第182話 村での役割、色々
俺が今いるのはヴィシューパ、という名前の王国らしい。
国名に聞き覚えは無かったので、また俺の知らない、別の世界に転生したようだ。文化レベルは中世ぐらいだろうか。王都では貴族が生活しており、モンスターと魔法が存在している。この世界にダンジョンがあるかどうかについては、分からない。
魔法があってモンスターが存在しているのならば、ダンジョンなんかもありそうな気がする。探しに行けば、見つかるかもしれない。だが今は、家庭の問題があるので村から離れることは出来ない。探索には行けなかった。この村に居ると、世界の情報を収集するのも難しいからなぁ。
俺が生まれたのは、王都から遠く離れている辺鄙な場所にある田舎の村だった。
さらに情報収集しようと本や資料を探したが、見当たらなかった。村には、1冊も本は無かった。大人たちに聞きまわって調べるしか、情報を集める手段が無いのだ。
時々、村にやってくる行商人から情報を引き出そうと、会話を試みたこともある。だがコチラが求める話を、商人たちは素直にしてくれない。何か質問すると、情報の対価として金を要求してくる。そんな守銭奴が相手だから、簡単には情報を引き出せなかった。
情報の対価に金を求めるのは、商人として正しいとは思う。俺も商人だったら同じように、相手の求める情報を提供する代わりに、お金を要求して商売にするだろう。ということで、農作物を売ったお金で行商人から情報を買ったりしていた。交渉して値引きしてもらい、かなり安く情報を仕入れることに成功した。
ただし、あまり純度の高い情報は得られなかった。俺の望むような話は、なかなか聞けなかった。辺境にある田舎の村へ商売しに来るような人なので、持っている情報も少なかった。
地道に情報収集していくしかない。可能であれば、この世界についてもっと知っておきたいのだが。国の名前、村がある場所について。貴族の噂、王都の状況などを。ざっくりとしか調べられていない。
今回の人生を、俺は静かに生きようかと考えていた。一つ前の人生では、世界的に有名になったから。次男と三男が自立して世話をする必要がなくなったら村を出て、森の中に小屋でも建てる。そこで、リヴと一緒にゆっくり自由気ままな生活をしようかと思っている。あの女神様も、特に何もしなくていいと言っていたから。
転生者を送り込もうとするような世界だから、なにか大きな事件が起こりそうだ。それに巻き込まれないよう、注意しておこう。
俺の住んでいる村の周辺は、意外と危険が潜んでいた。森の奥には、かなり強力なモンスターも生息している。
毎年、村の外に出て畑仕事をしている大人たちが何人もやられて死んでいた。この問題を早く対処しないと、村に住む大人が居なくなって廃村しそうな勢いだった。
俺とリヴは大事に育てている畑を守るため、それから戦闘訓練も兼ねてモンスターを狩った。ついでに村が廃村にならないよう、人間を襲うような危ないモンスターも人知れず倒しておいた。せっかく生まれた村だから、なくなってほしくない。
まだ成長していない子供の姿で戦うのは大変だったが、リヴが戦闘サポートをしてくれおかけで、戦いに苦戦しなかった。
身体が成長すると、どんどん戦闘能力が上がっていくので戦闘は楽になっていく。ただ戦闘を繰り返すごとに、森に生息しているモンスターたちも何故かパワーアップして、どんどん凶暴になっていった。人間を襲うモンスターが増えていた。
これは、俺のせいなのかな。俺が倒してきたせいでモンスターが危機感を覚えて、パワーアップしたのか。ちょっと心配なった。そうだったとしたら、申し訳ない。
だが、実際は俺が原因ではないみたい。商人から聞いた話によると、モンスターの凶暴化は各地で発生しているそうだ。商人たちは道中でモンスターに襲われる危険も増えて大変だと、文句を言っていた。王都でも、モンスターを退治するための人員を各地から集めているらしい。相当大きな問題に発展しているようだ。
モンスターの凶暴化問題。俺としては訓練するための課題としてありがたいけど、村人たちや商人、ヴィシューパの国民や貴族たちは大変だろうな。
俺が10歳になった頃、村の大人たちがモンスターの被害を減らすために自警団を立ち上げた。
そんな彼らの訓練を、こっそりと覗き見る。そして、村人たちの実力を測った。
村人たちの中に、モンスターと戦えるような実力がある人は、非常に少なかった。あれでは、モンスターを倒すために森の中に入ったら、逆にやられてしまいそうだし危ない。動ける大人を寄せ集めただけで、各人の戦闘能力は非常にお粗末なものだ。見ていて心配になる。
やっぱり、影から村人たちを手助けするのは限界があるのかな。かといって、村の厄介者だと思われているらしい俺が口出しをしたところで、村人たちが受け入れてはくれないと思う。
どうしようかな。無理やり介入しようかな、と悩んでいると向こうから話を持ってやって来た。
「リヒトくん! ちょっと、いいかな」
「はい? どうしました?」
今日も畑に向かっている途中、1人の村人に話しかけられた。俺に話しかけてきた人以外にも、他にも何人か集まっている。彼らから敵意は感じない。だけど、真剣な表情で俺を見ている。どうしたのだろうか。
俺は10歳になっていたが、村での扱いは変わらず悪いままだった。遠くから眺めるだけで、腫れ物扱い。関わろうとしたり、近寄ってくる人は誰も居ない。
村人から声をかけられるのは、非常に珍しい出来事だった。というか、俺は名前を覚えられていた。村人たちから名前すら知られていない、と思っていたんだけど。
それで、彼らの用件は何だろうか。その場に立ち止まって、話しかけてきた村人と顔を合わせる。まだ若い青年。彼は村長の息子だったはず。そんな立場の高い人物がなぜ、俺に話しかけてきたのか。そんな彼も真剣な表情で、なにか大事な話のようだけど。
もしかして、村から出ていくように言われるのかな。そんな悪い想像もしたけど、違った。
「俺たちに、モンスターとの戦い方を教えてくれないか。頼むッ!」
そう言って、勢いよく頭を下げる。村長の息子が、真剣なお願い。そんな急な話に俺は、少し驚いた。まさか、戦闘の指導をお願いされるとは予想外。
本気、なのだろうか。
「頭を上げてください。なぜ、俺なんかに戦闘の指導をお願いするんですか? まだ子供の俺なんかに」
「君が森の中にある畑へ行った後、森が静かになる。その後すぐ俺たちが森に入ったけれど、モンスターに襲われる数が明らかに少なくなってる。モンスターが、森から居なくなっているようだ。君が倒しているんだろ? あの大きな獣と一緒に」
村の厄介者として、俺に対する関心は少ないだろうと思っていた。だけど、意外と見られていたし、色々と考えていたようだ。俺が、森に住んでいるモンスターをリヴと一緒に狩っていることに、彼は気付いていた。
「なるほど。でも、連れているリヴが強いだけで俺自身は戦い方を教えられるほど、強くないかもしれないよ」
「いいや、それはない。その年齢で、凶暴なモンスターや野生動物が生息している森の中に1人で入って、毎回無事に帰ってきている。あの大きな獣が一緒でも、ずっと守ってもらうのは難しいだろう。それなのに君は一度も傷を負うことなく。しかも、衣服に汚れも少ない。ということは、それだけ実力があるということだろう?」
どうして俺に頼んできたのか、その理由を彼は語った。本当によく見ている。
「そんな君に、俺たちの指導を頼みたいんだ」
命令ではなく、誠心誠意のお願いだった。子供だからといって、侮ってもいない。村長の息子が、大勢の大人たちの前で俺に頭を下げたのだ。それだけでも、彼の本気具合が伝わってくる。どうしようか考えた。俺が村人たちを指導して、モンスターと戦える人を増やすかどうか。答えはすぐに決まった。
「わかりました。戦い方を教えます。子供である俺の指導を、口答えせずにちゃんと聞いてくれるのなら」
「あぁ、わかった。よろしく頼む」
ということで、村長の息子から依頼された戦闘についての指導を引き受けることにした。村人たちをモンスターと戦えるように鍛えて、俺も彼らの信頼を得るために。村の中での地位を高めて、厄介者とは思われないようにしよう。
そうすれば村の安全を守れるし、今よりも少しは村の中で生きやすくなるだろう。俺にとって、いくつもメリットがあった。
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