第232話 中学卒業と留学
夏休みの家族旅行から無事に帰ってきて、再び普通の学生生活に戻る。その合間に、仕事の相談が色々と飛んできたり。
リイン・フォーティブ社に、俺の作品を原作にした映画化やドラマ化、グッズ化をしたいという話が多数舞い込んできているらしい。返事をどうするか聞かれたので、受けても良いんじゃないかと軽い気持ちで答えた。
映画製作会社が何社か、映画化権についての交渉が行われた。配給会社も一緒に、交渉に参加しているという。かなり大掛かりな取り組みになっているようだった。
その辺りの話し合いは、ほぼ全てをリイン・フォーティブ社に任せている。長年、関わってきた彼女たちの人となりは、ちゃんと理解しているつもりだ。悪いようにはしないだろう。
そんなことが行われている間に俺は、普段の生活をストレスなく楽しんでいた。
そろそろ進路を考えないといけない時期。中学を卒業した後は、どうしようかな。このままエスカレーター式で進学して、高校に入学するのか。作家として、本格的に仕事をするべきなのか迷った。正直言って、今のところ高校に進学してまで学びたいことが無いからなぁ。
俺が主に関わっている相手が、イギリスにあるリイン・フォーティブ社だから。学校がなければ、日本に居続ける理由もない。家族と離れることになるのは寂しいが、集中して仕事するならイギリスに行ったほうが色々と都合が良いだろうし。卒業後は海外で暮らそうかと、ぼんやり思い始める。
進路について悩んでいる最中、横大路家の当主である良成さんから呼び出された。相談したいことがあるらしい。
「中学卒業後、君には沙良と同じようにイギリスへ留学してもらいたい」
”留学、ですか?”
横大路家の屋敷に行ってみると、良成さんからお願いされた。彼は立派なスーツ姿で、真剣な話し合いの場で。
「どうやら、沙良が卒業まで残り1年なのに日本へ帰りたがっているらしい。家族が恋しくて、寂しがっているようだ。そこで君には沙良が無事に卒業できるまでの間、彼女を支えてもらいたい。とても仲が良い君が近くに居れば、沙良もあと1年ぐらい耐えられるはずだ」
確かに、休みになったら必ず日本に帰ってくる沙良ちゃん。イギリスでの生活が嫌というわけではなく、家族と離れて暮らすのがツライと語っているのを聞いたことがあった。今まで耐えてきたが、それも限界が近いと良成さんは予想しているらしい。
留学してから2年が経過していた。せっかくなら、向こうの学校を卒業するまでは頑張って欲しいと願っているという。
しっかり者のように見えるけれども、実は寂しがり屋な部分が大きい沙良ちゃん。俺も、彼女には卒業するまで頑張って欲しいと思う。
「これは強制ではない。君の両親にも事前に伺っていて、本人の判断に任せるという回答を得ている。留学に必要な費用も全てコチラが出そう。どうだろう、引き受けてくれるかい?」
強制ではないと言われても、断ることは難しいよな。だけど、話しを聞いた時点で俺は引き受けるつもりでいた。コチラのメリットも多いし、沙良ちゃんの役に立てるのなら、いくらでも協力したい。
俺も、両親と進路について相談していた。高校に進学するのか、イギリスに仕事をしに行くか。どうするかは、本人の判断に任せると言われていた。どちらを選んだとしても、親として全力でサポートすると約束してくれていた。
ここで新しい選択肢が現れた。とても魅力的で、そうしたいと思わせてくれる話。俺は持っているディスプレイを、良成さんが見えるように向ける。
”わかりました。そのお話、引き受けたいと思います”
その文章を見て、良成さんはウンウンと頷いた。
「ありがとう。必要な手続きなどはコチラで進めておくよ」
”はい。お願いします”
ということで俺は、中学を卒業したら沙良ちゃんと同じような進路で留学することに決まった。話してくれた通り、費用も横大路の本家が受け持ってくれる。
ただ今回の話、沙良ちゃんのメンタルケア以外にも何か裏があるような気がする。出版業界のきな臭い動き、というのが関係しているように思う。今もまだ、俺の身辺警護は続いていた。例の問題は、まだまだ解決していないみたい。
俺を海外に行かせて、問題から引き離そうとしてくれているのかな。実際はどうかわからない。だけど、裏で色々と守ろうとしてくれているのを感じていた。今回の件も、その1つだと思っている。だから俺は、信頼して厚意に甘えておく。そのほうが都合も良いので。
中学での成績は優秀だったので、留学するための条件を十分に満たしていた。語学力も当然、問題なし。
あっさりと留学が決定する。向こうへ行く準備も、あっという間に完了していた。中学の卒業式が終わったら、3日後にはイギリスへ住居を移す予定。
あっちで生活する家も、既に決まっていた。リイン・フォーティブ社の人たちからサポートしてもらって、何の問題もなく新生活の準備は整った。どうやら俺は、あの会社から重要人物として扱われているらしい。旅行の時も、いろいろ手配してくれたことを覚えている。そして、今回も手厚いサポートをしてくれた。
あとは、沙良ちゃんと合流するだけ。いろいろな人に助けられてきたように、俺も彼女のサポートをして支える。サポートすると言っても、家族と離れた生活が続いて寂しいという沙良ちゃんと一緒に過ごすというぐらいだけど。
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