第217話 小学1年生の日常
小学校に入学することになり、俺はお金持ちが通うような私立の学校に通うことになった。どうなるのかソワソワしながら、その日を迎えた。
その私立の小学校は、横大路家の子どもたちの過半数が通っているそうだ。横大路沙良ちゃんも、その学校に通っているという。これから俺も6年間、通う予定。
「入学おめでとう! とっても似合ってるわよ」
「うん。可愛いぞ」
俺は、小学校指定の制服を着ていた。その姿を見て母親は大喜びしている。普段はあまり着ないスカートと黒タイツを履いている。ズボンを履きたいけど、指定された制服だからなぁ。幸いなのは、スカートが長めということ。
”ありがとう”
頭にリボンを付けて、首にチョーカーを装着することも忘れない。これがないと、ディスプレイに文字を入力できないから。小学校でも、これを使っていくつもりだ。学校には事情を説明して、許可も得ているので問題ない。服装を褒めてくれたので、2人に感謝を伝えた。
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
”いってきます”
玄関で見送ってくれるゆき乃さんに、いってきますの挨拶を返す。制服をキレイに洗って、用意してくれたのは彼女だった。そのおかげで、新品の服によくある生地についた糊のゴワゴワとした感じが無くなっている。違和感なく、着やすい。
「どうぞ、お乗り下さいお嬢様」
”うん、ありがとう”
運転手の米村さんの誘導に従い、後部座席に乗り込む。同じように乗った両親が、横に並んで座った。左右に父親と母親が座って、真ん中に俺が挟まれるようにして。
今日は、小学校の入学式が行われるから家族も一緒に向かうことになる。これから通学する時は、米村さんが送り迎えをしてくれるらしい。
小学校の入学式は、すんなりと終わった。俺と同じく、入学する子どもたちは大人しくて、問題もなくスムーズに式は進行していった。年齢の割に、しっかりした子が多い。
今まで繰り返してきた人生の中で、通ってきた学校で面倒な出来事に巻き込まれることが多くて、悪いイメージもある。だけど、今回は大丈夫そうな予感がした。
入学式が終わって、これから授業を受ける教室へ案内される。初めて出会う子どもたちと一緒に、先生の指示に従って整列して向かった。
「これから、一緒に学んでいくお友達だよ。お互いに自己紹介しようね」
それぞれの机に座ると、自己紹介が始まった。担任の先生が最初に名前を名乗り、それから席順で自己紹介を行っていく。
俺の番が回って来たので、席を立つ。一番前の、真ん中の席。みんなに見えるように、ディスプレイを上に掲げた。みんなの視線がコチラに向いているのを感じながら、画面に文字を表示させる。
”横大路レイラです。よろしくおねがいします”
「はい、拍手! 麗羅さんは、事情があって声を出せないの。だけど、気にしないで仲良くしてあげてくださいね」
どうやら、担任の先生は事前に事情を把握してくれていたようだ。デバイスによる自己紹介に、補足で説明をしてくれた。
不思議そうな表情を浮かべる生徒たち。興味を持たれたが、それで冷やかされたりすることは無かったので良かった。
その後、クラスメートとの初対面の自己紹介が終わって解散となった。終わるまで待ってくれていた母親と米村さんと合流する。父親は仕事があったようで、先に帰宅していた。いつも大変そうだ。でも、彼からは家族としての愛情をたっぷりと感じているので、毎日感謝している。母親と、運転手の米村さん、使用人のゆき乃さんにも感謝。
***
小学校に通い始めたが、暇だった。まだ1年生だから、授業の内容は簡単なもの。ただ、一般的な小学1年生が学ぶ内容と比べたら少し難しめなのかもしれない。
とはいえ、今まで何度も転生を繰り返してきた俺にとっては簡単すぎた。学校から出される宿題が多くて、ちょっと時間がかかる。全て終わらせるまでが面倒だと思うぐらい。
時間が余っていた。なので、その時間を利用する。以前から考えていたアイデアを進めることにした。
ブレイン・マシン・インターフェースの使用感についてを報告したとき、担当者に聞いてみた。この記録している文章データを編集して、インターネットで公開しても良いのかどうか、ということを。
「もちろん、大丈夫ですよ」
担当者の男性は、文章データは自由に使っても大丈夫だと太鼓判を押してくれた。ただし、使用しているプロトタイプのデバイスについての機能やプログラムは外部に漏らさないようにと忠告された。それは、注意しないといけない。
ということで、まずは文章データを公開する場所を用意する。
米村さんにも少し手伝ってもらい、ホームページを開設した。レンタルサーバーとドメインを取得して自分専用のアドレスを用意する。
過去の記憶を遡りながら、デバイスを使って文章をデータ化していく。思い返そうとすると、かなり記憶が薄れていることに気付いた。もう通算すると、数百年ぐらい様々な人生を過ごしてきたということになるのか。それは、過去を忘れてしまうな。
アイテムボックスの中には、今までの出来事についてを書き記しておいたノートが残っていたはず。それを取り出して、確認できないのがツライな。せっかく用意しておいたのに。まさか、このタイミングで取り出し不可なんて。
なんとかして、自力で思い出さないと。
俺が最初に転生した、魔法のあるファンタジーな世界。色々と戸惑いながら俺は、貴族として過ごした。そして、魔法の使い方についてを学んだ。家庭に問題があり、早々に毒殺されて死んだ。そんな、苦い思い出があった。
そのままの出来事を文章で並べて書くだけだと、あまり面白くないかもしれない。せっかくなら誰かに読んでもらえるようにしないと。転生者が、これを読まなかったとしても他の誰かが読んで、噂になって伝わるようにしたいな。
色々と試行錯誤しながら、出来上がったモノをホームページに載せてみる。誰でも閲覧することが可能な場所に文章データを置いた。
ちなみにコレは、ジャンルとしては自叙伝ということになるのかな。他の人たちが読めば、普通に小説なのか。
それから順番に、過去を思い出しながら文章データを増やしていった。加筆修正を行ったり、読んで面白くなるように書き換えたり。それをホームページ上に公開してみたり。
過去を振り返ると思い出は膨大にあって、いくら作業を進めても終わりは見えそうになかった。忘れている記憶も多くて、思い出すのも大変。後になって、そういえばこんな事もあったと、ふと記憶が蘇ることも。果てしないが、少しずつ進めていく。
過去の記憶を思い出して、文章にまとめる。出来上がったものを、ホームページに公開していった。
小学1年生の頃の俺はこんな風に、あまり小学生っぽくない日常を過ごしていた。
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