第159話 彼女たちの後を追い、ダンジョンへ
携帯に届いたメールを何度も確認していると、電車が家近くの駅に到着していた。俺は急いで電車から降りて、駅のホームに立つ。すぐに大内さんへ電話をかけた。
『おかけになった電話は、電波の届かない場所にある、または電源がはいっていないためお繋ぎできません』
「……くっ」
携帯電話から返ってきたのは、そんな言葉だった。ダンジョンに居るのだとしたら、当然か。メールを送ってきた直後に彼女は、ダンジョンの中に入ってしまったようだ。だから携帯の電波も届かず、繋がらない。
パーティーのメンバーである田中くんが、なぜ1人でダンジョンに潜ったのだろうか。そして、なぜ大内さんが後を追ったのか。
送られてきたメールには”私達”と書かれている。ということは、大内さんは1人だけでなく誰かと一緒にダンジョンに潜ったということなのか。仲間であるネコと一緒に居る可能性は高そうだ。だとしても、心配である。
念のために田中くんとネコにも電話したが、繋がらなかった。彼らもダンジョンの中に居るというのか。
とにかく、色々と確認をするためにも学校へ戻ったほうがよさそうだ。俺は急いで反対側のホームに停まっていた電車に乗り込み、Uターンした。
「管原先生!」
「うぉっ!? ど、どうした、青柳。そんなに急いで」
大急ぎで学校に戻ってきてから、まず最初に担任である管原先生のもとへ確認しに来てみた。俺は猛スピードで職員室に飛び込んだ。それを見て驚いた表情を浮かべる先生の反応に構うことなく、誰かが今日ダンジョンに潜ったかどうかを聞いてみる。
「いいや、今日は誰も潜っていない筈だが。確認してみたら、ダンジョンに入る申請はなかったぞ」
「本当ですか?」
管原先生に聞いてみたところ、今日は誰もダンジョンには入っていないという事を確認して教えてもらった。だがしかし、そうするとメールの内容はどういうことなのだろうか。
「どうかしたのか?」
「実は」
俺は送られてきたメールを見せて、正直に先生に報告することにした。
もしかすると、メールの内容は何かの間違いで実際はダンジョンの中に誰も入っていないかもしれない。だけど、もしもメールの内容が本当だったのならば、報告しておかないとマズイことになるだろう。
ダンジョン上層に生息しているモンスターであれば、田中くんや大内さんが1人で戦って勝つことも可能。けれど、ダンジョン内部では何が起こるかわからない。
無事に生きて帰ってこられるのかどうか、心配だった。
それに、彼女が普段の攻略時に使っている武器は俺が受け取り管理している。今も大内さんの武器がアイテムボックスの中に入っている。つまり彼女は、武器を持たずダンジョンに潜ったのか、いつも使っているものとは違う武器を装備して中に入っていったのか。それは分からない。
大内さんだけでなく、田中くんの事も心配である。
メールの内容から、田中くんの後を追った大内さんは1人だけではなさそうだし。ネコにも何度も電話で連絡をしてみたところ、そちらとも繋がらなかった。
電話が繋がらないその2人は今、一緒にダンジョンの中に居ると思う。
「青柳、どうやら誰かが無許可でダンジョンに入ったようだ。目撃者が居るらしい」
「本当ですか!?」
俺が報告したメールを見て、さらに先生が確認してみたところ、ダンジョンの中に入って行く人たちを見た生徒が居るらしい。申請はなかったので、その人たちは無断でダンジョンに入ったということ。
「今すぐに捜索隊を!」
「あ、い、いや。もちろん、無断で入ったのなら連れ戻さないといけないが。今から緊急で捜索できるメンバーを集めて、準備する必要がある。だから、今すぐには」
捜索隊の派遣をお願いすると、困ったという表情を浮かべる管原先生。今すぐには無理だと言われてしまった。ならば、自分で解決しよう。
「俺が行きます。明日のために準備をしておいたダンジョンの攻略装備があるので、すぐに向かうことが出来ます!」
「は? いや、しかし。まだ生徒である君に任せるなんて、そんなこと」
捜索隊は今すぐには出せない。ならば俺が代わりに探しに行こうと立候補すると、難色を示される。そういう反応が返ってくるだろうと、予想はしていた。
そこで俺は引かずに、強気で主張する。
「一刻を争う事態です。すぐに動かないと、まずい状況になるかもしれない!」
「流石に、中層や下層まで行かないだろう。それなら」
「彼女たちは、許可なくダンジョンの中に入っているんですよ!? どこまで潜ろうとしているのか、わからないじゃないですか」
「それは、確かにそうだが……」
「俺なら、今すぐに潜って追いつけるはずです。絶対に連れ戻してくるので、許可をください!」
「う、いや、だが」
やはり駄目か。しかし、仲間を見捨てることは出来ない。必死で許可をしてくれとお願いし続ける。
もしもの場合には、先生の許可がなかったとしても行くつもりだったが。
「無理は絶対にしません。危ないと感じたら、すぐに撤退します。学校で習ってきた方法で、しっかりと対処してみせますよ」
「……わかった。無理をしないのであれば」
先生の目をジッと見つめて、視線を外さない。そして、なんとか許可を貰うことが出来た。これで問題はなくなった。
「はい! それでは、行ってきます!」
「え? あ、お、おい! まさか、1人で行くつもりか!? まてっ!」
先生からの許可を得た瞬間に、俺は職員室から飛び出してダンジョンに向かった。後ろから呼び止めるような声も無視して、走る。準備は既に万端だった。彼女たちがダンジョン内部のどこに居るのかわからないけれど、絶対に見つけ出してみせる。
ダンジョンの入り口まで、飛ぶような勢いで走ってくるとスピードを落とさず中に突入した。いつもと違って、初めて1人でダンジョンの中に入る。
人の気配を感じれるように、走りながら精神を集中させる。付近に、モンスターの気配しかない。彼女たちは、もっと奥に進んでいったのだろうか。
田中くんと大内さんは、どうしてダンジョンの中に? そんな疑問はあるけれど、今は考えずに洞窟のような土壁のダンジョン内を走って進んでいく。
遭遇するモンスターも無視して、戦闘を避けながら奥へ奥へと突き進んでいった。そして俺は、ある地点まで到着して一度立ち止まった。
「もしかして、大内たちはこの先に……?」
ここから先は、立ち入りが禁止されているはずの中層になる。ここまで人の気配を感じることはなかった。見落としはないはずだが。やはり、大内さんたちはここから更に先へと進んでしまったのだろうか。
彼女たちがこの先に居る可能性を考えて、迷宮探索士の資格が無いと入るのが禁止されている奥へ進んでいく。ルール違反も気にせずに前へ進んだ。
これで俺は、迷宮探索士の資格を得ることが出来なくなるかもしれないな。危険なことに関わらないと約束した両親も、心配させてしまうかもしれない。だとしても、仲間の危機を見過ごすわけにはいかない。
「ん?」
ダンジョン中層を走って進んでいると、地面に真っ白なハンカチが落ちているのを発見した。人の気配はないけれど、人が居た形跡を見つけた。走り寄って、落ちていたものを拾い上げる。
そのハンカチに、俺は見覚えがあった。
「これは、ネコのか」
それは、俺が彼女にプレゼントしたハンカチだった。落としたと言うよりも、目に留まるような場所に置かれていた。視線を先に向けてみると、ダンジョントラップがある。
「これは、ワープトラップ、か」
授業で習った、ダンジョン内に設置されているというトラップがある。薄っすらと魔法陣のような図形が地面に掘られている。これを踏むと、ダンジョン内のどこかに跳ばされるらしい。
そしてこれは、上層で遭遇することのない危険なトラップだった。俺も初めて見るトラップ。ダンジョンのワープなんて、もちろん体験したことがない。
このトラップの先が、一体どこに繋がっているのか分からないから非常に危険だ。大内さんとネコたちは、この先に進んでしまったようだ。ハンカチを落として、俺が後から来てもわかるように目印を置いていた。
なぜなのか。
彼女たちはここまで辿り着き、目的は分からないけれど、ここにあるトラップへと自ら足を踏み入れたようだ。ならば俺も。そう思いながら、目の前にあるトラップに足を踏み入れる。
俺の足が地面に接地した瞬間、目の前がピカッと眩く光った。そして、俺の視界は白色で塗りつぶされた。
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