第167話 無資格ダンジョン侵入の罰則

 学校に来てみると会議室に呼び出された。学校行事の準備のために、何度か入ったことのある部屋。そこには、先に部屋に来て待機していた者たちが居た。パーティーメンバーであるネコと大内さん、田中くんたちだ。俺が最後に到着したのか。


 一週間ぶりに、ネコと再会を果たした。本当に久しぶりだと感じるな。彼女とは、毎日のように顔を合わせていたから。再会してからは、それほど長く顔を合わせない期間はなかった。それぐらい長い間、離れていたということ。


「久しぶり」

「やっと来たか」

「リーダー、元気にしてた?」

「みんな、久しぶりだね」


 ネコは普段通り、田中くんや大内さんは元気そうな表情。1週間前に行った緊急のダンジョン攻略の疲れも回復しているようで安心する。久しぶりだと挨拶しながら、俺も部屋の中に置かれた椅子に腰を下ろす。


「リヒト。また会えて、本当によかった」

「あぁ、俺もだ」


 隣の席にネコが座っている。そんなネコの嬉しそうな声。謹慎期間中は生徒同士で連絡を取ることは許されなかった。なので、久しぶりの会話である。


 久しぶりに再会がとても嬉しそうだった。腕に触れるほど近くまで、彼女は身体を寄せてくる。離れている間、かなり不安だったようだ。くっつきたがるのは、彼女の不安感のあらわれ。他の人には見えないようにこっそりと、手を繋いで安心させる。


 しばらくの間、仲間たちと話し合った。待機期間中、何をしていたのかについて。お互いの近況を簡単に報告する。これから先、どうなるのかについては特に触れず、他愛もない話をしていた。


「俺は暇だったから、毎日テレビばっかり見てたよ」

「私は、母親の手伝いをしていたわ」

「俺も、大内さんと同じかな。家事の手伝いをしていたな」

「久しぶりに、家族と一緒に過ごした」


 俺と同じように、みんなも外に出ることを禁じられた。なので、どこにも行けずに家の中でゆったりした時間を過ごしたようだ。


 そんな会話をしている間に、部屋の中に続々と人が入ってくる。


 彼らは、田中くんを騙してダンジョンに誘い込んだ者たち8名の生徒たち。彼らは緊張した面持ちで黙ったまま椅子に座ると、会話もなく静かに待機していた。俺たちが座っている席から少し離れた場所に、彼らは集まって座っている。


 そんな彼らの様子を見ながら、俺たちも黙った。俺たちのグループと、生徒たちのグループ。その2つに分かれて、静かに待つ。




「待たせた。もう全員、集まっているな」


 そう言って、俺たちが待機していた相談室に管原先生が入ってきた。その後ろに、見覚えのある大人たちも一緒に部屋へと入ってくる。管原先生は挨拶もそこそこに、すぐさま処罰内容が説明し始めた。


「じゃあ早速だけど、ダンジョンに無断で侵入した件について。君たちの処分内容について説明していく」


 生徒たちは黙って、ちゃんと先生の話を聞く姿勢。退学処分を受け入れるつもりで来ていた。どうやら俺は、学校に通う生活というものに適してないのかもしれない。


 前世でも、通っていた料理学校を退学した記憶がある。ルールを逸脱して、学校を辞めることになった。あの時は誤解されて自主退学を勧められたから学校を辞めた。けれども、今回はちゃんと納得できる理由がある。


 退学になるのも、仕方がない。


 だから俺は、罰を受け入れる気持ちでいた。なのに、管原先生から思わぬ選択肢を提案された。


「君たちには、これから迷宮探索士の試験を受けてもらう」

「え?」


 一瞬、話の内容を理解できず唖然とする生徒たち。何人かが驚きの声を漏らした。俺も驚いている。試験を受けるとは、どういうことだろうか。


「迷宮探索士の、試験?」

「どういう事ですか?」

「それが処分の内容なんですか?」


 困惑した表情を浮かべて、質問する生徒たち。管原先生は、詳しく丁寧に説明してくれた。


「迷宮探索士の資格を持たず、許可も出ていない者たちがダンジョンに侵入するのは非常に罰が重い行為だ」


 管原先生の話に俺は頷く。重罪であることは知っている。だから学校も退学処分になるだろうと予想していたというのに。


「けれど、ダンジョン下層からお大きな怪我もなく生還した君たちの能力を、今回の件で切り捨てることは大きな損失となる」


 管原先生は俺たちに熱い視線を向けてきて、そのまま続けて語った。


「迷宮探索士の資格を取得できるほどの実力があると証明できれば、今回の件は不問にするというワケだ。というわけで、卒業する前に必ず資格を取得するように」


 迷宮探索士の試験に合格することが出来たのであれば、俺たちは罪には問われないということらしい。だが……。


「まだ学生の俺たちでも、試験を受けられるんですか?」

「優秀であることを認められた者は特別に、迷宮探索士の試験を受ける事ができる。試験に合格すれば、ちゃんと迷宮探索士として認められるぞ」


 俺の質問に管原先生は、可能だと答えた。本来であれば、学校を卒業しないと試験を受ける権利を得られない。だが推薦があれば、卒業する前でも迷宮探索士の試験を受けることができるらしい。

 

 今まで活動してきた成果もあって、近日中に迷宮探索士の試験を受けさせる計画が進行中だったらしい。成績優秀だった俺たちのパーティーのメンバーを推薦する予定でいたのだとか。そんな時に、この前の事件が起きてしまった。


 その、準備していたという試験を受けさせてもらえる。そして、合格すれば資格を得ることができる。


「俺たちは、どうなるんですか?」


 俺たちパーティーメンバーとは別の、生徒たちの質問。それに答える、管原先生。


「もちろん、君たちにも試験を受けてもらう」

「合格すれば、退学処分も無しになるのですか?」

「そうなるな。ただし、彼らと違って一度の挑戦で試験に合格しなければ退学だ」

「……」


 俺たちパーティーメンバー以外である8名の生徒たちも、一緒に試験を受けることになるらしい。迷宮探索士の試験を受けられると聞いて一瞬だけ喜んだが、今は暗い表情を浮かべている。


 不合格だった場合は、退学処分になるという厳しい未来が待っているからだろう。


 やったことに対して、十分に重い処分だと思う。しかし、希望もある。試験に合格すればいいのだから。先生たちが決めた処罰について、俺から何も言うことはない。


 陥れられた田中くんも口を閉ざして、黙ったまま。気にしていない様子だ。だからこそ、俺からは余計な口出しをしないように注意する。


「その試験は、いつ行われるんですか?」

「一週間後に行われる予定だ」

「いっ、一週間後っ!?」


 また一週間後。次は、迷宮探索士の試験を受けることになるという。しかし、試験が行われる日程の予想外な近さに驚いた。準備する時間は、あまりなさそう。


 そんなわけで、退学にならないようにするためには迷宮探索士の試験を受けて合格しないといけない、ということになった。


 俺たちのパーティーは、合格するまで何度か試験を受けさせて貰う予定。ただし、あまりに何度も不合格になってしまうと、別の処分が課される可能性もあるらしい。ちゃんと試験に合格しなければ。


 他の生徒たちは、一度の挑戦で試験に合格しなければ退学させられるという厳しい条件付き。彼らも大変そうだ。


 今回の人生では既に、迷宮探索士の道を進むことは諦めていた。けれども、先生が思いも寄らない新たな選択肢を用意してくれた。


 色々と考えてみた結果、俺は迷宮探索士の試験を受けることにした。とりあえず、試験に全力で挑戦してみるか。

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