第197話 危険な森の中でのモンスターとの戦い

 女性に助けを求められて、少しだけ逡巡する。もう何年も前の出来事だから、気にすることでもない。だが、彼女の仲間の1人のせいで村から出ていく羽目になったからなぁ。


 助けようと思って前に出てきたが、さてどうするか。


 勇者が俺の方に意識を向けていると、その背後からモンスターが近づいているのが見えた。勇者は女性の声に反応し、こちらに視線を向けて気付いていないのか。


「後ろ。危ないぞ」

「な!? ッ!?」


 俺の声に反応して、勇者は振り返った。たけど、間に合わないと理解したようだ。どうにかして、モンスターの攻撃を対処しようと腕で顔をガードしようとする体勢をとった。少しでもダメージを減らすために。それじゃあ、少し遅いな。


 俺は彼に急接近しながら腰から下げている剣を抜いて、振るう。


「キャウッ!?」


 蛇のような尻尾を持つ狼型の動物系モンスターを、俺は剣を振るって吹き飛ばす。そして、勇者の危機は去った。数年前と比べて、勇者の動きは少しだけ俊敏になっていた。だが、咄嗟に判断が出来ずに対処しきれなかった。まだまだ、だな。


「た、助かった……?」

「どなたか存じ上げませんが助かりました! 引き続き、私たちをモンスターの群れから助けてくれませんか? 報酬は、私たちが助かった後に必ず用意しますッ!」

「……わかった」


 ドレス姿の少女に、再び助けを求められる。助けたら報酬を用意すると言うので、少し興味が出てきた。報酬が出るなら、やる気もちょっとだけ出てくる。


 助けることに決めた後、4人のメンバーを簡単に観察する。


 ドレスの少女は、初めて見る顔だと思う。他の2人も、数年前とは別のメンバーなのかな。見覚えがない。勇者と一緒に居た仲間たちは、3人全員が変わったのだろうか。


 勇者以外は見覚えのない顔だった。あれから数年も経っているから、彼の仲間たちの顔は忘れているのかも。どうだったかなぁ。彼らも、俺に対して何も言ってこないから忘れられているのかな。結構、印象的な出来事だったと思うんだけど。やっぱり別人なのか。


 勇者の横に並び立って、剣を構える。とりあえず先に、この窮地から彼らを助けてからだな。気になることは後で、話を聞けばいい。


「リヴ、怪我人を守りながら一緒に戦ってくれ」

「ワウッ!」

「大きな、狼!?」

「こいつは、敵モンスターか!?」

「そいつは俺の仲間だ。それと、後ろから敵が襲ってくるぞ。注意しろ」

「ッ!? す、すまない。また助かった」

「とにかく今は、戦闘に集中しろ。戦闘継続がキツければ、自分を守ることだけ専念すればいい」

「あ、あぁ……!」


 襲いかかってくるモンスターたちを、俺たちは地面に倒れている怪我人2人を守りながら戦った。勇者も、気持ちを切り替えて剣を振るい、敵を倒していく。


 この森に生息しているモンスターたちは、どれも非常に強敵だ。力が強かったり、素早かったり、頑丈だったり、特殊な能力を持っていたり。ごく普通の人間が戦って勝つのは非常に困難。奴らとの戦いを生き残るだけでも大変だろう。それでも何とか食らいついていく勇者は、あの頃と比べて少しは成長しているようだった。


 この危険な森に足を踏み入れても大丈夫なぐらいは鍛えてきたのかな。仲間が負傷して、かなりピンチだったけれど。落ち着いて対処すれば、生き残ることは出来る。それぐらいの戦闘能力。


「―――ハッ! ッ! そこっ!」

「ナディ、無茶しすぎないようにしてくれ! こんな所で君を、失ってしまったら」


 勇者の側に立って、ドレスの少女もモンスターとの戦いに参加していた。しかも、積極的に戦闘に参加している。だが勇者は、それを見てヒヤヒヤしている。


「わかっています。レオナルトはもっと頑張って、なるべく助けてくれる方の負担にならないよう努力してください!」

「あぁ、わかっている! ッ……くっ!」

「備えなさい、レオナルト! まだまだ、奴らの攻撃が来ますよッ!」


 ドレスを着た少女はナディという名前なのか。彼女からレオナルトと呼ばれている勇者。そういえば、勇者の名前は初めて聞いたかな。それとも、前に出会ったときに聞いていたか。ハッキリとは覚えていなかった。あまり興味がないので、忘れていたのだろう。


 しかし驚きなのは、ドレスを着た少女が戦えていることだった。彼女は勇者よりも戦闘に慣れている感じで、強そうだった。周囲の状況も、よく見えている。


 細身で先端が鋭く尖っている刺突用の片手剣、レイピアで敵を寄せつけないようにダメージを与えて戦っていた。スピードも早く、敵の攻撃をヒラリとかわしている。あの格好で、よく動けるものだ。どことなく、前世の仲間であるネコを彷彿とさせるような動き。ドレスの少女を見て、そんなことを思った。


 だけど、ネコではない。別人だと、直感が告げてくる。


 戦い方も、経験が浅いな。ハイペースで体力を消耗している様子だった。このまま戦い続けると、すぐにスタミナが切れて動けなくなりそう。ペースを掴めていない。


「―――ハッ! ッ、左の森からモンスターの増援が来ています!」

「なっ!? これだけ倒したというのに、まだ来ると言うのかッ!」

「あぁ、わかっている。リヴ、任せた」

「グルルルルッ!」


 3人と1頭で、負傷した者たち2人を守りながら敵を倒し続ける。けれども、森の奥からどんどんと敵が集まってきていた。戦いはジリ貧だった。


 俺が人間たちを守りながら戦っているのをチャンスだと思って、モンスターたちも森の奥から集まってきているのだろうか。日頃から、モンスターたちをイジメ過ぎたかな。


 森のあちこちから集まって数を増やしていく敵に辟易する。俺とリヴは、まだまだ戦える体力が十分にあって大丈夫。だが、他の4人が危ない。特に怪我を負っている2人の治療をしないとマズそうだった。勇者とナディという少女も、疲れが見える。


 これは、逃げたほうが良さそうだ。


「ここから逃げられるか?」

「に、にげる……? あ、あぁ。……いや、荷物が。地面に落としてしまった我々の旅の荷物を捨てていくわけには」

「どこに落ちている?」

「あ、あそこに」


 勇者が指差した方向に、散らばった食料や道具などを発見。あれが彼らの荷物か。俺はひしめき合うモンスターたちの合間を飛んで、彼らの荷物が落ちている地点までひとっ飛びする。


 手を添えて、アイテムボックスの中に道具を収納した。ほんの一瞬で、彼らの荷物回収を完了する。


「地面に散乱していた荷物はすべて確保したぞ! これで、逃げられるか?」

「あ、あぁ……。いや、彼らを置いていくわけには」

「それも任せろ。リヴ、背負ってくれ」

「ワウッ!」


 リヴに声をかけると、地面に倒れていた人間たちの服をカプッとくわえてから首をグイッと上に向けて放つと、次の瞬間に怪我人たちはリヴの背中に器用に乗っていた。あれで、怪我人2人を運んでいける。


「お前たちは、そこから落ちないように捕まっておけ」

「ぐ、うぅぅ……。ぁ、あぁ、なんとか」

「ッ! ……えぇ。わかりました」


 リヴの背中の毛を両手で掴んだ怪我人たちを確認した。少し苦しそうにしている。まぁ、もうしばらく耐えてもらうしかない。


「それじゃあ、行こう」

「どこに逃げるのかしら? ここから近くの町まで帰還するには何日か掛かると思うのだけれど。あの町以外に、どこか安全な場所があるの?」

「町には戻らない。俺の住んでいる場所に案内する。ここから、すぐ近くだ」

「近く……?」


 ドレスの少女が問いかけてきたので、俺が住んでいる場所まで案内すると答えた。あそこで怪我をした2人を治療して休ませよう。助けを求められたので、そこまでは彼らをサポートしようかな。


「オプスクの森に住んでいる、だって……?」


 この近くに住んでいるという話を聞いて驚愕している勇者。とりあえず彼の反応については置いておくとして、戦いから逃げるためにリヴを先頭にして進んで、彼らを拠点まで案内する。


「リヴ、拠点まで先導してくれ。俺が最後尾にあたって、モンスターの追撃を防ぐ」

「ワウッ!」

「そいつの後ろについて行ってくれ。前や左右から来るモンスターの奇襲にも注意をしてくれよ!」

「はい! 行きますよ、レオナルト!」

「あ、あぁ……!」


 ナディというドレスを着た少女は、俺の言葉を素直に聞いて指示に従ってくれた。勇者もドレスの少女の言葉に従ってくれるので、やりやすかった。

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