第183話 村人たちに戦闘指導
村長の息子ヘルミンに、モンスターとの戦い方を教えてくれとお願いされたので、その依頼を引き受けることになった。さっそく翌日から訓練を開始。訓練を希望する村人たちを集めて、彼らをトレーニングする。
訓練すると言って集まった大人の数は、9人。村の規模を考えると、集まったほうだと思う。まだ他にも何人かは、自警団に所属して戦える村人たちは居た。けれど、まだ子供である俺に戦闘指導されるのを嫌がって、訓練を拒否する者たちが居るのは事実だった。
やる気の無い人が訓練に参加しても成長しないだろうから、参加を拒否してくれたのは結果的に良かったと思う。
9人ぐらい鍛えた戦士が居れば、森の中に生息しているモンスターと戦えるようになるだろうから。小さな村なので、ここを襲われた時も数人で守りきれるだろうし。
「それじゃあ、走りましょうか」
「えっ? 今日は戦い方を、教えてもらえないのか?」
村長の息子であり、今回村人たちを鍛えるようにとお願いをしてきたヘルミンが疑問を口にする。他の大人たちも、彼に同意するような感じで頷いていた。彼はまだ18歳だと聞いているが、自然と村人たちをまとめている。村長としての資質がありそうだと感じた。それはさておき。
「戦い方を覚えるよりも先に、まずは戦いの最中に動き続けられるようにする。そのための強靱な体力をつけることを第一の目標に、最優先で鍛えましょう。戦い方や、武器の扱いについて教えるのは、体力を鍛えた後で」
「なるほど、わかった! それじゃあ、よろしく頼む」
遠い過去から何度も繰り返し行ってきた、俺の慣れ親しんでいるトレーニング方法である。話を聞いて、すぐに納得してくれたヘルミン。彼に従うように、村人たちも頷いた。走るだけだと聞いて、少し余裕そうにしているトレーニングに参加表明した村人たち。
そんな余裕そうな彼らが、どれぐらい耐えられるだろうか見ものだ。
「さぁ、村の周りを走るよ。ついてきて」
「よし。わかった! みんなも一緒に、頑張ろう!」
「「「おう!」」」
ヘルミンが元気に返事をした後、村人たちの気合を入れる。みんなが返事をして、全員で走り出した。
俺が先頭を走って、村周辺の道をぐるぐると走り回る。森には近づかないように、走るルートを考えながら。
「ふぅ、とりあえず今日はここまでにしようか」
「「「ハァハァハァハァ……」」」
終わりの合図を出して止まると、走り疲れて呼吸を乱しまくった村人たちが地面に倒れ込んでいく。かなりの距離を走ったから無理もない。子供には絶対に負けない、という気持ちで走り続けていたようだが限界のようだ。しかし、ここまでついてきた根性は、非常に評価できる。
ヘルミンも走り疲れたようで、最初の頃の元気をなくして息も上がっている。それでも、瞳に宿る力強さに変わりはなかった。やる気に溢れていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、こんなので、ハァ、本当に、強く、ハァ、ハァ、なれるか?」
「もちろん、こうやって鍛えればモンスターにも負けない力を手に入れられるよ」
「ハァ、ハァ……それは、……楽しみ、だな、ハァ、フゥ……」
地面に倒れながらも、強気に答えるヘルミン。彼は、優秀な男に成長しそうだな。優れた素質を感じる。
***
訓練を始めてから、1ヶ月が経っていた。走り込みのトレーニングを行い、努力を積み重ねてきた。村人たちもモンスターとの戦いに耐えうる十分な体力がついてきたので、戦い方について教え始める。見込みのある者たちには、個人レッスンも行う。
「はぁぁぁ!!」
威嚇するような声を発しながら、ヘルミンは俺の頭上をめがけて突っ込んできた。力を込めて、木を削って作った剣、木剣を振った。
「タアッ!」
「力を無駄にしないよう、振り切って」
ヘルミンの攻撃を、俺は彼が装備しているものと同じような木剣で受け止めきる。ガキン、と金属のぶつかるような音が響き渡る。そして次に、ギチギチギチッと木が削れる音が聞こえてくる。
ヘルミンにはパワーがあるので、この木剣では耐えきれないかも。このまま耐えていると、折れてしまいそうだな。防御しつつ位置を調整しながらパワーを分散させて、折れないように気をつける。その状態で、指導を続ける。
「最後まで、気を抜かないで。そう!」
「ぐうううううっ!?」
頭2つ分ぐらいの身長差がある俺たち。俺よりも身長が高いヘルミンは、頭上から木剣で押し切ろうとしている。だが、かなりキツそうだった。俺は、まだまだ余裕がある。耐えきれてしまう。
「あうっ!?」
「モンスターが相手だから、足元からの攻撃には特に注意するようにね」
森に住むモンスターや野生動物は、身体を屈めて低いところから攻撃をしてくる。なので、それを注意するようにと戦闘訓練の中で教える。下への意識を疎かにして、上ばかりに意識がいくと足元をすくわれる。
しかし、今度は下に注意を向けすぎると、上への意識が疎かになる。
「うわっ!?」
俺がいきなり力を抜くと、拮抗していた剣が崩れる。ヘルミンは勢い余って姿勢を崩してしまう。地面に倒れそうになっていたヘルミンを少しの力で押し、地面の上に転がした。
「っく!」
急いで立ち上がろうとする彼の首元に、木剣を添える。
「勝負あり、だね」
「負けました」
悔しそうにしながらも、素直に負けを認めるヘルミン。周りで、俺たちの模擬戦を見学していた村人たちも、ヘルミンの健闘をたたえた。
「くそっ。やられたか」
「でも、だいぶ強くなってきているよ。すごい成長速度だと思います」
「ありがとう。でも、まだまだ君には遠く及ばないか」
「もちろん俺も、鍛えてますから」
かなり有意義な訓練ができた。ヘルミンの成長も凄い。とても順調に、強くなっている。他の村人たちも、彼に負けじと奮闘していた。
***
「あらためて、ありがとうリヒトくん。我々も、だいぶ強くなれた」
「ここまで訓練に耐えてきたからですよ。自分たちで、強くなろうとしたから」
「それでも、強くなるための道に導いてくれたのは君だ。感謝しているよ」
「そうですか。それは、よかったです」
数ヶ月経った頃には、村周辺に生息しているモンスターと戦って負けないぐらいの戦士たちが誕生した。特にヘルミンは、この数ヶ月で飛び抜けて強くなっていた。
「村周辺の危険なモンスターを、倒せるようになったね」
「だが、まだ油断はできないよ。リヒトくんが言っていたように、モンスターも強くなっている。まだまだ私達には訓練が必要だ。もちろん、君の望む報酬を用意する。お願いできないかな」
ヘルミンは村のことを考えて、今後も戦力を強化していきたいと語った。
「わかりました。引き続き、村人たちの訓練は続けましょう」
「ありがとう、リヒトくん」
ヘルミンとの関係は、とても良好だった。何か裏がある、という雰囲気も感じないから大丈夫だと思う。利害の計算などはしているだろうが、それは村のために考えているのだ。純粋に、俺のことを尊敬してくれているのを感じていた。
ヘルミンは、村のために必死で頑張っていた。だからこそ俺も、彼を手助けしたいと思った。この村に生まれた者として、いずれは村長になるだろう前途有望な青年を支えたいと。今回は静かに暮らそうと考えていたけれど、方向転換するかな。
最近は、俺が鍛えた村人たちがモンスターを倒せるようになって、トレーニングを受けたいと大人たちが集まってきていた。どんどん、訓練を受ける村人たちが増えていった。村の防衛力も、どんどん高まっていく。
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