第240話 初めての錬金術
「採取した素材は、この箱の中にしまうのじゃ」
「わかった」
おばあちゃんの研究室に戻ってきたので、森で採取してきた素材をすぐ整理する。鮮度を保つため、戻ってきてすぐ特殊な箱の中に保管した。この中に入れておけば、しばらくの間は植物の新鮮さを保つことが出来るそうだ。そんな技術があるらしい。まるで、俺のアイテムボックスのスキルみたい。
錬金術では、素材の鮮度というのが非情に大事な要素だという。
「さて。今日から、いよいよリヒトに錬金術の基本を教えていこうかと思う。準備は良いか?」
「ようやくだね。準備はバッチリだよ、おばあちゃん」
今から錬金術について学ぶ。1年前からの約束だった。5歳になったら、錬金術について教えてくれると祖母は約束してくれていた。どうやら、昔から伝わる掟により錬金術というのは、5歳以上じゃないと教えちゃダメらしい。どんなに優秀で才能がありそうな子でも、5歳に満たない子には絶対に錬金術を指導しちゃダメだという。それが、錬金術師のルール。
生まれた瞬間から祖母に錬金術師としての才能を見出された俺は、それでも今まで錬金術について教えてもらえなかった。興味があるのに教えてもらえないから、ものすごくもどかしい思いをしたものだ。
ただ、おばあちゃんも我慢できなかったみたい。知識について少しだけ先に教えてくれた。それは、錬金術の指導には含まれないらしい。実践はしないから。本格的な指導を始めるのは、やっぱり5歳になってから。でも、知識を教えてもらうだけでも楽しかった。積極的な俺に、おばあちゃんも嬉しそうに色々と教えてくれた。
素材の特性、採取の方法、集めた素材を保管する方法について学んだ。
ようやく5歳の誕生日を迎えた俺。翌日の今日から、錬金術について教えてもらうことになる。ようやく教えてもらうので、我慢してきた分、俺はすごくワクワクしていた。
「ほら、この杖を握って」
「うん」
かなり使い込まれて、年季の入っている杖を手渡される。握ってみると、ちょっと大きくて持つのに苦労する。流石に5歳の身体に対して、この杖は大きくないかな。だけど、落とさないように杖をしっかりと握る。
これは錬金術に使う道具らしい。最初聞いた時は、錬金術に杖を使うのかと疑問に思った。まるで、魔法使いのようだ。
「よし、その調子じゃ。それを錬金釜の中へ」
「こう?」
「よく出来た。魔力を込めて、ゆっくり回す。そうそう、その調子で続けるんじゃ」
「うん」
そして大事なのが、錬金釜。杖と錬金釜、この2つの道具が揃えば錬金術が使えるという。
指示に従い、大人が3人ぐらい入りそうな大きな錬金釜に杖を突っ込む。錬金釜の中には、銀色に光っている液体がたっぷりと入っていた。勢い余って、中に落ちると溺れてしまいそうで少し怖い。気をつけないと。
ゆっくりと杖を回しながら自分の中にある魔力を錬金釜に込めていく。魔力操作は得意なので、おばあちゃんの言われた通りに出来たと思う。
「まずは、錬金を成功させるためのベースを作るんじゃ。その後に、素材を入れる。とりあえず、これを入れてみよ」
「はい」
手渡された錬金素材の植物を、錬金釜の中にゆっくりと入れていった。料理を作るような感じで、丁寧に。この動作には慣れている。
「良い手付きじゃ」
動きを褒められる。これで良いようだ。そのまま、ゆっくりと錬金釜の液体と中に入れた素材をかき混ぜる。
「魔力は続けて一定の早さで流し込んで、中に放り込んだ素材と混ぜ合わせるように意識して。それから、作りたいアイテムを頭に思い浮かべて。そう!」
ゆっくり、ゆーっくりと錬金釜に入れた杖を回す。言われた通りに、頭の中で思い浮かべる。イメージが大事らしい。以前見せてもらった、赤色の液体だな。どういう特性があるのか、おばあちゃんから習ったことを思い出して、錬金釜をかき混ぜた。
杖から伝わっていく俺の魔力と、錬金釜の液体が混ざり合い、色が変化する。赤が目の前に広がった。
「そうすると、錬金アイテムの作用薬が出来上がりじゃ。すぐ容器に移して。さぁ、早く!」
「はい!」
おばあちゃんに急かされながら、錬金釜の中に入っている液をすくって、瓶の中に入れる。赤く光った液体が瓶の中に入った。錬金アイテムの作用薬が完成した。
これは、錬金するための基礎的な液体だそうだ。これを使って、色々なアイテムを錬金していく。錬金術を扱う上では基本となる、大変重要なアイテムの1つらしい。
数秒後、錬金釜の中に注がれていた液体は再び銀色へと戻った。見た目で分かる、作用薬の赤色とは全く別の液体に変化していた。
「急がないと、こうやってすぐに変化を起こして元の錬金釜液に戻ってしまう。錬金というのは、時間との勝負でもある。しっかりと覚えておくのだよ」
「なるほど。わかりました!」
ただ単純に魔力と素材を錬金釜の中で混ぜ合わせるだけではなくて、タイミングもあるのか。これは、習得するのが難しそうな技術だ。何度か繰り返して、コツを覚えていかないと。
「しかし、初めての錬金術とは思えないような実力じゃな。これだけ出来るのなら、すぐにリヒトも一流の錬金術師になれるぞ」
「ほんとに?」
「フフフ。本当じゃ! 早速、次の基礎的な錬金術の技法を教えていくぞ」
「よろしくおねがいします」
「うむ」
その後も、おばあちゃんと2人で研究室にこもって錬金術を行った。俺は錬金術について、祖母から学んでいった。
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