を開ける。そのまま、返事を待たずに家の中へ入っていった。無断で入って大丈夫なのだろうかと心配しながら、俺も後を追う。
「グニラ、調子はどうだい?」
「マルグレット様。わざわざ、どうもすいません」
部屋の中に入ると、ベッドの上で寝ているグニラさんが居た。彼女は、顔色が悪く体調もよく無さそうだった。ベッドから身体を起こして、おばあちゃんに挨拶する。
「ふむ。また体調を崩しているのか」
「申し訳ありません。また、体の具合が悪くなって」
「気にするな。そういう年齢だから、仕方ない」
会話をするおばあちゃんは、グニラさんの様子を観察している。その横に立って、俺は2人の様子を見ていた。
「どんな具合じゃ?」
「いつものように、体がだるい感じです」
「痛む部分は、あるか?」
「お腹の辺りと、背中が痛みます」
おばあちゃんは、会話を続けながら腰から提げていた袋からアイテムを取り出す。小さな袋には収まりきらないサイズのアイテムが、袋の中から出てきた。まるで俺のアイテムボックスの能力のように異空間から取り出したような感じである。研究室に置いてある箱と同じような効果で、どうやら錬金道具らしい。錬金術では、そういう道具を作り出せるらしい。本当に、すごい技術だな。
「ほら、薬じゃ。飲んでみろ」
「ありがとうございます」
袋の中から取り出した、瓶に入った緑色の薬を渡した。その薬も錬金術で作成したもの。受け取ってすぐ、何の疑いもなく飲み込むグラニさん。すると、瞬時に顔色が良くなっていく。かなり即効性のある薬だった。
「だいぶ楽になりました」
「何かあれば、すぐに呼べ。わしと同じように、お前さんもかなり年老いているぞ。ちょっとしたことでも命の危険につながるから。油断しないように」
「わかりました。ありがとうこざいます、お代を」
「いらん。じゃあ、わしは行くからな」
薬代の受け取りを拒否すると、おばあちゃんはさっさと家から出ていこうとする。治療費は受け取らないようだ。
「貴方は、リヒトくん。マルグレット様に錬金術を教えてもらっているのね」
「そうです」
俺も、おばあちゃんの後に続いて一緒に家を出ようとした。すると、グニラさんに話しかけられた。
「マルグレット様は、モンスターに襲撃されたユノヘルの村を救って下さったとても偉大な方だから。ちゃんと、あの方の意志を受け継ぐのよ」
「モンスターから村を救った?」
おばあちゃんが村の人たちに、とても慕われているのは以前から知っていた。
錬金術を駆使して、村人たちを助けて回っているから。そう思っていたんだけど、過去にモンスターの襲撃から村を救ったことがあるらしい。それは初耳の話だった。
そんな勇ましい過去が、おばあちゃんにはあったようだ。
「そうよ。モンスターから村を取り返して、復興まで手伝ってくれたの。救いの錬金術師とは、まさにマルグレット様のこと」
おばあちゃんにの過去についてグニラさんからと話していると、玄関の方から声が聞こえてきた。
「恥ずかしいからやめろ。もう、何十年も前の遠い昔のことだ。そんなことよりも、さぁリヒト行くよ」
「わかった。元気でね、グニラさん」
「ありがとう。お仕事がんばってね、リヒトくん」
グニラさんに別れを告げて、家を出る。そこには顔を赤くしているおばあちゃんが待っていた。さっき言った、恥ずかしいという言葉は本当だったみたい。村や人々を助けるなんて立派なことだと思うから、恥ずかしく思う必要はないのにね。
おばあちゃんが救いの錬金術師と呼ばれていることを、今日初めて知った。そんな過去があったなんてね。
救いの錬金術師とは、二つ名みたいなものだろうか。この村には、おばあちゃんの他に錬金術師は居ない。比較対象が居ないから、彼女が錬金術師としてどのぐらいの実力者なのか、実際のところは分からない。だけど、俺のおばあちゃんがとても立派だということは理解した。
そんな立派な人に、俺は錬金術を習っていたようだ。これは、彼女の名を傷付けないように、より一層気を引き締めて錬金術の勉強に取り組まないといけない、と思った。
それから、俺たち2人は村の中を歩いて回った。困っている村の人を見つけると、錬金術で作り出したアイテムを渡して次々と助けていくおばあちゃん。その横で俺は静かにしながら、助ける人たちの様子を観察した。そうやって、手助けしていくのかと見学していた。
畑仕事が楽になるような錬金アイテムの農具を配ったり、畑を荒らす野生動物やらモンスターなど被害を防止するための錬金アイテムを設置したり。その他に、家庭の料理を豪華にするための調味料を奥さんたちに分け与えたり。その調味料も錬金術で作ったものらしい。
錬金術を使えるようになれば、色々なモノが作れる。とても便利な技術だった。
「ありがとうございます、マルグレット様。これが商品のお代です」
「うむ。確かに受け取った」
「これで、美味しい料理が作れます」
「存分に活用してくれ。では、私たちはこれで。失礼する」
道具や調味料などは、代金を受け取っていた。収穫した野菜や、加工した肉などの食料。手作りのお酒、織った服などをお金の代わりに頂いていた。どうやら、病気の人からは何も受け取らないようにしているらしい。その他の人たちからは、手助けの対価として何かをちゃんと受け取っている。ただの人助けではない、ということか。でも、その方が健全な気がするので良かった。
おばあちゃんが助けた住人はみんな笑顔を浮かべていて、村は活気に満ちていた。いつか俺も錬金術で自由自在に便利なアイテムを作り出せるようになって、村に住む人たちの役に立てるよう錬金術を学んでいこうと、心に誓った。
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