第163話 指示に従う者たち
「高木、鈴木は下がって」
「お、おう!」「う、うん。わかった」
前線に立ちモンスターと向かい合っていた高木と鈴木という名の生徒たちが、俺の指示に従って、慌てながらもパッと後ろへ下がる。十分な余裕を持って動けているので、あれなら大丈夫そうだ。
「交代で、ネコがフォローに入ってトドメを!」
「了解」
2人の男たちが下がったタイミングに合わせて、指示した通り即座にネコが空中へ飛び上がって巨大なモンスターの頭上から剣を突き刺し、トドメを刺す。予定通りの動き。
「ギャオォォォ!?」
意識外からの攻撃で致命的な一撃を受けたモンスターは、絶叫を上げて暴れながら地面に倒れると絶命した。完璧に戦闘をコントロールできている。
「みんな、今のうちに前に進め。田中くんは、今の戦闘で他のモンスターが近付いてこないか警戒を。大内さんは最後尾で警戒しておいて。下からモンスターが接近してこないか注意を」
「おう」
「了解したよ、リーダー!」
「青柳さんの指示に従って、お前ら急げ!」
階段の前で通りたい道を邪魔していたモンスターの排除が無事に成功した。その後すぐ、離れた場所で待機していた者たちに呼びかける。
田中くんが先頭に立ってみんなを導きながら、安全を確保できた道を進む。そして最後に、大内さんとネコが一緒に前へ進んだ。
「良し。全員無事だな」
最初は俺の指示にぎこちなく従っていた彼ら。だが今は、しっかりと命じた通りに動いてくれる。戦闘能力は不十分だけど、与えた役割の通りにモンスターと対峙してくれた。
このまま指示に従ってくれれば、なんとか全員を無事に地上へと帰還させることが出来るだろう。
今回の戦闘でも、12人全員が怪我することもなく無事に前へ進むことが出来た。これを地上にたどり着くまで繰り返せば良いだけ。
普段の4人組パーティーでのダンジョン攻略とは違って、今日はとても人数が多いから慎重に指示していく。戦況を全て把握しながら、合計12名ものメンバーで協力して進んできた。
俺は常にメンバー全員に目を配って、危険がないように注意してダンジョン攻略を進めていく。いつも一緒にダンジョンを攻略しているメンバーのネコたちに加えて、今日は他のパーティーで活動している者たちも一緒に。
ネコ、田中、大内の三人と比べると他の者達の戦闘能力は、やはり劣っている。
動きは鈍くて体力も少ない。そんな中から指示に従って動ける者を何人か選んで、サポートとして戦闘に参加させていた。彼らにも協力させて、余計な動きをさせないように集中させる。
戦いに参加すると危なそうな者たちは、とにかく周囲の警戒を徹底させる。危ない場面では後ろに下げて待機させながら、投石などで援護させて敵のターゲットを分散させる役割を与えた。かなり安全に配慮しながら行動させる。
その結果、今のところ怪我人もなく順調に階層を上がることが出来ていた。しかし油断は禁物である。
「近くにモンスターは居ないようだ。みんな、こっちに来ても大丈夫だぞ」
田中くんが偵察してくれた結果、安全だという報告を受ける。みんなが安堵して、すぐ移動を開始する。先頭から順番にネコと田中くんが進んで、その次に生徒たちが警戒して前進させる。その後ろで指示を出したり、さらなる警戒をするのが俺の役割だった。
「大丈夫そうだな。大内さんも先に行って」
「うん。リーダーも、早く」
モンスターが近くに居るかどうか、俺も一緒に周囲の観察を続けていた。田中くんの感知能力は以前と比べて成長しており、彼の偵察結果だけでも十分そうだった。
「近くにモンスターの気配は感じない。しばらくは大丈夫そうだぞ、リーダー」
「よし。なら、ちょっと休憩しようか」
俺たちは、大きく広い場所に出てきた。田中に周囲を偵察してもらった結果、近くにモンスターは居ないようだ。俺も同じく、モンスターの気配は感じない。ここなら安全そう。
ここまでかなり順調に進んでこれたけれど、そろそろ同行者の体力は限界が近そうだった。今の彼らの状態で、これ以上先に進むのは難しそう。一度休憩をとらないといけないだろう。
時計を確認してみると、既に夜の11時を過ぎていた。体力の消耗に加えて眠気も強くなっていそうだ。
「き、きゅうけい……」
「ようやく……」
「つかれたぁ……」
休憩するという俺の言葉を聞いて、安堵する者たち。
「食事を用意するよ」
「うん。楽しみ」
夕方から何も食べずに進んできた。腹ペコだったのだろう、ネコは期待の込もった表情で強く頷いていた。
「もちろん、君たちの分も」
「ッ! 本当か?」
食事を用意すると言うと、驚いた顔を浮かべていた。一応、今は仲間として一緒にダンジョン攻略を進めているのだから、もちろん彼らを邪険に扱うことはしない。
「すまなかった」
「俺たちのせいなのに……」
「何から何まで……」
謝罪するぐらいなら、あんな馬鹿なことをしなければよかったのに。そんな言葉だけで許せるはずもない。そう思っても、今はそれを口には出さないでおく。そして、アイテムボックスの中に備えておいた食料を取り出して、彼らに分け与えた。
「だ、ダンジョンの中でこんなに美味そうな食事が……!?」
「しかも、温かい」
「匂いもスゲェいい。腹がペコペコだ」
ダンジョンの中でも使えるように改造しておいたカセットコンロや、他にも色々な調理器具を駆使して料理した。その様子を興味津々で見ていた彼らは、驚いた表情を浮かべていた。さらに完成した料理を目の前にして驚く。
「ほら、どうぞ」
「うまそうだ。相変わらず、料理が上手いよリーダーは」
「本当にね。理人くんの料理の腕前を知ると、料理が得意って公言できないわね」
「いただきます」
ダンジョン攻略の訓練メニューの中に、野営訓練というものがある。ダンジョンの中で何日間か過ごすという内容だ。その時に俺は、前世で鍛えた料理をパーティーのメンバーに振る舞ったこともあった。その時に田中くんと大内さんは、俺が料理上手だというのを知っているので驚きは少ない。
毎回、俺が料理を振る舞うたびに美味しいと褒めてくれる。
そしてネコには訓練以外にも、プライベートで何度も俺の手料理を振る舞ったことがある。彼女は俺の料理を、ものすごく気に入っていた。そんなネコは、俺の料理が完成した瞬間、真っ先に自分の分の料理を確保すると誰よりも早く食事を始めた。
「こ、これ、俺たちも食べて良いのか?」
「もちろん。どうぞ」
今日は色々な事があって、ダンジョンを歩き続けてきたから彼らも腹ペコだろう。そんな空腹であろう彼らの目の前に料理を出してきて、食べたら駄目だと命令をするような鬼畜ではない。もちろん、どうぞと俺の料理を振る舞う。
「う、うめぇ……」
「こんなの、お店のクオリティーじゃん」
「バクバクバクバク」
料理を口にした瞬間、彼らは今日初めての笑顔をみせた。美味いと言って、食べてくれている。ようやくリラックスしてくれたようだ。ちゃんと休憩もできそうだな。この後の戦いでも、役立ちそうではあるか。
それから、その日の夜は12人で交代しながら周囲の警戒を続けつつ順番に睡眠を取っていった。アイテムボックスの中に入れておいた野営用の寝具も役立ち、みんなの疲労も十分に回復した。
「じゃあ、行こうか」
「「「「了解!」」」」
そして翌朝、なるべく早く地上へ帰れるように急いでダンジョン攻略を再開する。
メンバーのみんなで強敵との戦闘を繰り返して戦闘に慣れてきた。危機も乗り越えて、彼らは成長したようだ。戦いに慣れて、危なっかしい場面は段々と少なくなる。地上に近付いているからモンスターも弱くなっている、という理由もあるけれど。
もうすぐ、全員無事に地上へ帰還することが出来そうだ。
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