第168話 試験の結果

 迷宮探索士の試験は、数日間かけて行われた。事前に対策や準備するような時間の余裕もなくて、ほとんどぶっつけ本番で挑むことに。


 初日は筆記試験。ダンジョン攻略に関する知識が問われるテストを数種類受けた。そのテストは、思ったよりも簡単だった。今までに学校の授業で習ってきたことや、自分たちで学習していた範囲でスラスラと回答を記入していくことが出来た。


 今までダンジョン攻略を行うための準備を万全にするために作戦会議を繰り返してきた経験が、ここで大いに役立つ結果になる。予習しないで試験を受けたにしては、かなり自信のある出来栄え。




 それから3日間の戦闘試験が行われた。訓練所で試験官と模擬戦するという試験。一人につき、一人の試験官が担当となる。


 受験者がそれぞれに別れて、戦闘能力をチェックされる。実際に武器を手に持って向かい合い、攻撃や防御、避ける様子などをじっくり確認された。


 この試験も俺は自信を持って終えることが出来た。というのも、試験官だった人が俺の実力を褒めてくれて、初日で見極めを終えたから。予定なら、あと2日あるはずなのに。


「いやぁ、凄い逸材だな君は。驚いたよ」

「試験はこれで終わり、ですか?」


 試験官が手を止めたので俺も武器を下ろした。訓練所に漂っていた緊張感が一気に霧散する。そして手合わせをした結果、かなりの評価を得たようだ。


「もちろん! 君の実力は十分に合格の基準を満たしている。この試験は合格だよ」

「ありがとうございました」


 実のところ、出せる力の1割も発揮していなかった。けれど合格判定を貰うことが出来たようだ。


「よければ、俺たちのパーティーに加わらないか? 君なら歓迎するぞ」

「いや、俺はもう既にパーティーを組む相手は決まっていて……」


 俺を担当してくれた試験官は、現役の迷宮探索士だったらしい。試験が終わって、パーティーに誘われた。だが、俺には既に仲間が居るので彼の誘いは断る。


「まぁ、そうだろな。でも、もしちょっとでも気になったら連絡してくれ。君なら、いつでも歓迎するよ」


 試験官の男も、誘いを受けるとは思っていなかったようだ。すぐに引き下がって、代わりに連絡先を渡してきた。そんな感じで試験官に勧誘されつつ、俺の戦闘試験はすぐ終わったが、他の受験者が終わるのを待って暇を持て余したりした。




 そして最後は、2日間で実地試験。ダンジョンを攻略していく様子をチェックされるという内容。試験官を一人連れて、一緒にダンジョンに潜る。試験で達成するべき課題を与えられて、1日かけて準備をする。ダンジョン内で一泊してから地上に戻る予定を組むことに。


 メンバーは、いつものようにネコと田中、大内の4人で。潜る場所も、学校近くにあるいつものダンジョン。


 試験を受ける時に決まったメンバーが居るのであれば、事前に申請してパーティーを組むことができる。俺には仲間が居たので、いつものメンバーで試験を受けられるように申請しておいた。他のみんなも同じように申請して、実地試験は一緒に受けることに。


 いつもやっていることを試験でも同じように。4人で協力しあって、ダンジョンを攻略していく。 


 倒すべきモンスター、到達するべき地点、回収するべきアイテムを早々に回収することに成功していた。一泊の野営も危なげなく終わらせる。


 かなり余裕を持って課題をクリアした。


「この結果なら、おそらく合格で間違いないだろうよ。これから、迷宮探索士として活躍できるように気張って、頑張れよ」

「ありがとうございます」

「頑張ります」


 試験官はフレンドリーな人で、ダンジョン攻略の同行も苦じゃなく終わった。途中で何度もパーティーに勧誘されるのは、少し面倒だったけれど。そう思ってもらえるぐらい、試験官は俺たちの実力を評価してくれたようだ。


 試験官から合格は間違いないだろう、と太鼓判を押されて全ての試験は終了した。自分でも、おそらく合格しているという自信があるので試験を終えると、何も心配をすることはなかった。




 結果はすぐに発表されて、俺たち4人は無事に合格することが出来ていた。


「思っていたよりも、迷宮探索士の試験って簡単だったな。免許も、こんな感じか」


 田中くんが試験を合格して、受け取った迷宮探索士の免許を手に持っていた。表を凝視して、裏返したりしながらシンプルな感想を述べる。冷静を装っているつもりの彼だけど、実はかなり興奮しているみたいだ。試験に合格して嬉しい、という感情が丸わかりである。


「やったー。まさか、こんなに早く迷宮探索士の試験を受けるなんて思わなかった。しかも、合格して資格を得ることが出来るなんて想像してなかったなぁ」


 同じく、大内さんも興奮しながら迷宮探索士の免許を掲げて無邪気に喜んでいた。


「ネコも、合格おめでとう」

「これで、リヒトが望む”願いを叶えてくれるアイテム”の入手に一歩近づいた」

「うん。そうだな」


 ネコは、無事に試験を合格して迷宮探索士の資格を得たことより、俺が試験に合格して”願いを叶えてくれるアイテム”の入手に近付いた、ということを喜んでくれた。自分のことよりも、俺のことを気にかけてくれるネコ。そんな優しい彼女の心遣いが、とても嬉しい。


 俺は、願いを叶えてくれるというアイテムを入手するために、迷宮探索士の資格を取得することを目指していた。アイテムを使って転生の謎について究明するために。


 ネコには、転生の謎を究明するためにダンジョン最下層を目指してアイテム入手を目指していると話していた。そして俺の目的達成に向けて、手伝ってくれると約束もしてくれている。


 改めて、俺は目標に向かってダンジョン攻略について考えるようになっていった。資格を取得することが出来たので、これからはダンジョン中層以降は立入禁止という制限がなくなる。自由にダンジョンを攻略することが出来るように。


 次の段階だ。ダンジョンの最下層に到達するため、色々と攻略の準備を進めていくことにした。

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