第171話 ダンジョン最下層を目指して
迷宮探索士の資格を持っていると、一般人が目にすることの出来ないような特別な情報を閲覧することが出来る。迷宮探索士だけが見ることの許されている極秘の情報だ。
迷宮探索士の学校の資料館や、国立図書館などで大切に保管されている本や資料の数々。
日本各地にあるダンジョンの場所や内部の詳細な情報が記された資料。採取できるアイテムや鉱物のデータ。ダンジョンに生息している、モンスターの生態や戦い方について。迷宮探索士だけが購入許可されている武器や防具の販売ルート等など。
その他にも、普通の人は得ることが出来ない情報を入手できるようになっている。これらは、迷宮探索士の資格を持つ者だけに許されている特権である。
閲覧制限されている資料の中に、願いを叶えてくれるというアイテムに関する記録があるのを発見した。過去に、そのアイテムは”宝玉”、”願い玉”などと呼ばれていたらしい。ちゃんと実在していて、使用したとされる人物の記録も残っている。人物の伝記まで辿って、確かめた。
噂で聞いていた、俺の求めていた情報だ。
もしも、最下層まで頑張って潜ったのに願いを叶えてくれるというアイテムが嘘の情報だった場合、目も当てられないから調べておいた。ちゃんと実在している事を、資料で確認することが出来た。アイテムは噂ではなく、真実だったということを。
どうやら、宝玉と呼ばれているアイテムがダンジョン最下層にあるのは間違いないらしい。宝玉というアイテムは、手に持って空中に掲げながら頭の中で願いを唱えると発動するという。それで、願っていたことが実現するという仕組みなのか。そしてダンジョンの外に持ち出すことが出来ない、という特殊性も知った。
宝玉は、ダンジョンを出る前に使わないとダメなのか。それは、初めて知ったな。
「よし。最下層にあるらしいアイテムについて、色々と知れた」
「調べ物は終わった?」
「うん。終わった」
ネコと俺は2人で国立図書館を訪れ、調べ物をしていた。ネコは早々に飽きていたようだが、俺が調べながら資料を運んだり探したりするのを手伝ってくれた。
調べ物は終わった。あとは仲間たちに説明してから了解を得て、ダンジョン最下層を目指すだけかな。
学校を卒業してから進めてきた探索士の活動も、かなり安定して落ち着いてきた。色々と調べてみて、宝玉というアイテムが実在していることも確認できた。
いよいよ、俺の求めていたアイテムが手に届きそうな場所まで近づいてきていると感じた。もうすぐか。
「じゃあ、今日はもう家に帰ろうか」
「うん。晩御飯は?」
「ネコは、何が食べたい?」
「美味しいご飯」
「そっか。じゃあ、麻婆豆腐でも作ろうかな」
「美味しいそう。それ食べたい」
「オッケー」
今日は事務所に戻らずに、このまま自宅に直で帰宅しようかな。途中でスーパーに寄ってから、晩御飯の食材を買って家に帰ろう。そんな会話をネコとする。
ちなみに、学校を卒業してからすぐに婚姻届を提出していた。既にネコと俺は夫婦関係である。俺たちは実家を離れて、今は2人で同じ家に住んでいた。そして夕食を作るのは、主に俺の役目である。
結婚式は、まだ挙げていない。迷宮探索士の仕事が忙しくて、スケジュールがなかなか決められなかったから。
実は、パーティー仲間である大内さんと田中くんの2人も近いうちに結婚しそうな良い雰囲気だった。なので、ダンジョン最下層の攻略を終えたら一旦、休暇を取って結婚式を挙げたいと考えている。その時に、彼女たちの関係も進展しそうだから。
***
次のダンジョン攻略は、最下層を最終的な目的地にしている。今までと比べると、難易度が非常に高い攻略になるだろう。未知の階層でも、先に進む必要がある。
「準備は完璧に、トラブルも起きないよう最大限の努力をする。だけど、ダンジョンの中では何が起こるか最後までわからない。それでも、一緒に来てくれるか?」
俺は、パーティーメンバーの3人に問いかける。
「ここまで俺は、色々と世話になってきた。だから今度は俺たちが、お前のやりたいことを手伝うよ。俺程度の力が手助けになるかどうか、わからないけど」
「リーダーが、ダンジョン攻略についての計画を立ててくれるのなら、間違いは無いでしょ。もちろん、私も手伝う」
「私は、リヒトとずっと一緒って約束したから」
「そっか、ありがとう」
ダンジョン最下層は、死を覚悟しなければならないほどの最難関と言われている。人類が最下層に到達したのが、百年以上も前という記録が残っているぐらい。その時から今まで、最下層に到達したパーティーは一組も居ない。そもそも、最下層までの攻略に挑戦しようとするパーティーが数えるぐらいしか居ない。
そんな場所を目指したいと言うと、パーティーの仲間たち3人は快諾してくれた。
ということで俺はダンジョン最下層へ到達するために、これまで準備してきた攻略計画の最終チェックを行う。仲間の協力を得て、最下層に存在すると言われる宝玉を回収するために。
***
事前の攻略準備が完璧だったからなのか、特に苦労することもなく順調に潜れた。上層から下層に向かって階段を降りてきて、遭遇したモンスターは早々に撃破する。中層を突破して、これから更に先へと進む。
俺のスキルであるアイテムボックスで持ち込んだ武器と道具は、十分な数の予備が収められいてる。食料や水もアイテムボックスの中に収納している。しばらくの間、ダンジョンの中で暮らしていけるぐらい準備万端だった。必要になったら、そこからすぐ取り出せるし、周りへの警戒も緩めない。
余裕もあって、焦ることなく下へ下へと降りてきた俺たちのパーティー。その先は情報がない未知の層。自分たちで調べないといけない場所。久しぶりに、人類が到達した領域。もちろん、人の居た形跡も全くないエリアだ。
ようやく、ダンジョン最下層攻略の本番が始まったようだ。だが慌てることなく、いつものように落ち着いてルートを探りながら奥へと進んでいく。
やることは、いつもと変わらなかった。
「4足歩行モンスターが1体、見えた。あそこ。階段の前に待機しているぞ」
「了解。確認する」
田中から報告を受けて、俺も彼と同じ方向に視線を向けてみて確認する。確かに、階段の前にモンスターが待ち構えていた。アレを倒さないと、奴の先にある階段には進めないようだ。今回の敵との戦闘は、避けられないかな。
「戦闘になる。みんな、警戒」
「了解」
「分かった」
「周り、見るね」
戦いに入る前に一旦、その場に停止する。落ち着いて、皆で周辺の観察を行った。危ないトラップは見当たらないか。他に潜んでいるような敵は居ないか。逃げる場合どうしようか。俺たち4人は、小声で話し合う。
「この近辺、奴らの他にはモンスターが居ないみたいだ」
「トラップも見当たらない。戦場としては、問題ないかな」
「アイツの他に、敵は居ないね」
「逃げるのなら、こっちの道が安全そう。退路の確保もオッケーだね」
周囲の安全確認と、情報の共有をしていく。この1年でチームワークも磨かれて、瞬時に共有したい情報が全員に伝わっていった。
次に、階段前で待ち構えている敵の観察を進める。
「体が大きくて、体毛が硬そう。足が狙い目かな」
「うん。俺も、奴の足が狙い目だと思うな」
「ん! 敵は3体居る。周囲への警戒は無し」
「奇襲できそうだな」
「生命力が強そう。戦いが長引いてしまうと面倒そうだ。即行で片付けよう」
これまで、ダンジョンのモンスターと何度も戦ってきた経験から導き出した予測と戦力の分析。モンスターとの戦い方を考える。作戦は決まった。
「いつものようにネコが前線に出て、攻撃のサポートは田中くん。俺が中距離から、みんなに攻撃指示を出す。危なくなったら、大内さんが回復のアイテムをお願いね。タイミングは任せる」
「「「了解」」」
「じゃあ、行こうか」
手早くミーティングを済ませると、息を潜めながら4人でモンスターに接近する。俺が攻撃を仕掛けるタイミングを指示して、戦いが始まった。
「ふぅ」
すぐに戦いは終わった。打ち合わせ通り、4人のコンビネーションによる速攻で、敵を倒すことに成功。こちらに被害は無し。下層に生息している凶暴なモンスターも奇襲すれば、こんな風に戦って簡単に勝てる相手だった。
「すぐに素材の回収を」
「俺は、周辺の警戒だな」
「私も警戒しておく」
「それじゃあ素材の回収は、私が手伝うね」
ネコと田中くんが周囲の警戒をしている間に、俺と大内さんで速やかにアイテムの回収を終わらせる。
それぞれで判断して役割を分担した動きで、素早く次の行動へと移っていく。俺は猛スピードで回収した素材をアイテムボックスの中に放り込んだ。
「回収作業、終わり。よし、先に進もう」
「「「うん」」」
もうすぐ、最下層に到達しそうだ。ダンジョン内部の調査は行われていないので、手元にマップは無い。あと、どれくらい階段を降りれば最下層に到着するのだろう。それは、分からない。
けれど、もうすぐ到着しそうだという予感があった。パーティーリーダーとして、皆に指示を出しながら最下層へ向かって進む。さて。あと、どれぐらいだろうか。
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