第184話 村長との話し合い
ヘルミンがリーダーとなって、訓練した者たちが森のモンスター討伐に出かけた。訓練の成果を試す、実戦である。俺が一緒に同行して、手出しはせずに彼らの様子を伺う。危なそうな場面は一度もなく、モンスター数十体を無事に倒すことが出来た。上々の結果である。
遭遇した野生動物も狩る。森の安全を確保することに成功して、大量の食料になる肉も持ち帰ることが出来た。全員怪我もなく無事に村へ帰還することが出来たのが、最大の成果だろう。ヘルミンたちの帰還を心配して待っていた者たちは、大喜びして彼らを迎えた。
次期村長としてヘルミンは非常に頼りになると、村人たちの評価が一気に上がる。良いことだ。
その後、子供とはいえ俺の指導を受けると強くなれるんだと分かった村の男たちが訓練に参加したいと言ってきた。前回は参加を拒否したのに、今更になって加わろうとするのかと呆れて、彼らの参加を拒否したい気持ちも少しはある。
だけど村のために、友人であるヘルミンのためにも気持ちをグッと堪えて、彼らの参加を認めた。
戦える大人の男たちはもちろん、子供や女性たちもトレーニングに参加をしたいと言ってきた。村を守るための手助けをする力を、訓練して手に入れたいと。
村人たち全員が、やる気に満ち溢れている。そんな彼らの訓練参加を、歓迎する。やる気があるのなら、成長できる見込みが十分にあるから。
「リヒト、俺たちも鍛えてくれよ」
「僕も、強くなりたいんだ」
「ハンス兄さんに、クリス兄さんもか。もちろん喜んで、2人の指導をするよ」
今まであまり絡んでこなかった、次男のハンスと三男のクリスがお願いしてきた。彼らも、村の雰囲気に当てられて訓練に参加したいそうだ。2人の戦闘訓練の参加は大歓迎である。
これで、2人が自立するための成長を促せる。自分の力だけで生きていけるようになって彼らの世話をする必要がなくなれば、俺も自分のことに集中できるから。
***
ある日、村長に呼び出された。俺は、父親と一緒に村長の家に来ていた。いつもは酔っ払っている父親が、今日はキッチリした姿で珍しい。流石に、村長と話し合いを行う場で酔っ払っているのはマズイと判断したのだろう。
「息子を指導してくれて、ありがとうリヒトくん。私からも、君にお礼を言うよ」
席に着いた瞬間、いきなり村長からお礼を言われた。息子とは、ヘルミンのこと。どうやら、俺とヘルミンの関係をちゃんと把握しているようだ。
「いえ。彼が真面目に指導を受けて努力をしたから、強くなれたんです」
「そうかそうか」
俺の言葉に、満足そうに頷いた村長。それから俺の横に座っている父親の方へと、視線を向けた。村長は父に、なんて言うのかな。
「とても立派な息子だな」
「いえいえ、そんな……」
「小さな頃から一生懸命に働いて、家族を助けてくれただろう」
「えぇ、自慢の息子です! モリッヒ様の息子であるヘルミンくんには、及びませんが」
緊張しながら答える父。横で聞いてたい俺は、呆れてしまった。今までの態度から急激に変わって、思いやりを持った立派な親のような振る舞いをしようとしている。今までの行いを全て無かったことにして、村長の機嫌も取ろうと必死だ。
「妻のエリザを亡くして、辛いのはわかる。だが、そろそろ立ち直れ。以前のように村のために働き、ちゃんと子供の世話もお前がしなさい」
「は、はい。すみませんでした」
村長に諌められて、父親はシュンとした。どうやら昔は父も、働いていたらしい。母親の死によって堕落し、酒に逃げるようになったそうだ。今までやられてきたことを考えると、あまり同情する気持ちも湧いてこないが。
まぁでも、これで今までの態度を改めて少しでも変わってくれたら、ありがたい。飲んだくれよりはマシだろうから。あまり期待せずに、クズな父親から少しダメな親ぐらいに変わってくれたら良いな。そうすれば俺も、後腐れなく家から出ていける。
「そうだ。村のために働いてくれるリヒトくんに、嫁を用意してあげよう」
「本当ですか? ありがとうございます。ほら。村長にお礼を言うんだ、リヒト」
「どうも、ありがとうございます」
何故か、勝手に嫁を決められそうになっている。今日は、このために呼び出されたのか。俺が、村にとって役立つ人材であると判明したから。
父親は、とても乗り気のようだ。だけど俺は、まだ結婚する気は無いんだけどな。それに、許嫁とか婚約者には良い思い出がない。
だけど村で生活している者としては、受け入れないとダメか。この世界のルールや文化に従うとなると、恋愛結婚は難しいようだし。
とりあえず、お礼だけは言っておく。
「リヒトくんは誰か、気になっている娘は居るかね。アリダとか、どうだい?」
「そうですね。良いと思います」
村長が何人か、村に住んでいる女性の名前を挙げる。
その中でも特に器量の良い娘としてオススメだと、アリダという娘を紹介された。たしか、俺よりも2歳ぐらい年上で大人しい女の子だった。村の中で何度か見かけたことがある。
結婚するつもりはなかったけど、結婚するのなら料理が上手かったり、家事をして働いてくれる娘が良いとは思う。もちろん結婚した後に習得してくれるのであれば、今は下手でも気にしない。
アリダという娘が、どれぐらい出来る子なのか知らないけれど。
村長と父親の2人で、どんどん話が進んでいく。結婚する本人である俺の意見は、参考程度に聞きつつ。大人たち2人が良かれと思って、縁談を決めたようだ。村長も色々な思惑があって、話を早く進めたいようだし。
話し合いが終わって、俺と父親の2人は村長の家から出た。これから、自分たちの家へと帰る。
「よかったなぁ! お前の歳で妻を持てるなんて、とても光栄なことだぞ」
「へぇ。そうなんだ」
「もっと村長に、感謝するんだぞ! それから、話し合いを上手くまとめた俺にも」
「わかってるよ。ありがとう」
父親が俺の背をバシバシと叩いてくる。痛くはないけれど、鬱陶しいな。それに、上手くまとめたと言うけれど、ほとんど村長の意見に同意していただけだろう。俺は全く気持ちがこもっていない、ありがとうの言葉を口にした。色々と面倒くさかったから。
そんな俺の言葉を聞いて、とてもご機嫌になった父親と一緒に家へ帰宅した。
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