第166話 一週間の待機処分

 一週間、自宅での待機を命じられた。これはダンジョンに資格を持たずに侵入した件に関する処分ではなくて、後で正式な処分が課される予定だそうだ。


 俺たちがダンジョンの下層まで行ったと報告したところ、色々と話し合いが必要になったらしくて、その間は自宅で大人しく待機しておくようにという一時的な措置を取ることになった。どういう処分にするのか、これから話し合って決めるのだろう。


「しばらくは、家に居てくれるのね!」

「それなら安心だな」

「うん。家で、じっとしておくよ」


 自宅待機することになって、母親と父親は喜んだ。それほど心配をかけてしまったことを自覚して、しばらく俺は心配をかけないように大人しくしておくことにする。




 一週間の自宅待機中、ダンジョンでの行動やら戦闘記録をまとめて提出するようにという課題を与えられた。ちゃんと記録を取っていたので、それらのデータをまとめるだけの簡単な作業で、サッと終わらせた。


 約一日で、十数ページの攻略に関する報告書が完成した。それを謹慎明け、先生に提出する。これで課題は終わった。その他、特にすることもなかったので家事手伝いなどをして、自分の家で久しぶりに落ち着いた日々を過ごすことに。


 最近ずっと、ダンジョンを攻略したり、準備するのが楽しくて夢中になっていた。振り返ってみると、両親と過ごす一緒に時間が少なくなっていたかも。今回の機会を活かして、両親と積極的に会話をしてみたり。


 やはり、かなり心配をかけていたようで反省する。




 外に出ることはなるべく控えるように言われ、自宅謹慎の期間中は他の生徒たちと連絡を取ることも禁止されていた。そんな状況で時間を持て余していた俺は、将来について色々と考えるのに時間を費やした。


 おそらく、今回の件で俺は学校を退学処分になるだろうと予想している。ちょっと前に調べてみた情報によると、許可もなく勝手にダンジョンへ侵入することは法律に違反するような行為であるということ。それだけでなく、俺たちは迷宮探索士の資格を持たずに中層以降まで潜ってしまった。


 全て隠さず正直に話したので、ちゃんと把握されているたろう。いまさらになって言い逃れは出来ない。それが事実だったから。


 しかし、あの時ネコたちを見捨てることは出来なかった。彼女たちが危険に陥っているかもしれないのに、無視して助けに行かないという選択肢は頭の中に無かった。


 その選択に間違いはなかっただろう。今も後悔はない。俺は無事に生きて地上へと帰ってこれて、ネコや仲間たちも助けられた。ついでに生徒も助けることが出来て、今回の出来事で死人はゼロ。十分な成果だと思っている。


 学校を退学になってしまったなら、迷宮探索士の道は諦めることになるだろうな。迷宮探索士の試験を受けるためには、学校を卒業しなければならないから。もう一度試験を受けて、入学し直すという方法もあるのかもしれない。だが、そうすると時間がかかり過ぎてしまう。


 それなら今回は、すっぱり諦めてしまうのも良いだろう。絶対に迷宮探索士になりたいと思っているわけでもない。


 迷宮探索士の道を諦めるとして、他に何の仕事をしようか悩む。


 どうやって生活費を稼ごうかな、と俺は考える。婚約者もいるので、なるべく早く仕事を見つけて働けるようにしておきたい。生きていくのに苦労しないような生活の基盤を整えていきたい。


 前世の経験を活かして、料理人として生きていくのが一番簡単だろうとなと思う。腕を磨き直す必要はあるけれど、すぐに前の実力に戻せると思う。でも今回は、違う職種で働きたいとも考えていた。


 料理人としては、前世で十分に働いたから。これから先、数十年ぐらい続けて働くことになると考えたら、正直に言って同じような仕事は飽きてしまいそうだ。


 出来ることなら、前世とは違う職種の仕事に就きたいと考えている。でも、出来る仕事が無さそうなら料理人という選択もアリだろうな。経験済みであり、活躍できる自信のある能力がある。


 やりたいことが見つからなくても、やれることならある。おかげで不安にならず、余裕を持って将来のことを考えることが出来ていた。




 そういえば俺が迷宮探索士を目指すキッカケとなったのは、ダンジョンの最下層にあると言われている”願いを叶えてくれるアイテム”というものを入手するため。そのアイテムを使って、転生についての謎を究明しようと考えたから。


 まぁでも、迷宮探索士の資格を取得することが出来なければ諦めるぐらいの気持ちだった。そんなアイテムが存在するのかどうかも不確かだし、そのアイテムで転生の謎が解明することが出来るのかどうかも、非常に可能性が低そうな話だったから。


 今回の件で、ダンジョンに関する情報をそこそこ入手できた。その情報を使って、ダンジョンに一人で侵入して最下層を目指すという強硬策も考えてみた。その計画を実行して、誰にも見つからずに最下層へ行っても大丈夫そうだという自信もある。


 しかし、何が起こるかわからない。今回の件で両親に迷惑を掛けてしまったから、これ以上は迷惑なことをして困らせたくなかった。もう許可なく勝手にダンジョンへ入ることは、やめておこう。


 だから、迷宮探索士の道もスパッと諦めるか。それで両親を心配させていたから、安心してもらえる仕事のほうが良いだろう。


 まだ学生で若い俺には、人生の方向転換する時間的な余裕もある。これから先の、新たな人生を歩むのも悪くない。何度も転生を繰り返してきた俺にとっては、人生の切り替えなんて得意分野だった。


 そんな風に将来のことについて考えながら、一週間の自宅謹慎の日々を過ごした。そして待機期間が終わって俺は今日、久しぶりに学校へ足を運ぶ。

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