第220話 書籍化の打診
学校に通い、習い事をする合間に文章をデータ化して編集、順番にホームページで公開していった。
今までの転生の記憶を思い返しながら、デバイスで文章をデータで出力していく。それを他の人が読んでも分かるように意識して、手動で文章を少し修正。各国の言語でも、同じ内容で文章を揃える。完成したら、アップロードしてサイトで公開。
自分のサイトを更新するのは、文章が出来上がったとき。マイペースにゆっくりと反映させていく。他のサイトと交流したり、宣伝を出したりはしなかった。
公開しているサイトはシンプルに文字だけ。画像など貼り付けていない。これで、読む人が居るのだろうかと最初は不安になった。でも結局、これをやる一番の目的は前世の記憶をデータにまとめること。誰かに読まれても、読まれなくても問題ないかと考えるようにした。絶対に読んでもらおうと、気合を入れてもしょうがない。
公開をスタートさせた最初の1年は、ほんとに誰もアクセスしてこなかった。毎日数人のアクセスがあるぐらい。誰もアクセスしなかった日もあるぐらい。
ネット上にサイトを公開してから2年目に入ると、なぜか徐々にアクセスが増えていった。どこから辿ってきたのか疑問に思いながら、サイトの更新を続ける。
3年が経つと、読者から多くの感想メッセージが届くようになった。ずっと更新を続けていた意味があった。こんなに読んでくれる人が居るなんて、驚きだ。
”おもしろかったです”
”不思議なお話ですね”
”なんだか、本当にあったかのようなリアリティです”
”設定が緻密で、凄いです”
”続きを早く公開して下さい”
”次の更新が楽しみです”
日本だけではなくアメリカや南アジア、ヨーロッパなど、その他にも様々な国から感想メッセージが送られてきていた。サイトにアクセスすると、アクセス元を判別して自動転送するように設定してあるから。どの国の人でも、読んでもらえるように。
送られてくるメッセージを読んでいると、やる気が上がったり、逆に下がってしまったり。それで一時期、更新頻度に影響が出てしまった。
これは転生の記憶のデータ化と、ホームページの更新は趣味のようなものだと思うようにする。これを仕事にしようとは、あまり考えていなかった。他になにか、別の仕事を探すつもりだった。
翻訳ソフトを開発した人たちと一緒に、ソフトウェアの開発や改良。デバイスの開発にも積極的に参加して、ハードウェアにも興味を持ったり。今回はIT関係を仕事にしようかと、そんなことを少し考えていた。
俺が小学4年生の頃、とあるメールを受け取った。件名の頭に【重要】と書かれたメール。最初は広告メールか何かかと思って、すぐゴミ箱に放り込んで消してしまいそうになった。
よく見てみると、送られてきたメールは広告じゃなかった。
件名には続けて、楽本社の者です、と書いてある。聞いたことがある出版社の名。なんだろう、ちょっと怪しいと感じたので何度かウイルスチェックを行ってみる。
結果は、問題なし。とりあえず、ウイルスではないみたいだ。しかし、この感じる不安はなんだろうか。
警戒は続けて、送られてきたメールを開いて読んでみる。送り主は、楽本社という出版社の編集者を名乗る人物。
サイトに公開している物語を読みました。とても素晴らしいと思い、本にしたいと感じました。そこで、ぜひウチで書籍化してみませんか、というお誘いだった。
この前、沙良ちゃんに教えてもらった小説が、楽本社から出版されていたはずだ。彼女に借りていた本を手に取って確認してみると、奥付に楽本社の名が載っていた。
ネットで調べてみると、大手の出版社のようだった。漫画やライトノベル等など、若者向けの娯楽系をメインにしている作品を多く出版しているらしい。
このメールは、本物なのだろうか。なぜか、怪しさを感じる。すぐに信じることが出来なかった。メールに書かれていた電話番号と住所を調べてみると、確かに情報は合ってるみたいだけど。
メールを読んだらすぐに連絡を下さい、という文言に俺は警戒する。普通の一言。だけど、妙に気持ちが悪い。なんだろう、この感覚は。文字から伝わる危険を感じていた。
まぁ、直感で怪しいと思ったから止めておこうかな。まだ小学4年生という若さの俺が、本を出版するのも早い気がする。
作家、という仕事は楽しそうではある。
前の人生で、ダンジョンマスターだった頃に俺は本を出版したことがあった。その時は世界的に名が知られていて、教本にも採用してもらったから、出版した本がものすごく売れた。オファーを受けて、気軽に売り出してみたら印税で数十億円もの稼ぎになっていた。
だけど、本が売れないと作家は大変だと聞いたことがあるから。無名のままでは、本を出版しても売れるかどうか、自信が無い。成功する未来が見えなかった。
この先、他にやりたい仕事が見つかるかもしれない。俺が大人に成長するまでに、まだまだ猶予があった。今、将来を決めてしまうのは気が早すぎると思う。
ということで、お断りのメールを送った。この件は、それで終わりにする。
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