第224話 初のミーティング
どうやら向こうは、俺がヨーロッパかアメリカ辺りに住んでいるだろうなと思っていたらしい。サイトは、様々な国の言語を使用して公開していたから。作者がどんな人間なのか、年齢や国籍、性別や職業などの予測がつかなかったらしい。
俺が日本人であることを伝えると、もの凄く驚いていた。詳しい個人情報は隠してやり取りしていたから。今後は仕事をするパートナーとして信頼を得るために、少しずつ情報を公開していく予定。
現地で会ってミーティングをするのは難しいという結論に至り、まずはWeb会議で最初の話し合いを行うことになった。
日程を調整して、これからミーティングを行う。父親には相談をして、何かあればすぐ連絡するようにと言われいてる。母親も、ミーティングを行う最中に近くで控えてくれていた。ミーティングには参加しないけれど、何かあった時は手助けに入ろうと待ち構えている。
仕事として引き受けたのは俺なので、俺が責任を持って対応する。だけど、全力でサポートすると約束してくれていた。
そんな状況で、予定の時間になり初のミーティングがスタート。
「初めまして、マティルダです。そして、こちらが」
「ダレルです。本日は、よろしくおねがいします」
”レイラです”
画面に男女2人が映っている。編集長の金髪碧眼で美人なマティルダさんと、編集者のひげが特徴的な男性。ダレルさんというらしい。彼女たちとは、何度かメールでやり取りをした。けれど、実際に顔を合わせるのは今回が初めて。
画面越しで、初対面である。
一応、ウェブカメラで顔を映して見えるようにしておいて、俺はチャットで言葉を返した。事前に声が出せない事情があると伝えてあった。文字で会話を交わすことを2人は、快く了承してくれた。なるで俺は、デバイスで文字を入力していく。顔は、文字だけでは伝わらない反応をわかりやすくするために映していた。
「驚きました。レイラは、日本人だったんですよね。しかも若い!」
「おいくつですか?」
マティルダさんが驚きの声を上げて、ダレルさんが年齢について質問してくる。
”13歳です”
「まぁ、13歳!?」
年齢を答えると再び驚き、羨ましがるマティルダさん。そう言っているが、彼女も見た目が若々しい。20代前半ぐらいに見える。だが、編集長という重要なポストについているから、見た目通りの若さじゃないだろうなと思う。いや、どうだろうか。若いけれど、かなり優秀な人という可能性もあるかもしれない。
逆にダレルさんは渋い感じで、苦労している様子を想像させる、そんなおじさん。40代後半ぐらいだろうか。疲れた顔をしているので、実年齢が判断しにくい。
もう一つ驚かれたのは、俺が普通にイギリス英語を使いこなしていたこと。俺は、発音することは出来ないので、アクセントとかは分からないだろう。ならば、どこでイギリス英語だろうと判別しているのか聞いてみると、文法と語彙だそうだ。
英語の文には、微妙に違いがあるらしい。方言みたいなものなのかな。その辺りの感覚は特殊能力に任せっきりで、あまり自覚がなかった。
「以前、ヨーロッパに住んでいたことがあるとか?」
”いいえ。生まれも育ちも日本ですよ”
「それなのに、あれほどまでに綺麗なブリティッシュイングリッシュを使いこなして創作するだなんて。素晴らしい才能ですよ!」
もの凄く褒めてくれる。絶賛の嵐。だけど、これは特殊能力によるもの。あらゆる言語を自由自在に操ることができる特殊な力があったから。ちょっとした差異にも、感覚で対応してくれていたらしい。ありがたいことだ。
そんな驚きで始まったミーティングは、真面目に進行していった。まず、メールで事前に聞いていた内容を再確認していく。契約内容などに関しても入念に。
父親に協力してもらって、弁護士にすぐ連絡が取れるようになっている。契約するならば、聞いておくべき点など事前に教えてもらっていた。そのメモを頼りながら、質問をしていく。それに淀みなく答えてくれる、マティルダさんたち。
そして、本のデザインについての話に移っていく。
「実は、もう既に文字の割り振りやレイアウトなどのサンプルを、何パターンか用意してあるのです。データを送るので、確認してみて下さい」
”はい。すぐに確認します”
データを受け取る。サッと目を通してみると、どれも素晴らしい出来だった。どのパターンでも良い感じがするから、逆に候補が多くて選ぶのに困ってしまいそう。
「何か要望があれば伺います。決めるまでに、まだ時間はたっぷりとあるので。焦らずに、良いものを選んでみて下さい。ちなみに、我々のおすすめはAパターンです」
”なるほど、ありがとうございます。一度、落ち着いてじっくりと確認してみます”
こんな風に、どんどん出版に向けた話し合いは進んでいった。話し合いのほとんどは、事前にやり取りしていた事についてお互いの認識に間違いがないかの確認をする時間だった。
「次のミーティングまでに決めておくことは、これで以上ですね。それでは、本日はありがとうございました」
”はい。ありがとうございました”
2時間ほどでミーティングは終わった。とても、有意義な時間を過ごせたと思う。本の出版に向けて、あと何度かミーティングを繰り返す予定だった。順調に、前へと進んでいることを実感した。出版されるまで大変だけど、楽しい日々が続きそうだ。
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