第173話 繰り返す転生の謎

 俺は一体、どうなったのか。


 意識を失った瞬間は覚えている。宝玉を使って、転生についての謎を解き明かそうとしていた。願いを叶えてくれるアイテムだったはずなのに間違っていたのか。何か誤った使い方をしてしまったのか。


 死んだわけではないと思う。その感覚はなかった。まだ俺は、死んでいないはず。ただ意識を失っただけ。そんな状況で、思考だけが働く。


 あの宝玉には膨大な魔力が凝縮されていた。その魔力を利用して、使用者の願いを叶えるという効果を発動する、そんなアイテムのようだった。少しだけ調べてみて、何か害を与えるような仕組みは見当たらなかった。危険ではないと確認して、大丈夫だと思った。けれど、何かを見落としていたのか。アイテムに関する知識を、もっと勉強しておくべきだったかな。


 はやる気持ちを抑えられなかった。転生の謎について、早く解明したいと思った。だから、こうなってしまった。いざという時に俺は、こういう失敗をしてしまうな。




 意識が戻った。暗かった視界が見えるようになると、いつの間にか真っ白な空間の中に立っていた。ダンジョンの景色とは違う。ここはどこだ。白があるだけで、他の色がなにも見えない。仲間もいない。ネコたちは、どこに。


 目の前に人の形をした何かが見える。だが、視界がボンヤリとしていて何なのかが分からない。微妙に動いているソレは、徐々に大きくなって近づいて来ているような気がする。よく見えないから、どうなっているのか把握が難しい。


 周りを見渡そうとした時に、顔や首が動かないことに気が付いた。腕や足も感覚があるのに動かせない。身体全体が硬直して、身動きひとつできなかった。


「……」


 目の前に見える人影に声をかけようとしたが口が開かず、声も出せない。目だけが動かせる。ただ視線の先にある景色を見ることだけが、今の俺に出来る行動だった。


 もしかして、今見ている景色が転生に関するヒントなのか。


 あのアイテムは、ただのトラップではなかったのかもしれない。いま俺が見ているものは、転生を繰り返す謎について究明するために関係している出来事なのかも。


 繰り返す転生について、明らかにするために必要な場面を宝玉が見せてくれているということなのか。理屈ではなく感覚で、そうではないかと俺は感じた。


 ならば、この光景を絶対に見逃してはならない。


 ジッ、と目を凝らして見てみる。だけど、視界の先にあるのは真っ白な空間だけ。そこに、うっすらと人影。ボンヤリとしているので、よく見えない。


 ここは、一体どこなんだ。再び、疑問に思うが答えは出ない。


 自分の身に何が起こっているのか、わからない事だらけだ。なぜ俺の体は動かないのか。なんとかして状況を明らかにしようと考えてみるが、やはりわからないまま。わかったことは、いまのところ何もない。不可解なことだらけ。


 目の前まで迫ってきた謎の人影が、本来の人間ならば口がある部分が開いたように見えた。そこから音が聞こえてくる、ような気がする。これは目の前の人影が放った声なのだろうか。その人影は、輪郭がボンヤリとしているが明らかに人の形に見える。誰なんだ。はっきりしない。


 正体不明の人影が、何か喋っている。


「******には、***し***もらい******。神************る道*********歩******です」

「なぜ? *********が? どう************」


 俺の口が動き始める。正体不明の人影の言葉に答えていた。


 ノイズの混じったような不快な音が聞こえてきた。そして俺の口が勝手に、なぜと問いかけている。2人で会話をしていた。


 これは過去の記憶、なのか。頭に浮かんだ、ある考え。俺が見ているのは、過去の出来事ではないか。


 しかし俺には、こんな場面の記憶に無かった。長い間、転生を繰り返してきたので薄れてきている記憶もある。忘れてしまったことも。だが、こんな真っ白で特徴的な空間に関する思い出に、思い当たりがない。


 一体、誰と話しているのか。どんな会話をしているのだろうか。聞き取ろうと試みるが、耳に聞こえるのはノイズ混じりの音。正確な言葉が聞こえず理解できない。


「***************です。貴*********が、次の*********を*********。励み***********。強く***************。人を************」


 聞こえてくる声は若いのか老人なのか、どちらかわからない。男性か女性なのかも判別できないような声だった。どちらとも取れるような、不思議で不可解な声。


 何か少しでも情報を得たい。耳を澄まして聞こうとするが、やはり聞き取れない。ザザッとノイズが混じって、内容は分からない。言葉はところどころ聞こえるものもあるけれど、曖昧でハッキリとしない。とにかく不鮮明だった。


 視界も徐々にボヤケてきている。先程よりも、見えている風景が薄くなってきた。話している人物の口元が動いているのが、かろうじて見えるだけだ。口の動きで読み取るのも無理そう。だけど、少しでも情報を得るために見続ける。耳を澄ます。


「*********待って、*********。転生? *********? どういう事*********。俺には***************なんだ」

「******************だ。強く、*********************」


 再び、質問する俺の声。興奮しながら、慌てた様子で何か質問を繰り返していた。だけど、やはり何もわからないまま話は続く。


「*********だ。************よ、行けっ!」


 そして両手を広げて、天を仰ぎ見る謎の人物。俺は、行けと命令された。


 最後の”行けっ”という言葉だけハッキリと聞こえた。俺にも分かる言葉でちゃんと聞こえた。だが前後の会話の内容はわからないまま。どこに行け、というのか。


 考えていると、視界の全てが更に眩い白色に覆われていく。目の前に見える、謎の人物が発光している。激しく眩い光に俺は思わず両手を身体の前に、目を覆って光を遮ろうとした。その瞬間だけ、なぜか身体が自由に動いた。そして。

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