第169話 生還した生徒と、迷宮探索士としての日々
迷宮探索士の資格を取得したために、迷宮探索士に関しては学校で習うことがほぼ無くなった。ただ、高校卒業資格を得るために一般科目の授業を受ける必要がある。卒業に必要な単位をもらうために、学校は通い続けることになった。
迷宮探索士についての勉強をするためではなく、一般的な知識について勉強する。大学まで進学できる程度の学力を身につけるために。この先、大学に進学する予定はないけれど、高卒資格は得ておきたい。
学校で授業を受けながら、ダンジョン攻略に関する専門的な授業が行われるときは他の生徒たちのフォローをお願いされるようになっていた。先生の補佐というような役割を授業で任されるようになったのである。
迷宮探索士の資格を持つ学生なので、俺が生徒に指導しても大丈夫らしい。試験に合格したからだろう。下層から何事もなく無事に生きて帰ってこれた、という実績もあるので。
けれど、他にも理由がある。実は、生還した生徒たち全員が試験に合格して退学を回避していたのだ。一緒に地上へ帰還した生徒たちが、俺の指導力を絶賛していた。
「自分たちのしたことは、本当に酷いことだった。許してもらおうなんて思わない。だけど、許してもらえるように努力したい」
「青柳さんに戦い方を教えてもらって、強くなれた。これからは間違えないように、頑張りたいと思っている」
「ダンジョンについて勉強するって、こういう事なのか、って実戦で理解したよ」
「あの時は、本当に申し訳ないことをした。だけど、あの間違いがあってよかった。自分が間違っていた、ってことを理解出来たからね」
と、こんな風に語っているらしい。ダンジョンの下層から生還したという出来事を経験して、改心した様子の彼ら。
試験では、高木という生徒は戦闘能力が、鈴木という生徒は索敵能力が非常に高いと試験官たちに評価されたらしい。どちらもダンジョン攻略に活躍できる人材として見出され、試験も無事合格したそうだ。
試験に合格した後、戦闘能力や索敵能力が高いのは俺のおかげだ、俺に鍛えられたから試験に合格できたんだと周りに触れ回っているらしい。
確かに、あの時に少しだけ彼らを指導した。少しだけ見込みがあったので、地上へ帰還するため戦闘要員として戦いに参加させて指示した。その時の経験を活かして、ちゃんと成長していたようだ。
同行していた他の生徒たちも戦闘には参加させなかったものの、下層から上層へと進む様子を間近で見たことによって色々と学び、経験値を得ていたみたい。
あの体験があったからこそ、試験に合格できた。そう言って、彼らは感謝しているらしい。まぁ、進む道を正しい方向へ修正することが出来たのなら良かったのか。
それで指導力もある、と先生たちから見込まれた俺。各授業で、生徒たちの指導を任されることが多くなった。先生の授業を受けても、迷宮探索士について学ぶことが無くなっていた俺は、彼らの指導を請け負った。授業が進むにつれて先生の補佐だけでなく、ほとんど俺がメインとなって授業しているような状況に変わっていった。
こうやって誰かに教えるというのは、昔からよくやってきたことだから慣れたものだった。ちょっと、慣れすぎていた。
本来なら教壇の前に立って授業をする先生も、生徒たちの中に混じって俺の授業を受けるという妙な状況に。そんなことがありながら、俺の学生生活はあっという間に過ぎていく。
学校の授業が終わって、その後の時間。迷宮探索士の資格を持っている俺たちは、中層から先に進むための正式な許可が出されていた。早速、空いている時間を使ってダンジョン中層以降の攻略を4人で進めていくことに。
上層だけ潜っていた今まで以上に、事前準備はしっかりとする。危険がないように入念な攻略計画を立ててから、ダンジョン内部に潜る。将来に向けて、今のうちから色々とダンジョン攻略する技術を磨いておくために。
迷宮探索士の資格を取得したことによって、アイテム回収をして稼ぐことも可能となった。ダンジョン内部に落ちているアイテムや、壁に埋まっているような鉱石など回収して換金。自分たちの稼ぎを得ることが出来るようになった。今までは、授業の課題以外でダンジョン内に落ちているものを地上へ持ち帰ることは禁止されていた。それでも、それなりに稼げていたのだが。
迷宮探索士の資格を得て、さらに稼げるようになった。
俺たちのパーティーは、アイテムボックスを駆使することによって大量の回収品を地上へ持ち帰ることが出来る。ダンジョン内部の調査を進めながら少しずつ、地図を作製して新たなルートを開拓。集めた色々なデータは、学校が買い取ってくれるのでお金になる。その合間に、アイテムなどを回収して金を稼ぐ日々。
学生ながらに迷宮探索士の資格を持ち、積極的に活動していると認知されるようになる。依頼を受けて学校近くにあるダンジョンだけでなく、国が管理している各地のダンジョンにも依頼を受けて潜ることになった。学校を経由して、国からの指名依頼である。
迷宮探索士ならば、喉から手が出るほど欲しいと思うようなダンジョンについての情報を調査する。調べて地上に情報を持ち帰り、依頼主へ報告するというのが依頼の内容だった。
アイテムも回収して、地上へ持って持ち帰り換金。それだけでも大金を稼ぐことが出来た。だが本命は、ダンジョン内部に関する情報。ダンジョン内部の構造や地図、新たなルート開拓の情報は、非常に高額な値段で依頼主が買い取ってくれた。
学校では生徒たちに技術と知識を教えて、暇な時間にはダンジョン攻略を続ける。さらに、各地のダンジョンについても調査する依頼を受けた。
もう既に学生ではなく、迷宮探索士として活動しているかのような充実した日々を送っていると、気づいたときには学校を卒業する時期になっていた。
「お前たちも、もう卒業なのか。長いようで短かったな」
「はい。来週が卒業式ですね」
管原先生に今回のダンジョン攻略の結果について報告しに来てみると、そんな事を言われた。確かに、もうすぐ学校の卒業式である。もう生徒としての意識が、かなり薄れていた。
「こんな卒業間際までダンジョンの攻略を繰り返しているパーティーは初めてだぞ。お前たちのような、優秀な迷宮探索士を生徒に持ったのも初めての経験だ。これから先も、活躍する迷宮探索士として頑張ってくれ。応援しているよ」
「色々と、ありがとうございました管原先生」
管原先生に送り出される。今回の人生では、親切な人が担任の先生になってくれて本当に助かった。前世のように理不尽な理由で学校を追い出されることなく、無事に卒業することが出来てよかったと思う。
担任の先生で良くしてくれた管原先生に、気持ちを込めて3年間のお礼を告げた。それから1週間後、無事に卒業式が行われて学生時代は終わった。今回の人生では、充実した学生生活を過ごせたと思う。
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