10周目(異世界ファンタジー:女神転生)
第179話 真っ白な空間
とても充実した人生を送り終えて、満足感と幸せな気分に浸りながら目を閉じた。はずだった。閉じた目をすぐに開いて立ち上がり、周りを見渡す。
「ここは……?」
一瞬で目が覚めた。ついさっき、俺は死んだはずなのに。目の前に真っ白な空間が広がっている。この白、なんだか見覚えのあるような光景だな。
「なぜ?」
俺の口から、疑問の言葉が漏れる。
赤ん坊の身体に生まれ変わったのではなく、大人の姿のままだった。しかし、老体ではない。青年ぐらいの状態かな。かなり若返っている。次の人生に転生したのではないのか。これは、どうなっているのか理解不能。
身体は自由に動いた。両手をグーパーと閉じたり開いたりしてみる。両腕、両足も動かしてみた。思った通りに動いてくれる。身体は自由自在で、違和感がなかった。寿命を迎えて限界だったはずの身体は、とても調子が良かった。
視覚、聴覚、嗅覚そして触覚が全て正常で体調は万全。全盛期の頃と同じぐらい、絶好調だった。身体の奥底から、魔力や生命のエネルギーが次々と溢れ出てくる。肌も若々しくなっている。
「どうなっているんだ」
生まれ変わったわけじゃないらしい。記憶喪失で今この瞬間に記憶を取り戻した、というわけでもないようだが。
一体、どうなっている? 出た言葉と同じく、そんな疑問が頭に思い浮かんだ。
「ようやく、目を覚ましましたね」
「ッ!? 誰だ?」
聞こえてきたのは、若い女性の声。一瞬、最期まで一緒に居てくれたネコの声なのかと思ったが、違っていた。では、俺の近くに居るのは誰なのか。さっき見た時には居なかったはず。見逃したのか。いや、そんなはずはない。
声が聞こえてきた方へ、警戒しながら視線を向ける。
「残念ながら、アナタは死んでしまいました」
「……」
視線の先に立っていたのは、見知らぬ若い女性だ。真剣な表情の彼女に、いきなりそんな事を告げられた。
言われるまでもなく、死んだのは自覚していた。別れを済ませて目を閉じた瞬間に俺の意識は無くなった。あの時に死んだことは理解している。なのに何故、わざわざ直接そんな事を伝えられたのか。
そもそも、彼女は何者なのだろうか。気配が薄くて、接近していることにも気付けなかった。絶好調の身体で気配を察知できなかった。おそらく、只者ではないはず。
ウェーブのかかった髪の上に金色の冠を載せて、質素だけど神々しい見た目をした衣装に身を包んだ女性。とてつもない量の魔力を、その身体の中に秘めている存在。その魔力を上手く制御している。その実力の高さに驚く。警戒しながら、俺が彼女を観察している間に話は先へと進んでいく。
「ここは、あなた方の理解できる概念で説明するのであれば『天国』と呼ばれている場所です。そして私は、『神』という存在と言えば理解してもらえるでしょう」
「天国? 神?」
「そうです。私は、生命を司る神」
自らの存在について説明してくれた。それが本当なのかどうかを知る手段は無い。だが俺は、彼女の言葉は本当なんだろうと信じられるような気がした。目の前にいる存在は本物の神で、この場所は彼女の言う通り天国なのだろう。
初めてのパターンだった。まさか天国で女神と出会い、面と向かって死んだことを告げられるだなんて。今まではずっと、死後になっても誰とも会うことがなかった。死んだら、その瞬間に次の人生へ転生していくだけ。
それが、今までのパターンだったはず。どういう理由で、今までのパターンから外れてしまったのか。
「さて。時間も無限ではありませんので、さっさと説明を済ませてしまいましょう」
「説明? 何を?」
「これから貴方を、異世界に転生させます。そこで、やってもらいたい特別な使命があるのです」
「えっ、と。転生……? 使命……?」
「そう、転生です。使命を、引き受けてくれますか?」
また俺は、これから新しい人生に転生することになるようだ。今までとは違って、神様が俺の目の前に現れた。そして、転生についての詳しい説明をしてくれていた。だが、俺は彼女に聞かなければならない事がある。
「ちょっと待って下さい。その前に1つ、聞きたいことがあります」
「聞きたいこと? はい、何でしょうか?」
質問してみると、快く回答してくれる様子。寛容な神でよかった。これまでに繰り返されてきた転生の謎について、彼女に聞いてみれば何かわかるかもしれない。
この見覚えのある真っ白な空間について、思い出したことがある。確か、何十年か前にダンジョンの最下層で入手した宝玉を使用した時に見た光景だ。あれだけ印象的だったのに、俺の記憶から薄れつつある遠い昔の思い出になっていた。なんとか必死に思い出して、あの時の記憶を掘り起こしてわかった。
俺が今見ている光景は、あの時に見たモノと似ているよう気がする。繰り返す転生の謎について明らかにしようとしたけれど、宝玉を使った時は光景だけを見せられて終わった。あの記憶だ。
俺はあの時、転生の繰り返しが始まる前に誰かに会っていたのではないか。未知の存在の手によって転生を繰り返しているのだろう、と予想していた。その未知の存在というのが、神なのではないか。
今、俺の目の前に神が居る。何か関係しているかもしれない。質問をして、真実を答えてくれるかは、わからない。だが、聞いてみよう。
いきなり舞い込んできたチャンスだ。ダンジョンで手に入れた宝玉でも知ることの出来なかった転生の謎について、解き明かすことが出来るのかもしれない。
「俺は、今回が初めての転生じゃないです」
「ん? どういうことでしょう? 初めての転生ではない、ということは……?」
俺の言葉を聞いて、驚いた表情で俺の顔を覗き込んでくる女神。そんな反応をするということは、俺が繰り返し転生している件に関して、彼女は何の関係も無いということなのか。
だけど、生命を司る神らしいから何か知っているかもしれない。手がかりを求めて俺は、彼女に質問を続けた。
「今まで俺は、何度も転生を繰り返してきました。それは、神である貴女の仕業じゃないのですか?」
「え。転生を繰り返しているって、本当ですか!? ちょっと待って下さいね……」
目を見開いて驚く女神。その表情に嘘は無さそうだった。ということはやっぱり、彼女とは違う、また別の存在が関係しているのか。
別の神なのか。それとも、邪悪な存在、悪魔とかが関係している可能性も……。
彼女は俺の頭上に手をかざしながら、目を閉じる。かなり集中していた。それで、何かを調べているらしい。
しばらく黙って待っていると、女神は目を閉じたままプルプル細かく震えだした。大丈夫だろうか。それから次に、額から滝のような汗を流していた。
眉をハの字にして、困っているのか焦っているのか。怒っているようにも見える、かな。とても表情豊かな女神様だ。
「ぁわわわわわわわわわわわわ!?」
今までの女神様らしい、厳かだった彼女の態度が一変する。やっぱり、ものすごく焦っていた。見ている俺も心配になるような反応。一体どうしたというのか。
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