12周目(異世界ファンタジー:錬金術師)

第239話 祖母と一緒に素材採取

 とある森の中。5歳の俺は地面の上にしゃがんで、生えている草を選別していた。これがいいか、あれがいいか。うん。これが良さそうだ。教えてもらった特徴の草を発見して、気分良く摘み取る。それを、背中のカゴに放り込んだ。


 おっと。カゴの中から落とさないように、気をつけないと。


「リヒトや! そっちは、終わったかい?」


 木々の間から、力強い老齢の女性の声が聞こえてくる。彼女は、俺の祖母である。しゃがんでいた俺はゆっくり立ち上がると、声が聞こえてきた方へ急いで返事する。


「うん。良い素材を見つけたよ、おばあちゃん!」


 肺から空気を出して、喉を震わせる。できるだけ大きな声で。今はディスプレイを使う必要もない。


 まだ5歳になったばかりで体の小さい俺は、彼女の視界からは外れている可能性もある。返事をせずに黙ったままだと、心配させてしまうだろう。


「なら、早く帰るぞ。暗くなったらモンスターが出てきて危ないから戻っておいで」

「わかった。今すぐ戻るよ」


 採取を終えて、植物や鉱石が目一杯まで入ったカゴを背負いながらおばあちゃんの居る場所まで走っていく。素材の入ったカゴは少し重い。けれど、まだ小さい俺でも問題なく運べるぐらいの量。


「成果の方は、どうじゃ?」

「これだけ採れた」

「こんなにか。ふむふむ、うん。品質は、なかなかじゃな。よくやった」


 成果を問われたので、背負っていたカゴの中身を見せる。少し驚いてから、集めた素材をチェックするおばあちゃん。俺は頭を撫でられ、褒められた。教えてもらった方法を、ちゃんと実践できたようだ。


「しかし、リヒト。そんなに沢山持って大丈夫か? 重くて途中で運べなくなるのはダメじゃぞ。研究室まで持って帰れる分だけ、採取するんじゃ」

「大丈夫だよ、おばあちゃん。これぐらい、軽い軽い」

「ならいい。お前は本当に、元気な子じゃな」


 心配するおばあちゃんに対して、俺は笑顔を浮かべて問題ないと答える。今回は、体の丈夫な子に産んでもらった。そして、この年まで健康に育ててもらった。両親には本当に感謝している。


 周囲にモンスターが隠れていないか警戒しながら、歩き慣れた森の道をスイスイと進む。その後を、おばあちゃんがゆっくりと歩いて追いかけてくる。


 後ろのおばあちゃんを置いていかないように気をつけて、ペースを合わせないと。


 薄暗い森の中を2人で歩く。研究室がある村までは意外と遠かった。上質な素材を採取するのには、人があまり踏み入れないような場所が良いとされているから。


 そして、森の奥深くには危険もある。


「おばあちゃん、モンスターが近くにいるよ」

「なに? どっちだ?」

「向こう」


 モンスターの気配を察知したので、後ろを歩くおばあちゃんにもすぐに知らせる。疑問に思うことなく、それを聞いてくれるおばあちゃん。すぐに足を止めて、息を潜めながら状況を把握する。


 モンスターが1匹、前方を移動しているな。他に、危なそうな敵が近くに居ないか確認する。あれの他には、居ないか。


 とりあえず、近くにはモンスターが1匹だけかな。コチラに気付いていない様子。しかし、もう少し前に進んでいたら気付かれていたかも。


 どうやら俺の気配察知能力は、以前に比べてかなり衰えているようだった。前世が平和過ぎて、感覚が鈍ってしまっていた。油断は禁物だ。近くには他にも潜んでいるモンスターがいるかもしれない、と気を付ける。


「奴が離れるまで、ちょっと待とうか」

「わかった」


 おばあちゃんは、余計な戦いは避けることにしたようだ。こちらに気付いていないモンスターが去っていくのを待って、戦いを回避することにしたらしい。今の俺なら戦いを仕掛けて勝てると思う。けれど何も言わず、おばあちゃんの方針に従った。


 だけど、向こうから近寄ってくる可能性もある。モンスターが近寄ってきたら追い返すためにも、武器の準備だけはしておこう。俺は、小さなナイフを装備していた。これを使わずに済むといいけれど。


 すると、おばあちゃんも動き出した。


「これを使おう」

「それは何?」


 おばあちゃんが懐から何かを取り出した。拳サイズの小さな袋。それをフリフリと小刻みに振る。布と、中に入っている何かがカサカサと鳴る音だけ聞こえた。


 俺はおばあちゃんに小声で、それは何なのか聞いてみる。


「これは、モンスター避けじゃ。研究室に戻ったら、お前にも作り方を教えよう」

「うん」


 しばらく待つと、モンスターの気配が離れていった。おばあちゃんの袋が、効果を発揮したのかな。


「大丈夫。モンスターの気配は離れたよ」

「うむ。リヒトは、良い能力を持っておるなぁ。モンスターの気配を事前に察知することが出来れば、採取にはとても有利じゃ。一流の錬金術師になれる才能がある」

「やった」


 色々と、俺の才能を褒めてくれるおばあちゃん。一流の錬金術師になるようにと、期待されている。彼女の期待に応えられるように頑張りたいと思う。まだ、錬金術に関しては素材採取の方法しか学んでいないけど。これから勉強していくつもりだ。


 早速、モンスター避けのアイテムの作り方を教えてもらおう。ちゃんと覚えないといけないな。


 今まで出会うことのなかった、錬金術という新たな技術に俺は興味津々だった。

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