第242話 錬金術の最初の授業
母親から錬金術を学ぶ許可を得た後、おばあちゃんから最初の授業を受ける。
「錬金術師にとって、必要不可欠なものが2つある」
森に入る手前で、俺たちは立ち止まった。おばあちゃんは俺の方へ身体を向けると中指と人差し指の2本をピンと立てて、ピースサインを向けてきた。錬金術師には、必要不可欠な要素というものが2つあるらしい
聞き逃さないように、おばあちゃんの話に集中する。
「2つ?」
「そう。まずは、錬金術の素材を扱えるようになること」
錬金術を行うためには、素材を集める必要がある。
「色々な場所で素材を採取出来るようにならないと、錬金術師は錬金術を行えない」
続けて、おばあちゃんは詳しく説明してくれた。素材は、自分の手で採取しないとダメらしい。誰かに協力してもらうのは大丈夫だけど、誰かに頼んで代わりに採集を任せてしまうと一流の錬金術師とは言えないらしい。
自ら足を運び、自分で素材を手に入れる。それが基本。
そのためにも素材の特性について、知り尽くさないとダメだという。錬金術を極めるためには、どんな状態で素材を採取したのかを自分の目で観察して知っておかないとダメだそうだ。それが錬金の結果に、大きく関わってくるらしいから。
「そしてもう1つが、錬金釜の使い方。これをしっかりと扱えるようにならないと、錬金術師とは呼べない」
「その2つが揃えば、俺もすぐ錬金術師になれるの?」
質問してみると、おばあちゃんの表情はあまりパッとはしなかった。
「うーん。まだリヒトは幼いから、錬金術師にはなれないんだよ」
「それじゃあ何歳になったら、大丈夫なの?」
「あと1年。錬金術師には掟があって、5歳以上にしか教えちゃダメなんじゃよ」
「わかった。1年ぐらいなら待てるよ」
これまで、何十回も転生を繰り返して何百年もの長い間を生きてきた。1年という時間なんて、あっという間に過ぎていく。身体を鍛えて、魔力のトレーニングをしている間に1年なんて過ぎるだろうから。
「そうかそうか。リヒトは、ちゃんと我慢ができる子なんじゃな」
答えを聞いて嬉しそうなおばあちゃん。俺は頭を撫でられる。まぁ、普通の子とは違うから。
「1年間、錬金術の実践は我慢する必要がある。だけど、知識ぐらいならば教えても大丈夫じゃろう」
「素材について勉強する、ってこと?」
「うむ。今から、リヒトはわしと一緒に森の中に入る。そこで、素材の採集の方法を実際に見せて教えよう。ついてこられるか?」
「わかった。行けるよ」
問いかけられたので、もちろんだと答えた。危険があるのは、わかっている。この世界には、モンスターが生息しているらしい。森の中にも居るかもしれない。
遭遇したらどうするか、考える。手元に武器は無いが、モンスターに見つかっても逃げられるかな。4歳の身体で、素の状態だと逃げるのは難しいかもしれない。
魔力を体に纏わせれば、おばあちゃん1人ぐらいならば抱えて森の中を走り抜けることは可能だと思う。いざという時は、真の実力を発揮して逃げ切る。
それかアイテムボックスから武器を取り出して反撃するか。今の小さい自分の体で扱えるような武器はあったかな。今回の人生では、アイテムボックスが使えるようになったので、そういう事もできる。
本当にアイテムボックスは便利だ。素材採取の時にも、この能力が使えそうだな。そんな事を考えていると、おばあちゃんが森の方へ向く。
「よし。ならば、早速行ってみよう」
「うん」
ということで、2人で森の中に足を踏み入れた。生まれてから今まで、狭い範囲で行動してきた。村と畑以外の場所に来るのは初めてだ。まだ体が育っていない状態で見知らぬ場所に足を踏み入れるのは、緊張するな。
***
「大丈夫か? ちゃんと歩けるかい?」
「うん。歩けるよ」
森の中を自分の足で歩く。舗装されていないから、非情に険しい獣道。普通の子が歩くのは、かなり厳しそうだった。だけど俺は普通の子じゃない。おばあちゃんは、しきりに後ろを歩く俺のことを気にしていたが、自力でついていける。
ただ、おばあちゃんも年齢の割には足腰がしっかりしているようだった。森の中を歩き慣れているのかな。どんどん、先へ進んでいく。ちょっと気を抜いてしまうと、置いていかれそうな早さだった。今は俺のペースに合わせてくれているのか、普段はもっと早そうだな。とても余裕がある。
「もう少しで、目的地に到着するぞ。ほれ、がんばれ」
「わかった。ありがとう」
途中、何度か休憩を挟みつつ目的地へ向かう。村から遠く離れた場所。森の奥までやってきた。木々が鬱蒼と茂っている、森の中だ。ここに来るまでモンスターと1度も遭遇しなかった。運が良かったのか、それともおばあちゃんがモンスターとは遭遇しないような道を選んできたのかな。
「あった。これが、わしらの求めていた錬金の素材だ」
「これが?」
木の根元に生えている何の変哲もない植物だ。その辺りに生えているような草と、あまり見分けがつかない。おばあちゃんはどこを見て、判断したのだろうか。
「よーく観察してみなさい。葉の根っこに、何か感じないかい?」
「あっ! なるほど」
おばあちゃんに言われて、目を凝らして観察してみる。すると確かに、地面の下にごく僅かに魔力が溜まっているのが分かった。他の植物と比べると、違いが分かる。だが地面の下なので、知識を持って観察しないとスルーしていただろう。今までは、あまり気にしたことのない部分だった。
なるほど、こういう部分を意識することで素材の違いを判断するのか。今までの俺にはなかった視点で、勉強になる。
「リヒトも、これの違いが分かったかい?」
「うん。分かったよ」
「それじゃあ問題じゃ。あっちに生えているのと、こっちに生えているサヨウソウ。どっちが錬金の素材になると思う?」
この植物の名前はサヨウソウと言うらしい。そんな事を学びつつ、おばあちゃんの出題する問題を解いてみる。魔力を感じて観察すれば、一目瞭然だな。
「こっちのサヨウソウが錬金術の素材になると思う」
「正解じゃ!」
答えてみると、しっかり合っていたらしい。おばあちゃんは笑顔を浮かべて、正解だと言う。それから、頭を撫でて褒めてくれた。
その後も何問か問題を出されて、俺は答えていく。しっかりと正解を答えることが出来た。そのたびに何度も褒めてくれるので、とても嬉しい。
「……ふむ。これは、予想以上。わしを超える錬金術師になりそうじゃな」
ポツリと、おばあちゃんの呟く声が聞こえてきた。彼女に高く評価されているようだ。その期待に応えたいと思う。おばあちゃんの言葉を聞いた俺は、真剣に錬金術を学びたいと思うようになった。
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