第216話 デバイスの有効活用

 庭園会が終わり、俺たちは自宅に帰ってきた。程よい疲労感がある。沙良ちゃんや、横大路家のみんなにも会えてよかった。


「良造さんに頂いたプレゼントは、どうだ? 使えそうなのか?」


 俺の持つディスプレイを興味深そうに見る父親。そんな彼のために、実際に使っている様子を見せてみる。


”こんな感じ”

「へぇ。話に聞いていたよりも、正確に文章が出力されるのか」


 頭の中に言葉をイメージして、父親の顔にディスプレイを向ける。画面上に文字が表示されていく様子を見て、父親は感心した。


”ときどき、変な感じで間違えるけど”

「なるほど。普通に話すように、会話のキャッチボールが出来ているな」


 イメージを自動で補完してくれるので、少し間違った出力をする時もあった。まだ試作段階らしいので、仕方ないと思う。でも、かなり高い精度で細かいニュアンスを汲んでくれる。


 それに今までは、紙にペンで文字を書く時間が必要だった。どうしても、その方法で会話しようとするとタイムラグが生じてしまう。だが、このデバイスを使うと話すようにスラスラと画面に文字が表示される。


 会話するのと違って、相手には画面に表示される文章を読んでもらう必要がある。だけど、今までと比べると圧倒的に応答が早くなった。頭に念じた言葉が、そのまま画面に出力されるから。


「これから、いっぱいお喋りすることが出来るね」

”うん。出来そう”


 母親は、俺とお喋りしたいようだ。いちいち紙に文字を書くと、手が疲れるからと気遣ってくれて母親が一方的に話して、いつも俺が聞き役に徹することが多かった。


 今度から、このデバイスを使って手が疲れることなく会話することが出来そう。


「私とも、おしゃべりして下さい。お嬢様」

”もちろん。それから、いつもありがとう、ゆき乃さん”


 家政婦のゆき乃さんには、いつも感謝している。だけど、そんな感謝の気持を毎回紙に書いた文字は見せられなかった。俺が紙に文字を書いている時間、待たせるのは非常に申し訳ないから。既に書いておいた文字を、毎回見せるのも違うと感じていたから。だけど今なら簡単に、その瞬間に感じたありがとうを伝えられる。


「か、感激です……、麗羅様ッ!」


 目をウルウルと潤ませていた。それほど感激されると、逆に申し訳ないと感じる。今までも、ちゃん文字に書いて感謝を伝えればよかったかな。


 そういえば先ほど、俺が車を降りた時に運転手の米村さんにもデバイスを使って、感謝を伝えた。すると彼は、目をしばたたかせていた。今まで俺の、感謝の気持ちが思うように伝わっていなかったのかも。これも、申し訳ないことをしたと思った。


 やはり、ちゃんと言葉にして伝えないとダメだということを理解した。



***



 誕生日のプレゼントとして良造さんから頂いた、このデバイスのおかげで今までと比べてコミュニケーションが圧倒的に取りやすくなった。


 その他にも、使えそうな機能がある。


 どうやら、ディスプレイに表示させた文章はデータとして保存されていくようだ。文章データは後から確認したり、編集したりすることも可能。


 思考を読み取るデバイスは、日本語だけじゃなく英語や中国語、ヒンディー語など他国の言語も扱うことが出来るらしい。イメージする言葉を変えたら、色々な言語に対応して出力してくれた。文字データも、各言語で記録されている。


 俺は、どんな国の言語でも理解することが出来る特殊能力を身に付けていた。この能力のおかげで、今まで他国の誰かと会話をするときに困った事がなかった。様々な世界に転生を繰り返してきたが、どの世界でも人と話すことが可能だった。


 この能力を、いつ習得したのか覚えていない。気付いたときから、この能力は俺の中にあった。


 とにかく、言語運用能力のおかげでデバイスの活用方法が広がった。この機能は、何かに使えそうな気がする。


 エジプト語、ケルト語、ラテン語などの一般的ではない言語は認識しないようだ。英語とかアラビア語など、デバイスが別の言語に無理やり変換してしまう。ソフトの中に収録されていない言語は、扱うのが無理ということか。それは、仕方ないか。




 デバイスの色々な機能を確認して、ちょっと良さそうなアイデアを思いついた。


 このデバイスを使って、今まで俺が繰り返してきた転生について振り返り、全ての記録を保存する。それを編集して、インターネット上に記録したデータを公開してみよう。このデバイスを使えば、色々な国の言語でも簡単に文章をデータ化することが出来そうだから。


 文章を編集するのは、少し面倒かもしれない。だけど、思考を読み取るデバイスのおかげで今までの記憶を振り返るだけで、楽に文章を出力してくれそうだ。しかも、各国の言語で出力するのも簡単。少し手直しが必要なだけ。


 この世界に俺と同じように異世界から転生してきた者が居たとしたら、文章を目にすれば気付いてくれる人が居るかもしれない。名乗り出てくる人も。俺が生きた世界と同じところから転生してきた者たちと、再会する事が出来るかもしれない。


 フェリス、可蓮、カテリーナ、マリア、他にも多くの人たちと出会ってきた。その人達も転生してきているかもしれない。その可能性を信じて、再び出会えるように。 


 今までとは違うアプローチで、転生者とコンタクトを取る方法を試してみる。


 インターネットを使えば世界中に発信できる。かなり広い範囲で、転生者の存在を探すことが出来る。目的の相手に見つけてもらうことが、可能かもしれない。


 これが、新たなデバイスを入手して思いついたアイデア。早速やってみよう。

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