第231話 家族と一緒に海外旅行
良成さんから、用心しろという忠告をされた。だが、普段の生活では危険に感じるような出来事は起こらなかった。何事もなく、普通に通学できている。学校までは、運転手の米村さんに送ってもらっているからなのかな。
だけど気を抜かず、念のために両親と相談しつつ、使用人のゆき乃さんや米村さんにも警戒してもらいながら、リイン・フォーティブ社のマティルダさんたちにも事情を伝えておいた。
最近、俺の周りに何人か護衛がついていることには気付いていた。遠く離れた場所から見守るような形で秘密裏に、付き添っていた。
自宅を出て車に乗り込むとき、車から降りて校舎に行くまでの間。友人と一緒に、街へ遊びに行くときなども。こちらの行動を観察するというよりも、周囲への警戒が強い。おそらく、俺を護衛してくれているのだろう。特に何も言われていないので、とりあえず何も気付いていないフリを続けていた。
でも、以前と比べて俺の察知能力はかなり衰えているのを感じた。人が住んでいる場所は雑音が多くて、感覚がどんどん鈍っていく。だから自分の感覚を信じすぎないように気をつけて、プロの人たちを頼りにしたほうがよさそう。
良成さんたちは出版業界のきな臭い動きについて、意外と深刻な問題かもしれないと思っているのか。俺はまだ、何が起こっているのか捉えられていない。良成さんが警戒してくれているようだから、あまり邪魔しないように静観しようと考えいてる。何か起これば、自分で動けるように気持ちの準備だけしておこう。
本を出版してから、さらに印税が入ってきた。あの後も継続して、億を超える収入を得ることになった。驚きである。
学校は夏休みに入った。この休暇を利用して、以前から考えていたイギリス旅行へ行ってみることにした。家族も一緒に、5泊6日の長期滞在で。
せっかく本が売れて稼ぐことが出来たお金だけど、子どもである俺には使う機会がなかった。一応、横大路家の資産を運用したり管理している組織に任せたり、様々な慈善団体に寄付していた。だけどまだ、自由に使えるお金に余裕があった。
使わないともったいないので、今回は家族の旅費を全額俺が出して親孝行することにした。2人に、楽しい思い出の旅を作って欲しい。これで少しは、恩を返せるかな。
仕事が忙しい父親も、わざわざスケジュールを空けて一緒に来てくれるという。むしろ、気を遣わせてしまったかもしれないな。いつも仕事で忙しいから、この機会に休んでもらう。そう、ポジティブに考えよう。
家族3人でファーストクラス席を予約した。飛行機代で数百万を支払う。さらに、ホテルは豪華な部屋を取った。リイン・フォーティブ社のマティルダさんに相談して教えてもらったホテルである。こちらも、1泊100万円を超えている高級ホテル。そこで、5泊していく。予算はたっぷりとあるので、思い切って使っていく。
今回の人生では、初めての海外になる。前の人生だと、何度かイギリスにも行ったことがある。ダンジョンマスターだった頃や、料理人をしていた頃に。その時の旅は仕事だったり修行だったりで、楽しんだりする目的ではなかった。今回のように旅行らしい旅行は、初めてかもしれない。せっかくなので、存分に楽しもうと思う。
とはいえ何日間か、リイン・フォーティブ社に寄って仕事する日を設けてあった。直接顔を合わせた打ち合わせをして、色々と確認しておきたいことがあるそうだ。
前に話を聞いていた、大量のファンレターを確認しないと。その他にも、俺の本が海外で様々な賞を獲ったそうなので、その表彰や取材などがあるかもしれないと聞いていた。光栄なことだ。
せっかくのお休みだけれど、お仕事があるだけありがたい。父親と母親にも了承を得て、時間を確保して仕事をする予定。父親がいつも仕事をして忙しそうで大変だと見ていた俺も、実は仕事中毒気味に。気をつけないと。
仕事の合間に、家族と一緒に楽しくヨーロッパの国々を観光した。世界的に有名な観光名所に行ってみたり、サッカーの試合を生で観戦してみたり、英国御用達の品々を売っているお店を見て回ってショッピングを存分に楽しんでみたり。
あとは、大英博物館も面白かった。
展示品されているモノを見て回ると、なんとなく馴染みがあるような感じがした。ファンタジーな世界を生きてきた俺にとって、見慣れてたアイテムがガラスケースの中に収められて、大事に飾ってあるのが不思議である。ここに展示してある槍など、似たような武器を使用して、草原で戦っていた記憶がある。懐かしいな。
俺も、武器とか防具とか宝石などアイテムボックスの中に大事に保管してあった。今は取り出せない状態だけど、俺の持っているモノはどれぐらいの価値があるのか。収蔵品としての価値を出すため、やはりちゃんとした歴史が必要なのかも。異世界の品だと、この世界では骨董品としての価値は認められないだろうな。
そんなことを考えながら、博物館の収蔵品を鑑賞してみたり。
ロンドンにある書店に、ちゃんと俺の本が売っていた。人の目に留まるような棚に陳列してある。今も1人、中年の男性が俺の目の前で1冊を手に取りレジに向かう。本当に売れているらしい。それを見た両親は、大喜びだった。
「アレみて! せっかくだから、私たちも記念に1冊買ってみましょうよ」
「うん、そうだな。1冊、買おう」
”え。もう、家に何冊か保管用にあるから買わなくても大丈夫だと思うけど……”
母親が本を持って、そのまま父親と一緒にレジへ向かって行ってしまった。
まさか、作者の両親が本を買いに来ているだなんて誰も思っていないだろう。まだ世間に顔出しをしていなくて、本当に良かった。誰にも気付かれることなく、本屋を出ることができた。両親は満足そうだったけれど、俺はかなり恥ずかしかった。でも両親が喜んでいるから、いいか。
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