第172話 宝玉を手に
警戒しながらダンジョンの中を進んできた。今の所、大きなトラブルもなく順調。だが、周囲への警戒は怠らない。
階段を下りると、開けた空間に出てきた。土壁に囲まれている大きな部屋だった。今まで進んできた場所とは、少し雰囲気が変わった。周辺を軽く観察してみたけど、先へ続く通路や階段が見当たらない。
「ここが最下層、なのか?」
「うん、ここから先に続く道が無い。ここがダンジョン最下層のようだね。けど気をつけて、何が出てくるか分からないから」
「うん。わかった」
この場所に到着する少し前から、とてつもなく強い魔力を発している何か、を察知していた。警戒しながら辺りの観察を続ける。特に目につくようなモノは無かった。その階層には、モンスターも居ない。危険なトラップや、隠し扉のようなものも発見できなかった。
肌寒く、とても静かな場所である。
「ん? あれ、か?」
「どうした?」
「見つけたかも。ちょっと待ってて」
「了解。気をつけて」
部屋の中央から少し離れた場所。壁に近い地面の上に、何かが落ちているのを発見した。メンバーに待機を命じて、強力な魔力を発しているソレに近づいてみる。
地面の上に転がっていたのは、薄ぼんやりと緑色に光る宝石のようにキレイな珠。ビー玉ぐらいの小さな珠が、無造作にポンと地面の上に落ちていた。これは、魔力を感知できなければ見落としていたかも。見た目だけだと、小さな緑の珠でしかない。
これに含まれている膨大な魔力を感じ取ることができるからこそ、簡単に発見した。そうでなければ、この広い空間で見つけ出すのは大変だったかも。
近くにあるだけで恐ろしく感じるほど強力な魔力が、小さな珠の内部に封じ込められていた。扱い方を間違えると、魔力の暴走による爆発でダンジョン全部が吹き飛ぶぐらいの威力がありそうだ。
「大丈夫なの?」
「まだ、ちょっと。安全を確認するのに調べてみるよ。下がってて」
近づこうとする彼らを手で制して、下がるようにと指示を出す。もう一度、周辺にモンスターの気配が無いことを確認してから、地面の上に手をのばした。
被害が及ばないように少し離れた場所に三人を待機させて、恐る恐る触れてみる。
「ッ!」
「おい、大丈夫なのか?」
「気をつけて」
「頑張って」
ゆっくり手を伸ばして、珠に触ってみた。後ろで応援してくれている3人に被害が及ばないようにしたい。
珠の魔力が暴走して大きな爆発を起こすような場合に備えて、俺は珠の周りを包み込むように自分の魔力を放出した。珠の膨大な魔力を、俺の魔力で包み込んだ。こうしておけば、万が一の場合に魔力の暴走を抑え込むことができるはず。
「うん。大丈夫そうだよ」
珠を刺激しないように、ゆっくりと触ってみる。ひんやりとした感触だ。それから固い球体に触った感覚がある。
触れてみると、注意していた魔力の暴走やら大爆発は起きなかった。とりあえず、これで一安心かな。しかし、取り扱いには気をつけないと危なそう。
「よし。こっちは大丈夫だった。もう来ても問題ないよ」
「それが宝玉? ちょっと見てみたいな」
「興味ある」
「はい。衝撃は与えないように、注意して触って」
「おい。大丈夫だとは思うが、まだ油断はするなよ」
宝玉を持ち上げてみるが、特に問題はないようだった。触るだけでは何も起きないみたい。
安全だと確認できたので、興味を持った女性2人に触らせてみる。強いショックを与えなければ大丈夫なはず。
田中くんは警戒を緩めずに、緊張感を保っている。
「へぇ、これが宝玉? とてもキレイね」
「意外と小さい」
「こんなので、本当に願いが叶うのか?」
この珠は、地面から出てきたのだろうか。俺たちが発見した時はコロン、と地面の上に転がっていた。まるで地面から生まれてきたかのように、無造作に落ちていた。
ダンジョンの最下層で、もっと大事な物として扱われているのかと思ったが、誰も管理していないようだ。
ダンジョン内に生息しているモンスターが、この珠を大事にしまっておく、なんてことはしないか。モンスターに、それほどの知能はない。
宝玉は、ダンジョンの最下層で自然発生したアイテム、ということなのかな。
「ここは、モンスターが入ってこれない場所のようだ。ここに拠点を作って、休憩にしようか」
「わかった。拠点構築は任せろ」
「私たちが、やっておくよ」
「道具を出して」
「うん。コレを使ってくれ」
最下層には、モンスターが生息していなかった。上から降りてくる様子もない。
安全な場所のようなので、ここは拠点として使えると判断。拠点構築は田中くんと大内さん、ネコが協力して行う。アイテムボックスから色々と道具を取り出してから渡したら、パーティーメンバーが行動を開始した。
その間に俺は、入手した宝玉について調べることに集中する。
***
俺たちは、最下層へ無事に何事もなく到着することが出来た。そこで、緑色の光る珠を手に入れる。これが最下層にあると噂されていた、願いを叶えてくれるアイテムというモノなのだろう。これだけ膨大な魔力を秘めているのだから、その効果は期待できる。
色々と調査して手に入れた過去の文献によると、この珠を手に握りながら願い事を念じれば発動する、と記されていた。
「誰が使う?」
「それはもちろん予定通り、パーティーのリーダーであるお前が使ってくれよ」
「私は、リヒトのために手伝ってきただけ。だから、一番最初にリヒトが使って」
「うん、そうね。私も、リーダーが最初に使うってのに賛成するよ」
問いかけるとメンバーの3人が俺に譲る、と言って珠を手渡してきた。ここは素直に感謝して、受け取っておこう。
「ありがとう、みんな。それじゃあ、使わせてもらうね」
というわけで、願いを叶えてくれるという宝玉は俺が最初に使わせてもらうことになった。諸々の準備を終えてから、俺は緑色の珠を右手に握り込んだ。
念じるのは、転生の秘密について解明したい、と。どうして俺は、転生を繰り返すのか。この転生を終える方法はあるのかどうか知りたい。
自分の身に起こっている転生の謎について、解明したい。そう願った瞬間。
「ん」
フッと意識が遠のいていく。痛みや苦しみはない。ただ力が抜けて、視界が閉じていく。
あ、ヤバいかもしれないと直感的に思った。視線がどんどん地面に近づいていく。身体が地面の上に倒れていくのが分かるが、動けない。顔に痛みを感じた。受け身が取れずに、俺は固い地面の上に、顔から倒れてしまったようだ。
「ぅ……っ……」
「**、******!」
「*****? ******」
「**! ****! *****!?」
声を出せない。誰かが叫ぶ声が聞こえてくるような気がしたが、視界は真っ暗だ。彼らの声に答えることが出来ない。
今もまだ、右手には珠の感触が残っている。もしかするとこの入手したアイテムが罠だったのか。迂闊だった。もう少し、珠の危険性について調べるべきだったかも。周囲に被害が出ていないのが、不幸中の幸いか。
そして、俺の意識は途絶えた。
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