第236話 公表と影響
まずは、リイン・フォーティブ社と相談して作者の顔を表に出すことにした。まだ学生だったから公表は控えたほうが良いだろうという判断で、今までは隠してきた。しかし現在、ネットでレイラという作家が横大路麗羅という人物であるという事実が日本で出回ってしまった。正式には公表していないのに、ネットで調べたら分かってしまう情報。なので、いまさら顔を隠し続けることは出来ない。
”ということで、私のプロフィールは公開しちゃってください”
「……とうとう、気付いてしまいましたか。本当は、レイラさんがスクールを無事に卒業するまでは公表しないでおこうと、横大路家の方々とも話していたのですが」
マティルダさんが、申し訳なさそうな顔をする。だけど、こうなっては仕方ない。彼女が悪いわけでもないし、ポジティブに考えよう。
公表することで、今まで見送ってきたイベントにも参加することが出来るように。
早速、イベントの予定が組み込まれることになった。イギリスの書店でサイン会が開かれることに。その日、信じられない人数が集まった。どうやら、ヨーロッパ全土から集まってきたファンらしい。民間警備会社にイベント警備を依頼していたらしいけれど、予定の人数では足らずに急遽追加で動員するほどの盛況ぶり。
「応援しています」
”ありがとうございます”
立派なひげを蓄えた老紳士が差し出した本にサインを書いた後、力強く握手する。いつものようにディスプレイを使ったコミュニケーションで、スムーズに。ファンの人達にも、しっかり事情を把握してもらっていた。
「本を出版する前、サイトで公開を始めた頃から読んでいました! お会いできて、本当に光栄です!」
”ありがとう。これからも応援お願いします”
金髪のハンサムな中年男性が、感激している。本になる前から知っていたという。そんな古くからのファンにも会えて、嬉しい。こういう人達を大事にしていきたい。気持ちを込めて、本にサインする。
「この本、とても面白かったです。あの、サイトの更新も、楽しみに待っています。頑張ってください」
”はい。頑張ります”
物静かな女性が遠慮がちに声を絞り出す。この人も、サイトで公開しているものを見てくれているらしい。応援ありがとうございます。励みになります。
「色々と大変みたいですが、頑張ってください!」
”ありがとうございます。
右手で力強く拳を握っている女性が応援してくれる。どうやら、日本で起きている騒動を知っているみたい。ネットで調べたら、やっぱり知ってしまうよね。だけど、当の本人は知らない間に起こって、いつの間にか終わっていた事だから。大変だとは思っていないけど。
その後も、思ったより若いとか、とっても可愛いとか、本当に日本人だったのかと驚かれたり。色々な反応や言葉を貰いながら、本にサインを続けた。
数百人のファンとのやり取りを楽しんだ後、サイン会は無事に終了した。サインを書き続けて腕と手が、かなり疲れたな。最近は身体も強くなってきて、こんなに疲労したのは久しぶりかもしれない。でも、心地よい疲れ。
イギリスのテレビ出演のオファーも殺到していた。全てに出演することは出来ないので、リイン・フォーティブ社の人に確認してもらって、受けるかどうかを決める。番組に出演して本の宣伝をすると、更に作品が売れまくった。その盛況ぶりが各国に伝播していく。
映画関係のイベントにも駆り出されて、色々な俳優や映画スタッフと知り合うことになったり。
「お疲れ様です。明日からは、しばらくイベント出演のオファーはありません。学生生活の方に専念してください。それから、少し疲労が溜まっているようですので身体もゆっくり休めてください」
”ありがとうございます。勉強、頑張ってきます”
いつの間にか専用の女性マネージャーが付いて、しっかりと予定を管理してくれるので学生生活も苦労なく送れている。
そんな事をしている間に、1年が過ぎていた。沙良ちゃんとの学校生活は、あっという間に終わってしまったな。もうちょっと、彼女と過ごす時間を楽しみたかった。
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