第219話 発明品

 ブレイン・マシン・インターフェースの使用感について、定期的に報告している。


 見られても大丈夫な文字データを確認しながら提出して、実際に使ってみた感想を聞かれる。プライバシーへの配慮をしてもらいながら、デバイスも調整してもらう。


 リボンの髪飾りとチョーカーのアクセサリーというデバイスの形も、新しいものを提案してもらったり。今の形がしっくりきているので、このままで問題がないけど、色々と試してみる。首から下げるネックレスや、腕時計のように腕に巻く感じのモノも。


”この形だと、接続が外れてしまうことが時々あります”

「ふむふむ、なるほど。他には、何か気になることはありますか?」


 こんな感じで、デバイスを色々と試してみた感想を聞かれるので、率直な意見を答える。


 俺の意見を取り入れてデバイスが改良され、どんどん性能がアップしていく様子を間近で体験した。




 他にも、新たな機能が実装されたので試してみる。リアルタイム音声出力、という新機能。


 デバイスで読み取った文字情報を、人工の声で出力する。まるで喋っているように読み上げてくれる機能。


「ちょっと、違和感、が、あります、ね」


 考えていたことが自分の声ではなく、デバイスが生成した音声で耳に届く。抑揚やリズムは、やはり人が話しているようには聞こえないかも。ちょっと、慣れない。


”難しいですね。短い言葉なら、なんとか出来そうですが。長い文章や早く話すのは大変そうです”

「確かに。聞いている側も、ちょっと変な感じがあります。これは、改良が必要か」


 画面に文字を表示する。今までの方法で慣れてしまったから、この人工の音声には違和感があるな。ということで、この機能を使うことはなさそうだ。今まで通りに、ディスプレイで文字を表示させてコミュニケーションをすることに。


 でも、色々と使えそうな機能でもある。


 今とは違う人生でも、似たような発明があったのを思い出した。ボーカルを作って歌にする。そんなソフトがあったな。そっち方面で、この技術は利用できそうだなと思った。




 それから、このデバイスで収集した文字データを使って、新たな翻訳ソフトが開発されたらしい。今、このソフトが全世界から注目されているそうだ。こんなに精度の高い翻訳ソフトは、業界でも初めてらしい。革新的な進歩、とのこと。


「君のデータがあったからこそ、この翻訳ソフトは完成したんだよ」

”そんなに、ですか?”

「そうだとも。君がいなかったら、もっと開発は大変だった。ソフトが完成するまで数年、もしかしたら数十年は必要だったかもしれない」


 翻訳ソフトを開発した人が、興奮しながら説明してくれた。それぐらい、俺のデータが役に立ったらしい。


 各言語で細かいニュアンスの間違いがないので、翻訳した文章がネイティブの人に違和感なく受け入れられるとのこと。その理由は、俺が過去の記憶を出力した文章の量が膨大で、色々な国の言語で同じ内容をデータに出したから。


 デバイスを有効活用しようと考え、転生を振り返り、インターネット上に記録したデータを全世界向けに様々な言語で公開してみようと行動した。それが、こんな結果を生むとは予想外である。


 そして、開発したソフトのロイヤリティの一部を受け取ることになった。ソフトが使用されたら、受け取れる報酬。


 日本だけでなく、全世界で利用されているからすごい額になるそうだ。これから、もっと利用者が増える見込みらしい。


 今でも、かなりの金額を毎年受け取っている。これ以上増えると、もう働かなくても生きていけそうなぐらい。ちょっと、気が引ける。


 この翻訳ソフトの発明により横大路家にも、莫大な収入が入ってきているらしい。そっちは素直に嬉しい。役に立って何よりだ。




「よくやった!」


 良造さんにも、今回の件で褒めてもらった。


”誕生日プレゼント。これを貰ったから、データが集まったらしいですよ。だから、良造さんのおかげでもあります”


 俺は、ディスプレイを掲げながらポンポンと叩く。その文字を見て、良造さんは嬉しそうな顔で笑った。


「いやいや、ワシは何もしておらんよ」

”私のデータだけじゃなく、ソフトを開発した人達も労ってあげて下さい”

「そりゃ、もちろん!」


 やっぱり、開発者の頑張りが大きい。俺はデータの利用を許可しただけなので、頑張ったという実感がない。だから、そんなに褒められると申し訳なく思ってしまう。俺以外の人を、もっと褒めてあげて。


「しかし、そうやって上手く活用してくれて、とても嬉しいぞ」

”はい、とっても役立ってますよ。これのおかげで、色々な人と会話することも出来ますし”

「うむ。しかし、見込みがありそうだと思っていたが、これほどまでとは想像してなかった」


 そういえば赤ん坊の頃に、そんな事を言われていたな。覚えている。


「これも、お前たちの教育が良かったからだな」

「いえいえ、そんな」

「私たちは、何も。この子が自然と立派に育ってくれて」


 良造さんは、俺の両親も褒め出す。そうなんだよ! 父と母が、しっかりと愛情を持って育ててくれた。今回の人生は、特にそれをよく感じていた。2人の愛情を感じる度に、自分は恵まれていると思えた。


 両親の評価も上がって、良かった。

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