第235話 知らぬ間に、終わっていた話
その事実に気付いたのは偶然だった。ある日、なんとなく目に留まった記事。日本で起きている出来事について、色々と書かれていた。どうやら俺がイギリスの学校に通って勉強している間、日本では色々と騒動が起きていたようだ。
遡って、その出来事について詳しく調べてみた。
最初は、海外で活躍する作家でレイラという名前が雑誌やテレビなどで紹介されて話題になったらしい。ほぼ毎日のように、番組や週刊誌で特集されていた。ちょっと過剰なほど。俺が日本に居た頃にも、そういう状況になっていたらしい。そんなことになっていたなんて、その時は気付かなかったな。テレビも見ないし、興味がないので察知できなかったのか。
しかも、リイン・フォーティブ社には許可も取らず勝手に本の表紙を使ったりしていたようだ。それを抗議したことが記事になっていた。
マティルダさんやダレルさんは、そんな問題があったなんてことは全然、教えてくれなかった。気を遣って、黙って処理をしてくれたのかな。とにかく、そんな問題があって日本のテレビ局にリイン・フォーティブ社が正式に抗議をした。
そこから、日本のマスコミの取材や報道がどんどん過熱していった。
海外の作家として認知されてから、それが横大路麗羅という日本人だということがバラされた。それから出生の秘密も、本人の意志なんて無視して勝手に公表された。捨て子だったこと、横大路家の人間が引き取って育てたこと。
それと同時に事実無根の噂も広まったみたい。横大路麗羅が言葉を話せないのは、わざと医療ミスを起こしたから。横大路家の秘密を漏らさないように、担当の医者に指示して、話せないようにする処置をしたとか。
赤ん坊だった横大路麗羅の才能を見抜いて、彼女を手に入れるために本当の両親を秘密裏に処理したとか。
横大路麗羅が使用している、ブレイン・マシン・インターフェースというものは、文字をディスプレイに表示させる機能ではなく、横大路家に都合よく改変されている文章が表示されている、なんて噂もあるらしい。あと、そのデバイスで洗脳しているだとか。
それらは全て嘘である。本当に、勝手なことを書いている。どうして、そんな話が出てくるのか理解できないぐらい適当な内容ばかり。根も葉もない、デタラメな話が世間に出回っていたそうだ。
その頃もう俺は日本を出て、イギリスに居たので何のダメージもない。というか、そんな事になっているのを本当に知らなかった。でも、日本に居る両親は心を痛めていたと思う。横大路家も、いわれなき批判で損害を受けたようだ。
横大路家は、もちろん黙ったままじゃない。すぐさま反撃に出た。というか、そうなることを見越して事前に準備していたようだった。
公表されたプライベートな情報は、違法な方法で入手したことを証明した。しかも、世間で流れている噂の出どころが楽本社の人間であるということを。証拠付きで理路整然とした弁明により、事実が明らかになってから世論は横大路家側についた。
というか、あの楽本社がそんなことをしていたなんて。
そんな問題があったタイミングで、横大路家が新たな出版社を設立する。リイン・フォーティブ社と協力して、俺の作品を日本でも広めるために。数年前から計画されていたらしい。
横大路家が出版業界に参入する、というような話を聞いたことがあった。詳しくは知らなかったけれど。なるほど、これのことだったのかと納得した。
日本だけでなく、他の国でも出版社を立ち上げるそう。これからさらに、世界中で作品が有名になっていく。その時になって、模倣品など増えたりする可能性がある。その他、アイデアが盗用されるのを防ぐためにも各国で本を出版しておく目的で。
横大路出版から売り出された、日本語版の作品はベストセラーになった。もともと日本で書いていたモノが、イギリスで先に売り出されヨーロッパで大人気になった。そして再び、日本に戻ってきて売れに売れた。何というか、複雑な経緯を辿ってきた作品だ。
横大路出版では、俺の作品以外の本も売り出している。プロモーションをどんどん仕掛けて、日本にある出版社のシェアを奪っているようだ。特に、横大路家に攻撃をしてきた楽本社は、かなり厳しい状況に置かれているらしい。
日本から遠く離れた場所に居た俺は、それらの話を終わってから知った。そんな事が起きていたらしいと、騒動の中心人物でありながら、特に関わることもなく。
良成さんは、こうなることを予想して俺を出来事の中心から遠ざけていたのかな。まだ中学を卒業したばかりの子どもだから、面倒事に巻き込まないように俺を海外へ行かせた。そういうことだろう。
生まれてからこれまで、横大路家にはお世話になりっぱなし。周りにいる人たちが色々とサポートしてくれている。恵まれた環境だということを、ひしひしと感じる。こういう人生は久しぶりだなぁ、と身にしみて感じた。自分の能力を発揮するようなチャンスがない、ということに物足りなさもあった。けれど基本的には、楽で良い。
とはいえ、横大路家の人たちには助けられてばかり。ちょっとでも意識して恩返ししていかないと、俺が今回の人生を終えるまでに恩を返しきれなくなってしまう。
今回俺が留学した目的である沙良ちゃんのメンタルケアは、もちろん行う。ただ、友だちである彼女と楽しく過ごすだけなので、横大路家への恩返しとは言えないか。
もう一つ、恩返しの方法。作家として仕事に励めば、巡り巡って横大路家の助けになるはずだ。
リイン・フォーティブ社の人達にも、知らないうちにお世話になっていたみたい。本の出版に関して色々と助けてもらって感謝していたけれど、その感謝だけでは足りないぐらい、支えてもらっていた。だからこそ、俺は作家の仕事に集中して、会社に還元していかないと。
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