第223話 方向転換
楽本社での書籍化については、自然消滅した。一番最初にメールで連絡をくれて、断っても熱心に何度もアプローチをしてくれたから、ここを選んだら良さそうかもと感じたのに。もう少し、色々と確認してから話を進めるべきだったかな。事前に確認しなかったのは、俺の失敗だろう。
最初に感じた嫌だという直感を信じて楽本社の誘いはバッサリと断って、その他の出版社にお願いするべきだったのかな。
勢いに乗った俺は、やってみようと見切り発車で本の出版をお願いしてしまった。あの時に俺は、一旦落ち着くべきだったか。今回の人生で、進むべき道が見つかったかもしれないと思った。心が焦ったか。それで、2年間も前に進めなかった。
まさか、ここまで何も進展が無いとは予想していなかった。本の中身で揉めたり、契約内容で揉めたりするかもしれないと危惧していたが、その段階よりもずっと前で頓挫してしまった。こんなことって、あるんだなぁ。
本の出版は、ここで諦めておこうかな。それは、絶対に必要なことではないから。そう思ったけれども、もう一つ熱烈なアプローチをしてくれている出版社があって、どうしようか迷っていた。まだ、本の出版を目指すべきなのか。
アプローチをしてくれているのは、リイン・フォーティブ社というイギリスにある出版社だった。日本ではなく海外の出版社だ。
書籍化の打診メールを、先約があるという理由で何度か断ってきた。それなのに、リイン・フォーティブ社は諦めずに、3ヶ月に1度ぐらいの頻度で定期的にメールが送られてくる。
一度断ると、再び書籍化を打診するメールが送られてくることは、ほぼ無かった。だが、いくつかの出版社は諦めずにメールを送ってくれる。その中でも一番熱心に、何度もメールを送ってくれたのが、リイン・フォーティブ社だった。しかも、送られてくる内容も定型文ではなく、熱い想いが伝わってくる考えられた文章だった。
更新したサイトの感想を書いてくれたり、次に公開される文章を楽しみにしているという応援のメッセージ。
まだ本が出版されていないようだけれど、何か問題が発生しているんじゃないか、という心配。コチラからは、詳しい情報は伝えていない。なのに、まだ本を出版していないということは知っているらしい。どうやら調査して、把握しているようだ。
もし先約がキャンセルになっている場合は、ウチで出版の話を進めるのはどうか、というお誘い。あるいは、問題の解決を手伝うと申し出てくれた。
これは善意の言葉なのか、なにか裏に考えがあるのか。楽本社の件で、俺はかなり疑心暗鬼になっていた。また、話だけ持ち掛けられて放置されるんじゃないか。何か別の目的があるんじゃないのか。
だけど、とても熱心に働きかけてくれる出版社だった。リイン・フォーティブ社は大丈夫な気がする。とはいえ、警戒心は持つべきかな。
楽本社の件で、出版社に抱くイメージが悪くなった。もしかすると、楽本社だけが特別悪かったという可能性もあるけれど。
楽本社との件が消滅してすぐ、他の出版社に頼るというのも義理を欠いた行動かもしれない。
まぁでも、2年も待って何も進展しないとなると義理も何も無いのかな。向こうが先に配慮のない行為をしてきたから。出来る限り誠実に付き合ってきたつもりでも、ダメだった。もう、待つのは十分だろう。
とにかく、本の出版をお願いするかどうかは別として、一度リイン・フォーティブ社に本腰を入れて連絡してみよう。今までの当たり障りのない返事ではなく、真剣に話を進めるかどうかの返事を。
周りの人たちにも相談しつつ、今後の動きを考えた。
先約がダメになってしまった、ということをメールで伝えてみる。それから、どのぐらいの気持ちでリイン・フォーティブ社は、本の出版に向けて動いてくれるのか、ストレートに問いかける。向こうの返事を確かめてみよう。
その後に、本の出版をするかどうかを決めれば良い。
***
リイン・フォーティブ社にメールを送ってみたら、十分後に返信が来た。どこかと違って、すぐ返ってきたので驚いた。内容を読んでみる。
出版に向けてやる気が十分にあって、準備も整っているらしい。まずは、情報共有するためのミーティングを行いたいという。具体的で、仕事も早い。
しかし、どのような方法でミーティングを行うのか。リイン・フォーティブ社は、海外にある出版社である。日本に住んでいる俺は、飛行機に乗って海外に出向く必要があるのだろうか。
まずは、その辺りから相談していく必要がありそうだ。
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