第157話 怪しい尾行について

 授業が終わって放課後。今日はダンジョンには潜らずに、次回のダンジョン攻略に関するミーティングを行っていた。パーティーメンバーのみんなで集まり話し合う。出現するモンスターの情報を確認したり、進行ルートの再確認、装備チェックなど。


 いつものようにみんなで、ダンジョン攻略に関して色々と確認作業を行っていく。話し合いも進み、確認作業は問題なさそうだ。一段落した所で、次に俺が出した話題というのが、最近尾行されているという件について。


「尾行?」

「そう。放課後、学校から家に帰る途中、駅に向かう道中で誰かがついてくる気配を感じるんだよ。チラッと見たら、俺たちと同じ学校の制服を着てた」


 パーティーメンバーである3人に、尾行について詳細を話した。帰宅途中に誰かの気配を感じた日から、1週間ぐらい同じように学校を出ると駅に到着するまでの間に後ろから誰かがついてくる。しかも、尾行に慣れていないのかバレバレの様子で。


 チラッと見てみたら、俺が今着ている制服と同じ格好。一応、隠れているようだが彼らの視線が俺を捉えて離さない。奴らの目標は、明らかに俺である。


 帰りの道をちょっと変えてみれば、慌ててついてくる。だが、一定の距離から後ろをついてくるだけで他には何もしない。何の目的があって尾行をしているのか、全く意図がわからないという事をみんなに話した。


「実は俺も、誰か後をつけてくる奴が居るのに気付いていた」

「私も」


 田中くんとネコも、同じように尾行されているらしい。どうやら2人も、俺と同じように帰る途中に誰かがついてくるという。尾行してくる人物の姿は見ていないようだが、学校から出た後から気配を感じていたそうだ。


 パーティーメンバーの残り1人である大内さんはどうなのか、視線を向けてみる。彼女は、尾行されているのか。


「うーん。もしかしたら、私もなのかな。気の所為かと思ったけど……」


 そして大内さんは語った。気の所為だと思っていたが、最近誰かがついてきているような気配があったらしい。


 彼女も顔は見ていないらしいが、学校から出た瞬間から。俺たちの時と同じようなシチュエーション。ターゲットは俺ではなく、パーティーメンバーのみんなか。


 だが、気配察知が得意ではない大内さんにも気付かれているほどの下手な尾行か。もしかすると、彼らは俺たちに尾行していることが分かるように、わざと気配を出していたのかもしれない。だけど、それは何故なんだろうか?


「皆も、そうだったのか。尾行の他に、何かやられた人は?」


 3人に聞いてみるが、みんなは首を横に振った。ということは尾行の他には、何も仕掛けてくることはなかったようだ。


「メンバーの戦闘能力とか、情報収集が目的とか?」

「登下校の様子を観察しても、戦闘能力なんて測れないと思うけど」

「うーん。まぁ、そうだよな」


 田中くんが予想した可能性は、低いと思う。学校から出た所を見ていても、能力の高さは測れないだろう。ダンジョンを攻略している最中とか、後ろをついてくる人の気配は感じなかった。情報収集が目的とは思えない。


「……じゃあ、私たちに対する牽制?」

「牽制だとしても、あまり脅威は感じないかな」

「うん。奴ら、そんなに強くなさそうだった」


 ネコの予想も、可能性は低そう。俺や彼女なら、尾行してくる生徒が仲間を集めて襲撃してきたとしても返り討ちに出来る自信があった。


 田中くんや大内さんはトレーニングを積んできて、戦闘能力が飛躍的にアップしていた。今では、生徒の中でもトップレベルの実力が有った。この学校に在籍している生徒であれば、なんとか返り討ちにできるし、数十人が一斉に襲撃してきたとしても逃げ切ることが可能だと思う。


 だから、あれが俺たちへの牽制だとしても意味がなさそうだ。


「とりあえず、私たちを尾行している人達が何かアクションを起こすまでは無視?」

「それでいいと思う。何か仕掛けてきたら、そのときに改めて対処しようか」


 大内さんの意見に同意して、俺たちから手出しをしないようにすることを決めた。もしかしたら、俺たちが反撃するのを誘おうとしている動きなのかも。それで問題を起こして、大事件にしようと考えているのか。


 尾行の件は気にせず放置することにして、何かあったときに改めて対処しようかとみんなで話し合った。


「それじゃあ、次のダンジョン攻略も頑張ろうか」

「あぁ」「うん」「頑張ろうね、みんな」


 ダンジョン攻略も慣れたもので、話し合いが必要なことも少なくなってきた。だが気を抜くこと無く、準備は万端にしておきたいからと毎回行っているミーティングが終わって、今日は解散となった。




 その後、学校から家へ帰る途中メンバー全員が相変わらず尾行されているようだ。他のみんなは気付いていないふりを続けて、無視を決め込んだ。


 俺は、チラリと尾行してくる者たちの顔を確認して素性を調べてみた。その結果、戦闘科の学生であることまでは突き止めた。同級生だけではなく、上の学年の先輩も居るようだった。


 彼らは、学年全体の戦力バランスが悪いから俺達パーティーメンバーを変えるべきだと先生に訴えたり、一緒に勉強している生徒同士なのに抜け駆けしてダンジョンの攻略を進めている協調性がないメンバーだと批判してくる人達だった。


 やはり、パーティーメンバーへの嫉妬なんだろう。けれど周りに何か言われても、気にする必要はない。だから、それ以上は彼らのことも詮索せずに放置をしておく。尾行されていても無視しておくことにした。


 その後も尾行は続いた。けれども結局、彼らが俺たちに何かを仕掛けてくることはなかった。

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